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大質量星が崩壊する際に発生する重力波も検出可能!? コラプサーやブラックホールの謎に包まれたメカニズムの解明へ

2024年09月09日 | 宇宙 space
今回の研究では、大質量星が崩壊する際に発生する重力波について、地球上の観測機器で検出できる可能性を検証しています。

太陽の15~20倍の質量を持つ高速回転をする恒星は、燃料を使い果たすと崩壊し最終的に“コラプサー”と呼ばれる現象で爆発します。
この爆発により中心にはブラックホールが形成され、その周囲には物質(恒星の残骸)による降着円盤が残ります。

降着円盤からは冷えた物質が急速にブラックホールへと落ち込んでいくことになり、その過程では強力な重力波が発生します。
その重力波が、“LIGO”や“Virgo”といった重力波望遠鏡によって観測できる可能性があるそうです。

このような重力の検出により期待されているのが、コラプサーやブラックホールの謎に包まれたメカニズムの解明なんですねー

これまで、重力波は主に恒星質量ブラックホールや中性子星といった、高密度天体の合体によって検出されてきました。
でも、今回のシミュレーション結果が示唆していたのは、コラプサーも検出可能な重力波の発生源となり得ることでした。

もし、コラプサーによる重力波が検出されれば、重力波天文学における新たな発見となり、宇宙の進化や星の終焉に関する理解を深める上で重要な一歩となります。
この研究は、国立天文台の天文シミュレーションプロジェクト“CfCA”の客員研究員Ore Gottliebさんを中心とする研究チームが進めています。
本研究の成果は、アメリカの天体物理学雑誌“Astrophysical Journal Letters”に“In LIGO's Sight? Vigorous Coherent Gravitational Waves from Cooled Collapsar Disks”として掲載されました。DOI: 10.3847/2041-8213/ad697c
図1.回転する大質量星が死んだ後、中心ブラックホールの周りに物質の円盤が形成される。本研究では、物質が冷えてブラックホールに落ち込むと、検出可能な重力波が発生することを示唆している。(Credit: Ore Gottlieb)
図1.回転する大質量星が死んだ後、中心ブラックホールの周りに物質の円盤が形成される。本研究では、物質が冷えてブラックホールに落ち込むと、検出可能な重力波が発生することを示唆している。(Credit: Ore Gottlieb)


大質量星の崩壊により起こる現象

今回の研究の対象となった重力波は、太陽の15~20倍の質量を持つ高速回転をする恒星の激しい死の後に発生します。

このような恒星が、進化の最終段階で鉄の中心核を作ると、鉄は宇宙で最も安定した元素なので、それ以上は核融合を行えなくなってエネルギーを作り出せなくなります。

恒星は、中心核で起こる核融合反応により自らエネルギー(外向きの圧力)を生成することで、重力(内向きの圧力)によって潰れるのを回避しています。
なので、核融合ができなくなると重力によって潰れる“重力崩壊”を起こすことになります。

この重力崩壊によって中心核の密度が十分高くなると、外側から落ちてくる物質を中心核で跳ね返して“II型超新星爆発”を起こし、コラプサーと呼ばれる現象が発生します。

そして、後に残されるのがコンパクトな天体“ブラックホール”と、その周りを渦巻く物質の大規模な降着円盤です。
わずか数分間続く物質の渦巻きは非常に大きく、周囲の空間を歪ませ、宇宙全体に伝わる重力波を発生させます。

本研究では、最先端のシミュレーションを用いて、これらの重力波が“LIGO”のような重力波望遠鏡で検出できる可能性があることを突き止めています。
“LIGO”は、2015年にブラックホール同士の合体に伴って放出された重力波を、初めて直接観測しています。

もし、重力波の検出に成功すれば、コラプサーを起源とする重力波は、コラプサーやブラックホールの謎めいたメカニズムを理解するのに役立つはずです。


天体同士の合体以外で検出可能な重力波源

これまでに検出されている重力波源は、中性子星や恒星質量ブラックホールといった2つのコンパクトな天体の合体に由来するものでした。

それでは、天体の合体以外に、現在の重力波望遠鏡で検出できる重力波の発生源は存在するのでしょうか?
存在するとしたら、どのような発生源になるのか、この興味深い疑問の答えの一つがコラプサーです。

今回の研究では、大質量で回転する恒星について、磁場や冷却速度を含む崩壊後の状態をシミュレーションしています。
その結果分かったのは、コラプサーが約5000万光年離れた場所からでも検出できるほど強力な重力波を発生させる可能性があることでした。

この距離は、ブラックホールや中性子星の合体によって発生する、より強力な重力波の検出可能範囲の10分の1以下のものです。
それでも、これまでにシミュレートされたどの合体以外の現象よりも強力なものでした。

この発見は驚くべきものでした。
それは、宇宙のあらゆる方向から伝わる多数の重力波がごちゃまぜ状態になっているからです。
その中からコラプサー由来のものを識別するのが難しいと考えられていたんですねー

オーケストラのウォーミングアップを想像すると分かりやすいかもしれません。
それぞれの演奏者が自分のパートを演奏しているときは、フルート1本またはチューバ1本から聞こえてくるメロディーを聞き分けるのは難しいかもしれません。

一方、2つの天体の合体による重力波は、オーケストラが一緒に演奏するような、明確で強い信号を作り出します。
これは、2つのコンパクトな天体が合体しようとしているとき、お互いの周りを螺旋軌道を描いて回転し、接近するにつれ重力波を発生させるためです。
このほぼ同一の波のリズムが信号を増幅し検出できるレベルにします。

新しいシミュレーションでは、コラプサーの周りの回転する円盤も合体するコンパクトな天体と非常によく似た形で、一緒に増幅する重力波を放出できることが示されました。

降着円盤内の物質は、ニュートリノ放射などのメカニズムによって冷却されます。
冷却が進むにつれて円盤の温度が低下し、物質がより密度の高い状態へと変化していきます。
シミュレーションでは、冷却の強さを変化させることで、固着円盤の構造と重力放射への影響を調べています。

当初、円盤は異なる軌道上を回転する物質を持つ連続的なガスの分布になるので、信号はずっと乱雑なものになるだろうと思われていました。
研究チームは、これらの円盤から重力波はコヒーレントに放射され、また非常に強いものになることを発見しています。


コラプサー現象から発生する他の信号の検出

この円盤からの予測信号は“LIGO”で検出できるほど強いだけでなく、研究チームによると既存のデータセットの中に既にいくつかの現象が含まれている可能性があるそうです。

また、“Cosmic Explorer”や“Einstein Telescope”といった次世代の重力波望遠鏡があれば、1年に数十個の現象を発見できる可能性もあります。

このため、重力波のコミュニティは既にこれらの現象の探索に興味を持っていますが、それは簡単なことではないようです。

今回の研究では、考えられるコラプサー現象の数を控えめに設定して、重力波の兆候を計算しています。
でも、恒星の質量と回転のプロファイルは様々あるので、計算される重力波信号にも違い生じるはずなんですねー

原則として、一般的なテンプレートを作成するには、100万個のコラプサーをシミュレートとするのが理想的です。
残念ながら、これらは非常にコストのかかるシミュレーションなので、今のところ別の手法をとる必要があります。

そこで気になるのが、本研究でシミュレートしたものと似たような現象が、過去に発生していないかということです。
過去のデータを見ることもできますが、恒星の質量と回転のプロファイルは様々です。
それぞれが固有の信号を持っている可能性があるので、シミュレートされた信号のいずれかと一致するものが見つかる可能性は低いはずです。

もう一つの手法として、超新星やガンマ線バーストなど、近くのコラプサー現象から発生する他の信号を使用して、データアーカイブを検索し、その領域でほぼ同時に重力波が検出されなかったかどうかを確認することです。

コラプサーから発生した重力波を検出することができれば、崩壊時の星の内部構造をより深く理解することができるとともに、ブラックホールの性質についても知ることができます。

どちらも、まだよく分かっていないテーマで、これらの検出はできていません。
ブラックホールを取り巻くこれらの星の内部領域を研究する唯一の方法は重力波によるものです。

コラプサー降着円盤からの重力波は、これまでの重力波源とは異なる特徴を持つ、新たな種類の重力波源です。
その検出は、恒星の進化と死、ブラックホールの性質、そして重力理論の検証など、天体物理学の様々な分野に多大な貢献をもたらす可能性があります。
今後の観測と研究の進展により、コラプサー降着円盤からの重力波が、宇宙の謎を解き明かすための強力なツールとなることが期待されます。


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なぜ、初期宇宙に超大質量ブラックホールが既に存在しているのか? ダークマターの崩壊による水素分子の分解が原因かも

2024年09月05日 | ブラックホール
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の登場により、宇宙の歴史の初期段階において超大質量ブラックホールが存在することが明らかになりました。

通常、ブラックホールの形成には、巨大な恒星が燃え尽き、その核が崩壊するまでに数十億年かかります。
そのブラックホールも、物質の降着やブラックホール同士の合体、銀河同士の合体によって時間をかけて超大質量ブラックホールに成長していきます。

それでは、なぜ初期の宇宙に超大質量ブラックホールが存在しているのでしょうか?
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による発見は、従来の形成理論では説明がつかないことだったんですねー

そこで今回の研究で調べたのは、ダークマターがこの謎を解くカギを握っている可能性でした。
ダークマターが水素の冷却を遅らせることで、巨大なガス雲の形成を促進したと考えた訳です。

通常、水素は急速に冷却して小さなハローを形成します。
でも、ダークマターが崩壊し放出される放射線が水素分子を分解することで、ガス雲が急速に冷却して小さなハローに分裂するのを防いだとすれば、ガス雲は十分な大きさの雲を形成できるようになるはずです。

これにより、巨大なガス雲からは恒星ではなく、超大質量ブラックホールを直接形成することが可能になった可能性があります。

このプロセスは、巨大なガス雲が崩壊して超大質量ブラックホールを直接形成するもの。
この発見は、初期宇宙における超大質量ブラックホールの形成を説明するだけでなく、ダークマターの性質と初期宇宙における構造形成を理解する上で重要な手掛かりとなる可能性があります。
この研究は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校博士課程の学生Yifan Luさんを中心とする研究チームが進めています。
本研究の成果は、アメリカ物理学会の発行するアメリカ物理学専門誌“Physical Review Letters”に、“Direct collapse supermassive black holes from relic particle decay”として掲載されました。DOI:10.1103 / PhysRevLett.133.091001
図1.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえたクエーサー“J0148”。2つの挿入図は、上が銀河中心ブラックホール、下がホスト銀河からの恒星の放射を示している。(Credit: MIT/NASA)
図1.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえたクエーサー“J0148”。2つの挿入図は、上が銀河中心ブラックホール、下がホスト銀河からの恒星の放射を示している。(Credit: MIT/NASA)


これまで考えられていた超大質量ブラックホールの形成シナリオ

天体物理学の分野では、私たちの天の川銀河の中心に位置する“いて座A*”のような超大質量ブラックホールの形成には、膨大な時間がかかると広く認識されています。

太陽の8倍以上の質量を持った恒星が進化の最終段階で鉄の中心核を作ると、鉄は宇宙で最も安定した元素なので、それ以上は核融合を行えなくなってエネルギーを作り出せなくなります。

恒星は、中心核で起こる核融合反応により自らエネルギー(外向きの圧力)を生成することで、重力(内向きの圧力)によって潰れるのを回避しています。
なので、核融合ができなくなると重力によって潰れる“重力崩壊”を起こすことになります。

この重力崩壊によって中心核の密度が十分高くなると、外側から落ちてくる物質を中心核で跳ね返して“II型超新星爆発”を起こすと考えられています。
この爆発の後に残されるのがブラックホールです。

これが広く受け入れられているブラックホールの形成シナリオです。
でも、このプロセスで生じるブラックホールは約10太陽質量ほど…
観測されている数十億太陽質量の超大質量ブラックホールと比較すると、取るに足らないものと言えます。

それでは、これらの超大質量ブラックホールは、どのようにして形成されたのでしょうか?

有力な仮説の一つに、小さなブラックホールがガスや星を降着させることで徐々に成長し、これらのブラックホールが互いに合体して質量がさらに増加するというものです。

でも、このプロセスにかかる時間は数十億年という膨大なものと考えられています。
宇宙の歴史の比較的早い段階でジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によって観測された超大質量ブラックホールの存在と矛盾することになるんですねー


巨大なガス雲が重力によって収縮する直接崩壊

初期宇宙における超大質量ブラックホールの急速な形成に対処するために提案されたのが、“直接崩壊”というモデルです。
このモデルは、巨大なガス雲が重力によって収縮し、星形成という中間的な段階を経ずに直接ブラックホールを形成するというものです。

でも、このシナリオにも乗り越えなければならない課題がありました。

直接崩壊モデルを難しくしているのは、ガスが断片化して分離した小さなハローを形成するのではなく、巨大なガス雲となったところで崩壊して一つの中心ブラックホールを形成すること。
この断片化は水素分子(H2)の急速な冷却の結果として起こるので、H2形成の抑制が直接崩壊に不可欠と考えられています。

ただ、断片化なしに崩壊を成功させるには、直接解離または過剰加熱のいずれかが必要となります。
この問題の本質は、過剰な加熱または解離に必要な放射を、比較的軽い粒子の崩壊によって供給できるかどうかというものです。


ダークマターの崩壊が水素分子の形成を抑制している

今回の研究では、この難問に対する興味深い解決策を提案しています。
それは、ダークマターの崩壊が水素分子の形成を抑制し、直接崩壊を促進する上で極めて重要な役割を果たしているというものです。

宇宙の質量の大部分を占めているダークマターですが、その構成や性質は大きな謎となっています。
ダークマターは光などの電磁波では観測することができず、重力を介してのみ間接的に存在を知ることができる物質です。
ダークマターの候補となる粒子はいくつか提案されていて、その中には不安定で崩壊して光子を放出するものもあります。

本研究では、ダークマターの崩壊によって放出される光子が、初期宇宙の水素ガス雲の冷却効果を抑制する可能性があると考えています。

水素分子が特定のエネルギー範囲の光子を吸収すると、結合が破壊され冷却効果が低下します。
このプロセスにより、ガス雲は断片化することなく重力によって収縮することができ、最終的に超大質量ブラックホールを形成することができます。


超大質量ブラックホールの形成におけるダークマター崩壊の重要性

これらの仮説を検証するため、本研究では初期宇宙におけるガス雲の進化をシミュレーション。
これには、ダークマターハローの断熱収縮と雲内での光子の生成が考慮されています。

その結果、特定のエネルギー範囲の放射線は水素分子の冷却を効果的に抑制し、ガス雲が大きな塊として崩壊することを可能にしていました。
この発見は、初期宇宙の条件下でのダークマターの崩壊と一致しています。

興味深いことに、シミュレーションではダークマターの崩壊が比較的小さくても、初期宇宙で観測された超大質量ブラクックホールの形成を促進するのに十分な放射線が生成されることが示されました。

これは、初期宇宙における超大質量ブラックホールの形成でダークマター崩壊の潜在的な重要性を強調していて、ダークマターの性質と宇宙構造の進化との間の興味深い関連性を示唆しています。

初期宇宙における超大質量ブラックホールの急速な形成は、現代の天体物理学における大きな課題となっています。
ダークマターの崩壊が、このプロセスで重要な役割を果たした可能性があるという本研究の説は、興味深い解決策となっています。

この説は、ダークマターの性質と宇宙の進化におけるその役割についての理解を深めるための新しい道を切り開き、今後の観測と理論的研究によってさらに検証されるべき重要な研究球対象と言えます。


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太陽系外縁部を航行する探査機“ニューホライズンズ”が宇宙の深淵を照らし出す微かな光“宇宙背景放射”を直接観測

2024年09月03日 | 宇宙 space
宇宙は、無数の銀河や星々が輝きを放つ広大な空間ですが、目に見える光を超えた“暗黒”が広がっています。
この暗闇の深淵を照らし出す微かな光、それが宇宙背景放射(COB)です。

宇宙背景放射は、宇宙の歴史を通じて生成されたあらゆる光が積み重なり、拡散して観測されるもの。
その起源を解明することは、宇宙の進化と構造を理解する上で極めて重要となります。

長年、天文学者たちは宇宙背景放射の強さを正確に測定し、その起源を特定しようと試みてきました。
でも、地球や太陽系内では、太陽光や惑星間チリによる散乱光の影響が大きく、宇宙背景放射の観測は困難を極めていました。

こうした中、新たな希望の光として登場したのがNASAの探査機“ニューホライズンズ”でした。
2006年に打ち上げられた“ニューホライズンズ”は、2015年に冥王星系をフライバイ(※1)し、2019年にはカイパーベルト天体の一つ“アロコス(ArroKoth)”もフライバイしています。
冥王星やアロコスといった太陽系外縁部に位置する天体の探査を成功させ、人類の宇宙への理解を大きく前進させました。
※1.探査機が、惑星の近傍を通過するとき、その惑星の重力や公転運動量などを利用して、速度や方向を変える飛行方式。これにより探査機は、燃料を消費せずに軌道変更と加速や減速が行える。積極的に軌道や速度を変更する場合をスイングバイ、観測に重点が置かれる場合をフライバイと言う。
そして、現在の“ニューホライズンズ”は、太陽系外縁部という特異な環境を利用して、宇宙背景放射の直接観測という新たなミッションに挑戦しています。
太陽系外縁部は、地球から観測する場合に比べると散乱光による影響が少なく、宇宙背景光の観測には適した場所でした。

今回の研究では、宇宙の深淵における光の量を最も精密に直接測定することで、宇宙の暗闇に関する長年の疑問に答えを出したそうというもの。

その結果、明らかになったのは、宇宙の可視光の大部分は銀河から発生していること。
また、現時点では未知の光源からの光は、ほとんど存在しないことも明らかになります。
本研究は宇宙の背景光の謎を解き明かす一歩となるもの、今後の研究球結果が期待されます。
この研究は、ボルチモアの宇宙望遠鏡科学研究所の天文学者Marc Postmanさんを中心とする研究チームが進めています。
本研究の成果は、アメリカの天体物理学専門誌“Astrophysical Journal”に“New Synoptic Observations of the Cosmic Optical Background with New Horizons”として掲載されました。DOI:10.3847 / 1538-4357 / ad5ffc
図1.深宇宙を背景にしたNASAの探査機“ニューホライズンズ”のイメージ図。背景には天の川銀河のレーンが見える。(Credit: NASA, APL, SwRI, Serge Brunier (ESO), Marc Postman (STScI), Dan Durda)
図1.深宇宙を背景にしたNASAの探査機“ニューホライズンズ”のイメージ図。背景には天の川銀河のレーンが見える。(Credit: NASA, APL, SwRI, Serge Brunier (ESO), Marc Postman (STScI), Dan Durda)


太陽系外縁部を航行する探査機と宇宙背景放射

“ニューホライズンズ”は、打ち上げから18年以上が経過した現在も、その探査の手を緩めることなく、太陽系外縁部を航行し続けています。
その距離は、地球から実に約73億キロ以上にも及んでいます。

この広大な宇宙空間における“ニューホライズンズ”の位置は、宇宙背景放射の観測を行う上で、いくつかの大きな利点をもたらします。

その一つは、太陽からの距離にあります。
遠く離れていることで、観測における太陽光の影響を最小限に抑えることができます。

宇宙背景放射は非常に微かな光なので、太陽光のような強い光源があると、その観測は極めて困難になります。
地球と比べてはるかに太陽から離れた位置にいる“ニューホライズンズ”は、太陽光の影響を受けずに、より高精度な宇宙背景放射の観測を行うことができる訳です。

もう一つの惑星間チリによる影響も、地球周辺と比べると大幅に小さくなります。
惑星間チリは、太陽光を反射して散乱させるので、宇宙背景放射の観測の妨げとなります。
“ニューホライズンズ”が航行する太陽系外縁部は、惑星間チリの密度が低い領域になるので、よりクリアな宇宙背景放射の観測が可能となります。

“ニューホライズンズ”には長距離偵察イメージャー“LORRI”という観測装置が搭載されています。
これは、高感度カメラと望遠鏡を組み合わせた観測装置で、遠方の天体や微かな光をとらえることができます。

“LORRI”は宇宙背景放射に特化した設計ではありませんが、その性能の高さと“ニューホライズンズ”の航行位置の利点により、宇宙背景放射の直接観測という重要な役割を担っています。


宇宙背景放射の直接観測と大きな障害

2021年のこと、“ニューホライズンズ”による宇宙背景放射の直接観測が初めて実施されました。

この観測では“LORRI”を用いて宇宙の様々な方向を撮影。
その画像データから宇宙背景放射の強さを測定する試みが行われました。

でも、この最初の試みは予想外の困難に直面することになるんですねー

観測データの解析を進める中で明らかになったのは、天の川銀河から放出された光が星間チリによって散乱され、宇宙背景放射の観測データに混入していることでした。
この散乱は拡散銀河光(DGL)と呼ばれ、宇宙背景放射の強さを正確に測定する上で大きな障害となります。

2021年の観測では、拡散銀河光の影響を過小評価していたので、宇宙背景放射の強度を実際の値よりも大きく見積もってしまいました。
この結果を受けて研究チームでは、拡散銀河光の影響をより正確に除去する手法の開発に着手することになります。


拡散銀河光の推定手法

研究チームは、拡散銀河光の影響という2021年の観測の教訓を踏まえ、2023年に再び“ニューホライズンズ”を用いた宇宙背景放射の観測を実施しています。

この観測では、拡散銀河光の影響をより正確に除去するため、ヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星“プランク”による遠赤外線観測データが活用されました。

“プランク”は全天の宇宙マイクロ波背景放射を精密に観測することを目的とした衛星で、その観測データには拡散銀河光の情報も含まれています。

本研究では、チリの密度が異なる領域の“プランク”による遠赤外線観測データに基づいて、遠赤外線強度と可視光強度の関係を較正。
この較正データを用いることで、“ニューホライズンズ”の観測データに含まれる拡散銀河光の成分を、より正確に除去することが可能になりました。

具体的には、“プランク”の観測データから各観測領域の遠赤外線強度を測定し、遠赤外線強度と可視光強度の関係を表す較正データを用いることで、各観測領域の拡散銀河光の強度を推定しています。
“ニューホライズンズ”の観測データから、推定された拡散銀河光の強度を差し引くことで宇宙背景放射の推定が実現できた訳です。

この新たな拡散銀河光の推定手法により、2023年の観測では2021年の観測と比べて、宇宙背景放射の推定精度が大幅に向上しました。

新たな拡散銀河光の推定手法を用いて解析した結果、2023年の“ニューホライズンズ”の観測で検出された宇宙背景放射の強度は11.16±1.65nW m-2 sr-1ということが明らかになります。
この値は、2021年の観測結果と比べると約32%も低いものでした。

さらに重要な点は、この値が既知の銀河の総光量から予測される宇宙背景放射と矛盾しないことです。
つまり、現時点では未知の光源の存在を示唆する証拠は得られていない、ということになります。


宇宙背景放射測定のアプローチ

これまでの宇宙背景放射の測定は、銀河カタログに基づく推定、VHEガンマ線観測、直接観測という大きく分けて3つのアプローチに分類できます。

銀河カタログに基づく推定は、深宇宙探査によって得られた銀河の個数密度や光度関数に基づいて、宇宙背景放射を推定する方法です。
このアプローチでは、銀河の空間分布や光度進化のモデル化などが複雑なため推定精度に限界があります。

VHEガンマ線観測は、VHEガンマ線が宇宙背景放射と相互作用して減衰することを利用します。
その減衰率から宇宙背景放射の強度を推定する方法です。
このアプローチは、銀河の進化モデルに依存しないという利点がありますが、VHEガンマ線源の数が限られているので統計的な精度に限界があります。

直接観測は、“ニューホライズンズ”のように、太陽光や惑星間チリの影響が少ない環境で直接宇宙背景放射を観測する方法です。
このアプローチは、最も直接的に宇宙背景放射の強さを推定できる方法ですが、観測装置の感度や較正の精度などが求められます。

過去の観測では、銀河カタログに基づく推定とVHEガンマ線観測から、宇宙背景放射の強度は既知の銀河の総光量で説明できるという結果が得られていました。
でも、直接観測による検証は、技術的な困難さから進んでいなかったんですねー

今回の“ニューホライズンズ”による直接観測は、銀河カタログに基づく推定やVHEガンマ線観測の結果を支持するもので、宇宙背景放射の起源を理解する上で重要な貢献を果たしたと言えます。

“ニューホライズンズ”は、今後も太陽系外縁部という特異な環境を生かして宇宙背景放射の観測を継続する予定です。
観測データが蓄積されることで、拡散銀河光推定の精度がさらに向上し、宇宙背景放射の強度の推定誤差が縮小するはずです。

また、将来の宇宙望遠鏡による観測や、より高精度な銀河カタログの作成により、宇宙背景放射に関する理解がさらに深まることが期待されます。


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周期的に恒星から物質を剥ぎ取っている? 銀河中心の超大質量ブラックホールの食事風景を解明へ

2024年09月01日 | ブラックホール
今回の研究では、超大質量ブラックホールが“いつ”・“どのようにして”、物質を獲得し消費するのかを調べています。
用いられたのは、NASAのX線天文衛星“チャンドラ”、ガンマ線バースト観測衛星“ニール・ゲーレルス・スウィフト(旧称スウィフト)”、ヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星“XMMニュートン”のデータでした。

研究の対象となったのは、このようなブラックホールの活動が確認されている“AT2018fyk”。
“AT2018fyk”は、地球から約8億6000万光年彼方の銀河の中心に位置する超大質量ブラックホールで、質量は太陽の約5000万倍もあります。

最新のX線観測データから分かっているのは、“AT2018fyk”が伴星を奪われた恒星を約3.5年ごとに繰り返し部分的に破壊していること。
この恒星は楕円軌道を描いて周回し続けることで、“AT2018fyk”に接近する度に物質をブラックホールに剥ぎ取られているんですねー

その結果、約3.5年ごとにX線と紫外線の増光を観測し、その増光の後に観測されたX線や紫外線強度の減衰は、ブラックホールが“食事”を終えたことを示唆していました。

このブラックホールによる“食事”のパターンは、将来も続くのでしょうか。
そして、恒星の残骸がブラックホールの活動にどのような影響を与えるのでしょうか。
本研究では、ブラックホールによる“食事”の様子を観測することで、ブラックホールとその獲物の間の珍しい相互作用を明らかにしようとしています。
この研究は、マサチューセッツ工科大学のDheeraj Pashamさんを中心とする研究チームが進めています。
本研究の成果は、アメリカの天体物理学専門誌“Astrophysical Journal”とプレプリントサーバーarXivに“A Potential Second Shutoff from AT2018fyk: An updated Orbital Ephemeris of the Surviving Star under the Repeating Partial Tidal Disruption Event Paradigm”として掲載されました。DOI:10.48550 / arxiv.2406.18124
銀河中心に位置する超大質量ブラックホール“AT2018fyk”と伴星を奪われた恒星。この恒星は楕円軌道を描いて周回し続けることで約3.5年ごとに“AT2018fyk”に接近し、その度に繰り返し物質を剥ぎ取られている。(Credit: NASA/CXC/M.Weiss)
銀河中心に位置する超大質量ブラックホール“AT2018fyk”と伴星を奪われた恒星。この恒星は楕円軌道を描いて周回し続けることで約3.5年ごとに“AT2018fyk”に接近し、その度に繰り返し物質を剥ぎ取られている。(Credit: NASA/CXC/M.Weiss)


超大質量ブラックホールと極端な楕円軌道で公転する恒星

ほとんどの銀河の中心には、太陽の100万倍から100億倍の質量を持つ“超大質量ブラックホール”が存在すると考えられています。

私たちの天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール“いて座A*(エースター)”が存在しています。

今回、研究の対象となった“AT2018fyk”は、地球から約8億6000万光年彼方の銀河の中心に位置する超大質量ブラックホールで、その質量は太陽の約5000万倍もあります。

このブラックホールの周囲を極端な楕円軌道を描いて公転している恒星が存在し、両者は宇宙空間で奇妙なダンスを繰り広げているように見えてます。

この恒星の極端な楕円軌道により、ブラックホールとの距離が最も遠い地点(遠日点)と最も近い地点(近日点)で大きく異なっています。
これこそが、“AT2018fyk”で起こる劇的な現象の舞台装置になっていました。


ブラックホールに接近し過ぎた星で起こる潮汐破壊現象

2018年のこと、光学地上観測プロジェクト“ASAS-SN”によって、“AT2018fyk”の明るさが急激に増大している様子が検出されました。

この発見は天文学会に興奮をもたらし、国際宇宙ステーションに搭載されている高精度X線望遠鏡“NICER”、X線天文衛星“チャンドラ”、X線天文衛星“XMMニュートン”といった高性能望遠鏡が“AT2018fyk”に向けられました。
これらの観測データの綿密な分析の結果、この増光の正体は“潮汐破壊現象”だと結論付けられています。

星がブラックホールに十分に接近したことで、ブラックホールの強大な潮汐力に引きちぎられてスパゲッティ化する天文現象を潮汐破壊現象(星潮汐破壊現象)と呼びます。
この現象により、破壊された星の残骸の一部は、ブラックホールに取り込まれることになります。

“AT2018fyk”の場合も、まさに潮汐破壊現象によって星がブラックホールに接近しすぎたため破壊され、その物質がブラックホールに取り込まれていることが考えられます。

ブラックホールに接近した星から剥ぎ取られた物質は、星の残骸とも呼ぶべき2つの潮汐尾を形成。
これらの潮汐尾は、ブラックホールの重力によって引き寄せられ落下していくことになります。

この時、これらブラックホールへ落下する物質は角運動を持つため、超大質量ブラックホールの周囲を公転しながら降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤状の構造“降着円盤”を作ります。

降着円盤内のガスの摩擦熱によって落下するガスは電離してプラズマ状態へ。
この電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは莫大な荷電粒子のジェットが噴射し、そこがらはX線や紫外線などを観測することができます。
これが、“AT2018fyk”で観測された最初の増光のメカニズムです。

そして、ブラックホールが星の残骸を飲み込み終えると、X線と紫外線の強度は徐々に減衰していくことになります。

最初の増光後、生き残った星の核は、ブラックホールの重力によって引き剝がされた物質を再び集め始めます。
でも、すでに多くの質量を失っているので、元の星よりも小さく密度が高い状態になります。


ブラックホールによる周期的な食事

最初の増光から約2年後、“AT2018fyk”は再び天文学者を驚かせることになります。
それは、“AT2018fyk”からのX線と紫外線が再び増大し始めたからでした。

このことが示唆しているのは、最初の潮汐破壊現象で星が完全に破壊されても、すべての残骸がブラックホールに取り込まれていなかったこと。
取り込まれなかった星の一部は、ブラックホールを公転し続けている可能性があることでした。

ただ、この生き残った星がブラックホールに接近すると、再び潮汐力によって物質を剥ぎ取られることになります。
これが2回目の増光の原因と考えられています。

この2回目の増光は、ブラックホールが星を周期的に破壊し、“食事”をしている可能性を強く示唆するものでした。

2023年に発表された論文で研究チームは、ブラックホールによる2回目の“食事”が2023年8月に終わると予測しています。

この予測を検証するため“チャンドラ”を用いた追加観測を実施。
その結果、予測通り2023年8月14日にはX線の強度が急激に減衰していることを“チャンドラ”は観測しました。
この観測結果は、ブラックホールによる星の残骸の取り込みが終わり、活動が低下していることを裏付けるものとなります。

研究チームでは“AT2018fyk”の追跡観測を今後も継続し、このエキゾチックな天体システムの挙動を、さらに詳しく調べる予定です。

ブラックホールは、最終的に星を完全に破壊してしまうのでしょうか?
それとも、星は生き残り続けるのでしょうか?
ブラックホールと星の運命、そしてこの奇妙なダンスの結果は、今後の観測で明らかになるかもしれません。

“AT2018fyk”の観測は超大質量ブラックホールの活動や、ブラックホールと星の相互作用に関する理解を深める上で非常に重要と言えます。

そして、宇宙における極限環境での物理現象を理解するための新たな扉を開くものです。
今後の観測と理論研究の進展によって、この謎多き天体システムの全貌が明らかになる日が来るはずです。


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