加計学園の獣医学部新設が認められ、開学できそうな見通しです。
今回は、時事問題記事として、この件について書きたいと思います。
加計学園問題をめぐってしばしば聞かれたのは、「規制緩和そのものは悪くない」的な議論です。
今回は手続きの面にいろいろ瑕疵があったかもしれないが、規制緩和は基本的にいいことだ。今回の獣医学部新設は、“岩盤規制”に穴を開けたんだ……というやつです。
そこに、私は首をかしげます。
そもそも、「規制緩和は基本的にいいこと」という意見自体に私は反対です。
ある概念が実態を離れて独り歩きしていくことが世の中にはよくありますが、“規制緩和”というのはその典型的な例だと私は考えています。
規制緩和というのは、世の中をよくない方向にもっていくように思えて仕方がないのです。
一つの理由は、公正性の問題です。
規制緩和や民営化というのは、それによって利益を得る民間事業者がいるわけですが、それが政治家と特別な関係を持っていることから得られる特権ではないのか、つまり“えこひいき”なんじゃないかと疑われるような例がどうしても出てきます。
はるか昔の五代友厚の例から、そうでしょう。官有物が破格の条件で民間に払い下げられ、その相手が政界と深いつながりをもつ人物だった……というのは、世間から見れば納得しがたいものがあるわけです。これは民営化の例ですが、規制緩和にも同じような問題がついてまわります。
もう一つは、規制緩和はデフレの誘因になってるんじゃないかということです。
規制緩和というのは、それが何に関するどんな緩和であれ、供給を増やす方向に働くと思われます。供給が増加するのですから、それはデフレの誘因になるでしょう。
まさに今回の加計問題で、政府の側からそういう趣旨の発言も出ています。
山本地方創生相が、7月4日に閣議後の会見で「小動物獣医師の給料を下げるべきと思うか」と問われ、それを肯定した際の発言です。
山本創成相は、「獣医学部の新設によって、獣医師不足が改善される」としています。
公務員である獣医師が不足しているのは、小動物獣医師の待遇がよすぎるからであり、獣医学部を新設して獣医師を増やせば、ペット診療の価格破壊が起きて、この状況が是正される……というわけです。
規制緩和で獣医学部新設→獣医師の増加→価格の低下
という図式です。
ここでは、「規制緩和による獣医師の増加」が「ペット診療の価格破壊」という結果につながる……つまり、規制緩和がある市場をデフレの方向にもっていくという認識が示されています。
これはまさに、そのとおりだと思うんです。
規制緩和は、経済をデフレの方向に引っ張っていくに違いないのです。
日本経済がこの二十数年の間デフレ傾向にあったのも、規制緩和を進めてきた結果だと私には思えます。つまり、規制緩和は、デフレ基調を作ることによって、長い目でみれば経済を地盤沈下させていくのではないか……そんなふうに思えるのです。
そして、こうして起きるデフレは、それによって利益を得る民間事業者がいる一方で、一般の労働者には、失業や賃金低下という負の影響を強く及ぼし、格差を拡大させていきます。
私のリスペクトする経済評論家の内橋克人さんは、その慧眼で、規制緩和論がもてはやされていた当初からそうした問題点を鋭く指摘していました。
内橋さんはジャーナリスト集団「グループ2001」との共著『規制緩和という悪夢』(文春文庫)のなかで、規制緩和が引き起こす問題を以下のように列挙しています。
「富の二極分化、中間層の実質賃金の急激な低下、新規参入企業の失敗、規模の優位性による寡占化の進行、安全性の低下」
どうでしょうか。
これはまさに、この二十数年の間に日本経済に起こってきたことではないでしょうか。
規制緩和が経済をよくする、というのは、幻想ではないのか。
その根本の部分を真剣に疑ってかかるべきときに来ているように私には思えます。