ロック探偵のMY GENERATION

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菜の花忌 この国はいま坂道のどこに?

2018-02-12 12:55:37 | 日記
今日2月12日は、菜の花忌。

歴史作家・司馬遼太郎の命日です。

私も、大学生ぐらいの頃にはよく司馬作品を読んでました。
その後歴史ものからはちょっと遠ざかってしまったのでそれほど熱心な読者でもありませんが、「菜の花忌」という言葉の由来となった『菜の花の沖』も読みました。

 

乱世の英雄的な人物を多く描いたシバリョウではありますが、『菜の花の沖』では商人が主人公で、大阪出身の彼は、やっぱりそういう大阪商人的な気質が根っこにあるのかとも思いました。

そんな「菜の花忌」なんですが、数日前、これに関連してちょっと残念なニュースがありました。

大阪にある司馬遼太郎記念館で菜の花忌にあわせて植えられていた菜の花およそ800本が、切り取られていたというのです。つぼみ状態のものばかりが狙われていて、食用にされた疑いがあるといいます。

このニュースを聞いて私は、なんだかいまの日本を戯画的に象徴しているような事件じゃないかと思いました。

司馬遼太郎といえば『坂の上の雲』なんかも有名ですが、あの作品に描かれていたのは、坂の上を目指して登ってゆく日本でした。

ところが、いまの日本はもう坂を転がり落ちていっているのではないか。

このあいだ白菜を畑丸ごとぶん盗まれたという話もありましたが、いまの日本は貧困が相当に広がり、畑に植えてあるものを根こそぎ盗んで食べるというところまで人心を荒廃させているんじゃないか。

そしてそれが、上昇していく日本を描いた司馬遼太郎の記念館で起きたとしたら、なんとも皮肉なことだと思えたのです。

なんだか最近こんな記事ばかり書いているような気がしますが……
しかし、これも、この国のおかれた現状をまず直視しなければならないと思うがゆえです。
日本が衰退しつつあるというのは、かなり広範に共有されている認識だと思われます。鳴り物入りで作られた「下町ボブスレー」が結局平昌オリンピックで使用されないなどという話もありましたが、“技術立国日本”という看板が名ばかりのものになりつつあるのは否定しえないところでしょう。
過去の栄光にすがってみてもどうしようもありません。
もう、日本の技術的優位というのも幻想にすぎないという現実を踏まえたうえで、じゃあどうするかということを考えなければならない段階にきていると思います。へたに「日本はこんなにすごい」というようなことばかりいって自らを慰めるだけでは、本当に坂道を転がり落ちていってしまうでしょう。

ここで、例によって名曲を一曲。
ボブ・ディランの Like a Rolling Stone です。

  昔きみは素敵に着飾って
  物乞いたちに小銭をめぐんでいたね
  みんなはいった
  “気をつけな、そのうち転落しちまうぞ”と
  君はそんな言葉をつまらない冗談だと思っていた

  うろつきまわる連中を君は笑っていたけれど
  いま君は、大きな声で話さない
  誇らしげにもみえない
  次の食事をごまかさなけりゃならないことに
  
  どんな気持ちだい ひとりきりでいるのは
  どんな気持ちだい 帰る家がないのは
  どんな気持ちだい 石のように転がり落ちていくのは……

以上、菜の花忌からの雑感でした。
司馬遼太郎の話だったのに、なぜか最後はボブ・ディランになるという……