ロック探偵のMY GENERATION

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ドニ・ムクウェゲ医師にノーベル平和賞

2018-10-06 21:41:46 | 時事
今年のノーベル平和賞の一人に、コンゴ民主共和国のドニ・ムクウェゲ医師が選ばれました。

これまでにも何度かノミネートされていた方のようで、名前を聞いたことはあるような気もするんですが、恥ずかしながらよくは知りません。

ただ、コンゴ民主共和国という国については、小説の題材としてちょっと調べてみたことがあります。

かつてはザイールと呼ばれ、モブツという独裁者が支配していたことで知られる国ですね。

その後モブツの独裁体制は倒れたんですが、カビラという人が新たな独裁者となり、いまはその息子が大統領をやってます。

このカビラ父子のもとでもうずいぶん長いこと内戦が続いていて、民族紛争や天然資源の奪い合いの問題、子ども兵の問題など、途上国のあらゆる問題が凝縮されたような国になってしまっています。今回のムクウェゲ医師の受賞で、そのなかに性暴力の問題が含まれることも明らかにされました。

独裁的な体制の国なので、かつて中国が劉暁波氏のノーベル賞受賞を快く思わなかったように、コンゴ政府はムクウェゲ医師のノーベル賞受賞をそれほど喜んではいないようです。

AFP通信の記事によると、政府の報道官は「政府はドニ・ムクウェゲ医師が非常に重要な仕事をしていることを称賛する。われわれとは意見が一致しないことも多いが」とか、「意見の不一致は、彼が自身の仕事を政治問題にしようとするたびに起きてきた。とはいえ、人道的観点からは重要な仕事であることは間違いない」といっているそうです。
どこかひっかかるようなものいいですね。

実際のところ、ムクウェゲ医師は、コンゴ政府に対して批判的であるようです。
先の記事によると、彼は、カビラ政権に対する「平和的な闘争」をコンゴ国民に呼びかけています。
今年の12月には選挙があるということで、そこで不正が行われるだろうともいったそうですが、その翌月、カビラ大統領は今年での退陣を発表したといいます。そのことをもって政府側は「ムクウェゲ医師のいったことは間違っていた」と批判しているんですが、これはどうなんでしょうね。「不正をしようとしている」と指摘されたから、それと反対に退陣表明して「ほら、あいつは間違っていただろ」といってるように見えます。
権力の側は、そういうことができてしまうんですね。なにか悪辣なことを進めていて、それを指摘されたらいったんその企みをストップして「ほら、私たちはそんなことしてませんよ。あの人のいってることは間違ってるんですよ」という……

思えば、やはりノーベル平和賞受賞者であるマララ・ユスフザイさんも、祖国パキスタンでは批判的にみられることが多いんだそうで……このあたりは、共通するものがあるのかと思います。
劉暁波にせよ、マララにせよ、今回のムクウェゲ医師にせよ、彼らの活動は結局のところ抑圧的な政府と対立することにならざるをえないわけでしょう。人道活動を突き詰め、実現しようとすれば、それは必然的に政治活動につながっていくのであって、先の報道官の批判は、つまりは「あいつは政府に批判的だから気に食わない」ということでしかありません。
預言者は石もて追われるということですね。チョムスキーさんがいってました。聖書に登場する預言者たちは、必ずしも周囲に歓迎されない。むしろ、迫害を受けて砂漠に追われる……抑圧的、独裁的な政府に批判されるということそれ自体が、彼らの活動が平和賞に値するという証明なのでしょう。