ロック探偵のMY GENERATION

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アガサ・クリスティー『ABC殺人事件』

2018-10-13 18:09:50 | 小説
アガサ・クリスティーの『ABC殺人事件』という本を読みました。

……正確にいうと、アマゾン・オーディブルで聴きました。


なぜ今頃アガサ・クリスティーなのかと思うかもしれませんが……

私もミステリーでデビューした人間なのですが、実はミステリーを読むようになったのはそれほど昔のことではありません。
それなりに読んではいるつもりですが、ミステリー読者歴が浅く、インプットの絶対量が不足していることは否めないところ。ここはひとつ、きちんとミステリーの勉強もしておいたほうがいいな……ということで、古典作品を読んでおこうという自分内キャンペーンをやっていて、その一環でアガサ・クリスティーというわけです。

(以下、ネタバレは避けるように書くつもりですが、場合によっては書かれていることがネタバレにつながる重要な手がかりとなるかもしれません。未読の方はご注意を)

この作品は、エルキュール・ポワロが出てくるシリーズ。

ある日ポワロのもとに犯罪を予告する手紙が送られ、その予告どおりに殺人が行われます。
事件が起きた土地、そして、被害者の名前はAではじまっており、そこから、前代未聞のアルファベット順殺人事件が展開していくのです。

トリックというようなものはあまりありませんが、肝になるのは“なぜ”という動機の部分ですね。
「〇を隠すなら……」という、ミステリーの一つの定石で、ある程度ミステリーを読み込んでいる読者なら、そのことに気づくのは難しくないでしょう。実際のところ、「連続性を強調した不可解な連続殺人」という設定からだけでも、容易にそのことは想像されるのです。連続性を過度に強調する背後にはそういう意図があるんではないかと考えられ、アルファベット順の殺人というのはまさにそこにはまっています。
この構図は、かのコナン・ドイルも多用したものであって、現代にいたるまで変奏され続けている、ミステリーの基本形の一つといえるでしょう。
それは、悪くいえば「ありきたり」ということにもなります。当然その基本形だけではよろしくないので、そこにアレンジをくわえていくことになります。
一番のポイントになるのは、犯人がポワロに送り付けた予告状でしょう。
この手紙が、読者へのミスディレクションや、犯人が誰かということを隠す意味で、重要な役割を果たしています。ポワロがこの手紙の“奇妙さ”に気づき、その意味を解き明かし、そこから謎解きにつなげていくロジックが、この作品の最大の見どころではないでしょうか。そうして終盤で起きるどんでん返しは、アガサ・クリスティー女史の面目躍如といったところでしょう。

ただ、一つ気になるのは、心理を軸にした部分。
夢の分析とか、いまでいうプロファイリングみたいな手法です。その当時のはやりなのか、そういうところでは現代からみるといささかあやしげな心理学が展開されているようにも思えます。それが犯人に関するミスディレクションにもからんでくるんですが、そのあたりはちょっと危うい感じがします。
しかし、中盤でポワロが「善意のある殺人者」みたいなことをいっているのも、ちゃんと伏線になってるんですね。これはプロファイリング的な意味であたっているのではなくて、犯人の真意をとらえているという意味でですが……そういう点でいうと、プロファイリング的な心理分析は謎解きのメインではなく、あくまでも補助的なものということになるのかもしれません。

ともかくも、ミステリーの古典として一読の価値はあると感じる作品でした。