ロック探偵のMY GENERATION

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ポセイドンのめざめ……? 米トランプ大統領、INF全廃条約破棄へ

2019-02-02 22:18:53 | 時事
アメリカのトランプ大統領が、INF全廃条約の破棄方針を示しました。

核廃絶に逆行する動きで、憂慮すべきものでしょう。

しかしながら、おそらく、核抑止力を主張する人たちは、積極的、消極的の差はあれ、一定の支持をするでしょう。
抑止力のためには、核保有もやむなし、と……

本当にそれでいいんでしょうか。
核は、暴発の危険を考えなければいけません。いわゆる“相互確証破壊”には、それ自体に大きなリスクがあるのです。


ここで、『ドラえもん』のエピソードを一つ紹介しましょう。

「しかえしミサイルが飛んできた」という回です。

ある日、いつもどおりジャイアンとスネ夫にいじめられるのび太に、ドラえもんが「おしおきミサイル」なるものを出します。
ボタンを押すと、ミサイルが飛んできて相手を攻撃してくれるという道具です。これによって、ジャイアントとスネ夫はのび太に手出しができなくなる……はずでした。

ところが、ジャイアンとスネ夫は、のび太の家にこのミサイルがあることを発見。
そのミサイルを盗み出し、自分たちもミサイルで攻撃できる体制を作ります。

するとドラえもんは、今度は「自動しかえしレーダー」というものを出します。
相手がミサイルを撃ってきたら、自動的に報復してくれるという装置です。これによって、ジャイアンとスネ夫はミサイルを発射できなくなるはず……

ところが……
ここまでくれば想像がつくとおり、ジャイアントスネ夫の側も、このシステムを手に入れてしまうのです。

これによって、結局、どちらもミサイルを使用することはできない状態となってしまいます。
そこで両者は仲直りし、空き地で野球を始めるんですが……

その野球で打ち上げたボールを、ミサイルは攻撃と認識。
報復用のミサイルがいっせいに発射されます。最後は、画面が真っ白になって終了……という話です。

この話が原作にあったものかどうか記憶が定かでないんですが……藤子F不二雄先生は核拡散の問題に強い関心を持っていたようで、いくつかの作品にそれが反映されています。
『ドラえもん』でいえば、大長編の『のび太と海底鬼岩城』がそうですね。
あの作品に出てくる「ポセイドン」は、海底国家アトランティスが作った、報復のための機械です。相手が攻撃してきたら自動的に報復するという装置で、まさに先ほどの「おしおきミサイル」+「自動しかえしレーダー」であり、相互確証破壊を目指すものといっていいでしょう。
アトランティスはもう滅びてしまっているんですが、それでもポセイドンは稼働し続けています。そして、海底火山の活動を敵による攻撃と誤認して活動を再開。のび太たちは、それを止めるためにアトランティスに乗り込むことになるのです。
ここに描かれているのは、まさに核拡散の恐怖にほかなりません。
かつてバートランド・ラッセルが指摘したように、核が拡散するにしたがって、誤作動による暴発の危険は急激に増していきます。
ちょうど『海底鬼岩城』に示されるように、核を保有している国が深刻な政治危機に陥ったり、国家としての機能を喪失してしまったりしたらどうするのか……という問題もあります。
また、現代ではテロリストの手にわたる可能性も考えないといけないでしょう。
国家が核兵器を使用するのには相当躊躇するでしょうが、テロリストは躊躇しないかもしれません。核兵器を放置し続けていれば、いつかアクシデント的な形で実際に爆発してしまう可能性は低くないでしょう。そんなことは起こりえないという言い方は、福島第一原発の事故を経験したいま、通用しません。

そういったことを考えると、核兵器は廃絶を目指すべきものであって、今回トランプ大統領が示した方針は、とうていありえない話です。