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ザ・ブロードサイド・フォー「若者たち」

2021-08-01 20:37:45 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。

前回、五つの赤い風船「遠い世界に」を紹介しましたが……このあたりは、もう日本フォークの草創期といってもいい時期です。
その時期を代表するフォークグループとして、今回はザ・ブロードサイド・フォーをとりあげようと思います。

ブロードサイド・フォーといえば、「若者たち」。
あまりにも有名で、文字通りに“フォークソング”化している歌です。その来歴を知らずとも、誰しも一度は聴いたことがあるでしょう。

発表は1966年。

作曲したのは、佐藤勝。
このブログで、彼の名はこれまで何度か出てきました。
映画音楽の世界で有名な作曲家であり、ゴジラ映画のいくつかで音楽を手がけた人です。美空ひばり「一本の鉛筆」の作曲者でもありますが、それもおそらくは映画人脈からまわってきた話かと思われます。

「若者たち」の場合も、映画ではありませんが、同タイトルのドラマの主題歌でした。
このドラマには、今年亡くなった田中邦衛さんも出演していました。2014年にリメイクされ、そのときには森山直太朗さんが主題歌を担当。この直太朗バージョンで知っている人も多いでしょう。

その直太朗バージョンのリリースにあわせ、レコード会社が企画して「若者たち」をいろんな人が歌った動画がアップされています。

そのなかから、幕張総合高校合唱団のバージョンを紹介しましょう。

「若者たち」を歌ってみた 千葉県立幕張総合高校合唱団 篇


オリジナルのザ・ブロードサイド・フォーは、冒頭に書いたとおり、日本フォーク草創期にあっても、もっとも初期に現れたグループの一つです。
4人なのでフォーといってますが、その前に3人だった時にはブロードサイド・スリーと名乗っていて、この名義で発表したアルバムは、日本のモダン・フォーク・グループ最初のアルバムとされています。

ボーカルの黒澤久雄は、映画監督黒澤明の息子。
ブロードサイド・フォーは、彼が成城大学在籍時に作ったグループです。
この時期のフォークグループは、そういうふうに大学生を中心として結成されることが多く、カレッジフォークとかいわれるわけですが、このあたりは60年代フォークの一つの特質につながっているかもしれません。
60年代末というのは学生運動が盛んだったころで、それゆえに、学生を中心としたフォークにも社会批判のような視点があったのではないかと思われるのです。
「若者たち」の場合、社会批判という感じこそありませんが、やはりそこに60年代の空気は感じ取れるように思います。
歯を食いしばって苦難に立ち向かうという歌詞でありながらも、そこにはあまり深刻さはありません。むしろ、ある種の楽観、若者たちが未知の世界を切り開いていく……そんな雰囲気が感じられるのです。

それは、前回の「遠い世界に」でもそうでしょう。
あるいは、もっと前に紹介したフォークルの「青年は荒野をめざす」にも通ずるところがあるかもしれません。
フォークルの記事でも書きましたが、いまの日本に欠如しているのは、そういうことなんじゃないかと思えます。

人口全体が高齢化しているというばかりでなく、年令上は若者でも妙に若年寄的な諦観をもっていたり……
「若者たち」では、「君の行く道は希望へと続く」と歌われますが、その希望がこの国にはもう存在しないということでしょうか。衰亡しつつある国に必要なのは、まずは“希望”なのかもしれません。