先日、「死んだ男の残したものは」という記事を書きました。
そこでは、今年亡くなった偉大なフォークシンガーと詩人について書いたわけですが……ちょうど谷川俊太郎さんが亡くなったのと同じころ、漫画の世界においても訃報がありました。
楳図かずお先生です。
88歳ということで、大往生といえるでしょう。
実に個性的で、偉大な漫画家でした。
ホラー漫画というフォーマットで深い文学性を感じさせる作風には、唯一無二のものがあったと思います。
「深い文学性」という点で、私がまず思い浮かべる楳図作品は、『漂流教室』です。
ヴェルヌの『十五少年漂流記』をモチーフにしているというところがポイント。
そしておそらくは、その『十五少年漂流記』のパロディとして描かれたゴールディング『蝿の王』も意識していたものと想像されます。
映画版『蝿の王』のDVDジャケットに楳図かずお先生のイラストが使われているというようなこともあって……
『漂流教室』は、その結末において、『十五少年漂流記』とも『蝿の王』とも違う展開を見せたところもポイントです。『蝿の王』とは、真逆といってもいいでしょう。詳細はネタバレになるので伏せますが、『蝿の王』のエンディングが一見救済に見えて救済ではないのに対して、『漂流教室』は、救いのない絶望のようでありながら、実はそこにこそ希望があるというエンディングでした。未来は何もない荒涼とした世界――しかし、だからこそ、そこに希望がある。絶望を希望へと鮮やかに転回させる、力強い結末です。
こういう、ホラー漫画を追求してその枠組みを超越した作品を書くかと思えば、『まことちゃん』のようなギャグマンガも書く。そんなレンジの広さも、楳図先生のすごいところでした。
漫画『地獄先生ぬ~べ~』に登場する“まこと”は、『まことちゃん』へのオマージュという部分があり……偉大な漫画家ゆえに、そういうふうに継承されていくものがあったということでしょう。そんな大家に、哀悼の意を表したいと思います。