映画『フウムーン』を観ました。
手塚治虫先生の漫画『来るべき世界』を長編アニメにしたもので、1980年の作。アマプラに入っていたので、視聴してみました。
“映画”として書いていますが……厳密には、本作は劇場で公開された作品ではありません。24時間テレビで放映するために作られたスペシャルアニメです。この頃の24時間テレビでは手塚治虫原作アニメを毎年やっていて、そのうちの一作となります。
その冒頭部分がYoutubeの手塚プロ公式チャンネルにあがっているので、載せておきましょう。
フウムーン
南太平洋に浮かぶ馬蹄島で、生物学者・山田野博士は新人類フウムーンと遭遇。彼らは高度な科学技術を持ち、遠い宇宙から迫りくる暗黒ガス雲の存在を察知し、このままでは地球は滅びるということで、宇宙への脱出を計画していた。一方、人類は暗黒ガス雲を迎え撃つための計画にとりかかる――といったストーリーです。
いかにも手塚治虫、という要素がつまった作品といえるでしょう。
環境問題が一つのテーマになっているところは、チャリティ番組にふさわしいともいえます。
そしてこのテーマが、やはり手塚漫画に頻出するモチーフである“人間の愚か”さという文脈で描かれるのです。
美しかった馬蹄島を奪い合い、戦争のすえに荒廃させてしまった二大国。彼らは、人類滅亡の危機がせまるなかにあってさえ、いがみあい、ついには再び戦争を始めてしまいます。そして、金儲けのことしか頭にない人間や、誤った情報に扇動されて暴動を起こす群衆……
数年前なら、さすがに人類もそんなに愚かではないだろうと思えたでしょうが、コロナ禍やウクライナ戦争を経たいま見ると、その考えはあらためなければいけないのかもしれません。手塚治虫という漫画家の根底にある人間不信というか、人間に対する冷めた目……その透徹した視線は、やはり人間というものの本質を鋭く見抜いていたのではないしょうか。
しかしながら、結末は決してバッドエンドではありません。
ネタバレとなるので詳細は伏せますが、24時間テレビのスローガン「愛は地球を救う」にもつながる結末でしょう。いろいろツッコミたくなるところもありますが、これもまた、手塚治虫という人のもう一つの重要な側面なのです。
手塚治虫先生といえば、このブログではたびたび話題になります。
去年はAIで新作なんていう話もありましたが、つい先月も博多マルイでブラックジャック関連イベントが行われていました。また、三池崇史監督がiPhoneのみで「ミッドナイト」を撮るなんていう話題もありました。
その普遍的なメッセージのゆえに、手塚作品が色あせることはないということでしょう。