久々に、拙著『ホテル・カリフォルニアの殺人』ゆかりの楽曲について書こうと思います。
今回は、第四章の章題となっている「魔女のささやき」です。
原題は、Witchy Woman。直訳すると、「魔女のような女」ということになります。
発表は1972年。
ファーストアルバムの収録曲で、イーグルスのキャリアにおいてもっとも初期の作品といえます。
バンドスコアでこの曲を見ると、先住民の儀式のような……といったことが書いてあります。
そういうイメージはあるのかもしれませんが、一般的には、この歌は、リンダ・ロンシュタットのことを歌っているといわれます。
今回は、曲の批評というところからちょっとはずれますが、このリンダ・ロンシュタットという人について書こうと思います。
リンダ・ロンシュタットといえば、ウェストコーストの超大物女性アーティストであり、イーグルスも彼女のバックバンドから出発した、というのは、前回も書いたとおりです。
リンダ・ロンシュタットに関しては、男女関係についてもいろいろと語られています。
といっても、数の多さではなく、その相手が大物ということです。
たとえば、ローリングストーンズのミック・ジャガー。また、カリフォルニア州知事をやっていたジェリー・ブラウンとも恋愛関係にあったというもっぱらの噂です。(ちなみにこのジェリー・ブラウンという人は、カリフォルニア州の現知事でもあります)
ストーンズの「ダイスをころがせ!」という曲もリンダ・ロンシュタットを題材にしているといわれますが、なにかそういうふうにアーティストのインスピレーションをかきたてるものがある人なのでしょう。
リンダ・ロンシュタットというと、私には一つ思い出すエピソードがあります。
2004年のことですが、当時マイケル・ムーア監督がブッシュ政権を批判する『華氏911』という映画を作っていて、リンダ・ロンシュタットがコンサートでそれを絶賛したところ、大ブーイングを浴びてホテルから追い出された……という話です。
イラク戦争当時のアメリカというのは、ちょっと恐ろしい状態でした。
イラク戦争に反対すると、「非国民」という扱いを受けるような状況がありました。音楽関係の話では、ディクシー・チックスというカントリーグループが「ブッシュはテキサスの恥」と発言したところ、猛烈なバッシングが起こって、一部の人々が彼女らのレコードを広場に集めてローラーで踏みつぶすなんてことがありました。ちょっとした狂気です。
今になって考えれば、イラク戦争に反対していた人たちのほうに理があったのは明らかだと思いますが、その当時は、そんなこともあったのです。
ロックというのは、炭鉱のカナリアだと私は思っています。
それはなにも、リンダ・ロンシュタットが強い社会性をもったアーティストだということを意味しているわけではありません。
彼女は、一人の奔放な女性です。そして、そうであるがゆえに炭鉱のカナリアなのです。
奔放だからこそ、自由を呼吸してないと窒息してしまう。
それゆえに、自由を抑え込むような空気が世の中に漂い始めると、息が詰まりそうで叫び声をあげる……これが、ロックが炭鉱のカナリアだという意味です。
炭鉱のカナリアは大事にしたほうがいいです。
それは、社会がおかしくなっていることを教えてくれるからです。翻って今の日本はどうなのか。そんなことも考えさせられます。
……ということで、今回は、「魔女のささやき」からの、リンダ・ロンシュタット話でした。