ロック探偵のMY GENERATION

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イエス「儀式」(Yes, Ritual)

2023-06-04 20:20:21 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。

最近はプログレ系の話が続いてきましたが……その流れを受けて、今回のテーマはYESです。

また「今年で50周年を迎える名盤」というのも引き継ぎ……紹介するのは、1973年にリリースされた『海洋地形学の物語』。

 
先日の記事でちょっと言及しましたが、イエスというバンドも非常に歴が長く、その過程でかなりややこしいメンバーの変遷がありました。
関連する人物は多く、キング・クリムゾンと同様、イエス一家ともいうべきアーティスト群を形成しています。クリムゾン一家が王宮の騎士とすれば、イエス一家は聖家族といったところでしょうか。(※バンド名のYesはイエス・キリストのイエス=Jesusとはまったく関係ありません。念のため)

その軌跡は、ジェネシスと重なるところが相当にあります。
ジェネシス(創世記)とイエスの聖家族……これは、プログレの聖典といえるかもしれません。

その聖典が一つのハイライトを迎えるのが、50年前の1973年ということになります。
ピンクフロイドの『狂気』が大ヒットし、ジェネシスが『月影の騎士』でブレイク。その同じ年に、イエスは『海洋地形学の物語』で初のチャート一位を獲得しました。
その前々作『こわれもの』と前作『危機』で存在感を増していき……後世ではそちらの二作のほうが高く評価されていると思いますが、意外なことに、チャートで初めてトップにのぼりつめたのは『海洋地形学の物語』なのです。
ジェネシス、ピンクフロイド、イエスという3バンドがそれぞれ過去最高のチャートアクションを記録したというのは、やはりこの1973年という時代をなにか象徴しているのではないでしょうか。
ロックをめぐる環境の変化、あるいは、さらに広く社会全体の変化もその背景にあるのかもしれません。

そして、イエスもまたジェネシス、ピンクフロイドと似た軌跡をたどっていきます。
どちらかといえば、ジェネシスにより近いでしょうか。
80年代ふうサウンドへの変化……ジェネシスの場合と同様、商業的な面ではその頃が全盛期ということになるわけですが、やはりこの変化は軋轢を生みます。
イエスの場合はそれが極端な形に出て、バンド自体が分裂状態となってしまいました。
いうなれば、大シスマ……かつてローマカトリックが分裂して二人の法皇が対立したように、聖家族が分裂したのです。
厳密にいえば、メンバーが一人また一人と抜けていき、結果としてほぼ総入れ替え状態になったところで、イエスのかつてのメンバーたちが結集して別バンドを作ったということですが……そうしてできたのが、アンダーソン、ブルフォード、ウェイクマン、ハウ(ABWH)です。イエスのほうに留まったベースのクリス・スクワイアがいないことをのぞけば、ほぼ完全にイエスの復活といえます。ただ、スクワイアが残留するイエスが存在するために“イエス”という名前を使うことができず、単に四人の名前をくっつけたグループ名にせざるをえませんでした。
ベースのスクワイアがいないわけですが、そこでベースを弾いたのが、キング・クリムゾン一家のトニー・レヴィンであることは、ちょっと前にも書いたとおり。その顔ぶれから考えて、プログレという要素を継承したのはABWHのほうだと世間的にも認識されているでしょう。
参考までに、そのABWHの動画を載せておきましょう。
曲は、『こわれもの』収録の Heart of the Sunrise です。

ABWH - Heart Of The Sunrise (Shoreline Amphitheatre, Mountain View, CA 1989)



ここで、『海洋地形学の物語』について。

同年に発表されたキング・クリムゾン『太陽と戦慄』は、イエスから移籍してきたビル・ブルフォードを迎えた最初のアルバム。ということで、イエスにとっては、ブルフォード脱退後、アラン・ホワイトを迎えて制作した最初のアルバムが『海洋地形学の物語』ということになります。

「1973年発表の名盤」ということでやってきわけですが……これまでに紹介してきた諸作品と比較すれば、『海洋地形学の物語』は、名盤とするのには広い賛同を得られないかもしれません。
チャートで一位にこそなっていますが、イエスの歴史全体から考えれば、はっきりいってあまり存在感のないアルバムということになるでしょう。先述したように、その前の二作のほうが名盤という評価が確立しています。

大作主義が極致にいたり、二枚組アルバムの各面が一曲という構成。
レコードの一面丸ごと使って一曲というのはピンクフロイドなんかもよくやっていましたが、二枚組アルバムがすべてそれで二枚組なのに4曲しかないという……これを斬新ととるか、やりすぎととるか、というところでしょう。
そのへんがちょっとどうなのかというのはバンド内でもあったようで、このアルバムはリック・ウェイクマンが脱退するきっかけになりました。
そういう部分からしても、ある種、バンドの転換点であまりうまくいかなかった作品というような印象も受けます。それがチャートで一位になったというのは、プログレというジャンルが勃興しつつあった時期の追い風効果があったためではないかと。

あと、日本盤に関していうと、『海洋地形学の物語』という邦題はいささか原題からはずれてしまっているように思えます。英語でTales from Topographic Oceans というのは、もうちょっとかっこいいというか、神秘的な感じもする言葉の並びなのではないでしょうか。

一応、参考として、アルバムの最後の曲となる「儀式」の動画を。
アルバムタイトルの邦題が微妙だといいましたが、かと思えばRitual で「儀式」という直訳……日本盤を作った人たちのセンスはどうなっているのかと。

Yes - Ritual (nous Sommes Du Soleil) - Symphonic Live

このパフォーマンスは2001年に行われたもので、オーケストラとの共演という趣向。
ドラムはアラン・ホワイトでリック・ウェイクマンは不在ですが、ジョン・アンダーソンが歌い、ギターはスティーヴ・ハウ、ベースはクリス・スクワイアという布陣です。この三人がそろっているだけでも、いわば三位一体の奇蹟、かなりすごいことなんじゃないでしょうか。


ここで、イエスの現在について。

おりしも、彼らは先月ニューアルバムを発表しています。

 

Mirror to the Sky。
新譜発売を受けて、スターレス高嶋さんがハイテンションになっていました。

このブログでは古いアーティストを扱うことが多く、新譜を発表しましたというふうに紹介することはあまりないんですが……これだけ歴の長いレジェンドバンドでそういう話があるというのは、それだけでもすごいことです。

せっかくなので、収録曲の一つ Circles of Time の動画を。

YES - Circles of Time (Official Video)

ドラムのアラン・ホワイトが昨年亡くなったわけですが、以前からサポートドラマーをつとめていたジェイ・シェレンが正式に後任として加入しました。
この交代を抜きにしても、現在のラインナップは結成当初とはまったく違っています。
そもそもアラン・ホワイトも中途加入ですが、最古参のスティーヴ・ハウも何気に初期メンではなく、もはやオリジナルメンバーは一人もいないという状態……まあ、だいぶ前からそういう状態になっており、何十年もやっているバンドはそんなふうになることも少なくないわけですが、さすがに初期メンが一人もいないとなると、そのバンドの看板を掲げていいのかという疑問は出てきます。もはや野球のチームみたいな感覚でしょうか。所属選手は時代によって違っていても、阪神タイガースは阪神タイガースというような……
あるいは、名門レストランみたいなものかもしれません。シェフをはじめとしてすべての料理人が入れ替わっても同じ看板を掲げられるか。味付けやメニューが変っても、そこに貫かれている何かがあるのか……それは、最終的にはリスナーの判断にゆだねられるということでしょう。


最後に、イエスが2017年、ロックンロール栄誉の殿堂入りを果たした際の動画を。
曲は、イエス最大のヒット Owner of a Lonley Heart です。

Yes perform "Owner of a Lonely Heart" at the 2017 Rock & Roll Hall of Fame Induction Ceremony

このセレモニーでRoundaboutをやっている動画を以前紹介しました。
その時点でクリス・スクワイアは死去しており、Roundabout ではRushのゲディ・リーが代役としてベースを弾いていましたが、Owner of a Lonely Heart では、なんとスティーヴ・ハウがベースを弾いています。いろいろあったけれど、そのいろいろを超えて亡き友に捧げるベース……胸熱です。
いっぽう、ギターはトレヴァー・ラビン。この人もイエス一家のギタリストです。最後のほうはジョン・アンダーソン、リック・ウェイクマンと3人で固まる感じになってますが、この3人は、かつてのABWHのような感じで普段から一緒にやっています。そうすると、また一種の分裂状態、いわば小シスマというふうにもとれるわけですが……そうした状況にあって、聖家族が一堂に会している奇蹟がここにあるということです。これは、聖餐の儀式、最後の晩餐とか、そういう貴重な動画なんじゃないでしょうか。




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2 コメント

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Unknown (たいぴろ)
2023-06-04 21:05:48
もう。ほんとにイエスはくっついたり離れたりが激しくて凄いですよねー。そう考えると40年、50年変わらぬメンバーで頑張ってるバンドは凄いと思いますねー・・ってどんなバンドがいる?
私はフラジャイル、危機、サードアルバムは分かりますが海洋地形学やリレイヤーあたりはほぼ聞かず、ロンリーハート、ビックジェネレータは大好きだけど1990年に入ってからの曲はまた離れてしまい、今のメンツになってからのアルバムはもはや眠気を誘われます(笑)
ライブは最近のものまで4回,ARWとして来日した公演も行ってますが。
クリスのベンベンうなるベースが好きでした。今のビリーもかなり似せてますが、むしろゲティリーが演奏したラウンドアバウトの方が好きでしたわ。
ハウ爺さんのギター、ダンナは大好きだそうです。とちりそうでとちらない?変なフレーズとか。私はもっとペトルーシさんやルカサーの様なメロディックが良いですけどね。
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Re:たいぴろさん (村上 暢)
2023-06-07 18:31:15
コメントありがとうございます。
たいぴろさんは昨年の来日公演にも参戦されてたんですよね。ARWのほうもおさえているとは……もう筋金入りといってよいのではないでしょうか(笑)

そんな筋金入りだからこその、やっぱりベースはスクワイアというのこだわりだと思います。
スクワイアのベースはイエスの核心で、彼がいないがゆえに、ABWHのほうを「もうこっちがイエスでいいじゃん」といってしまえないという……そのスクワイアの代役を誰ができるのかという話になったときに、ゲディ・リーが躍り出てきてそれだけで一気にボルテージが上がるのが、あのRoundaboutでした。
スティーヴ・ハウに関していえば、いまイエスの看板を掲げていられるのは8割ぐらいハウがいるからじゃないかとも思えます。音の部分だけでなく、在籍期間の長さとかそういう部分も含めてですが。彼がいなくなったら、さすがにイエスという名前を名乗っていいのかというふうになってくるんじゃないかと……
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