今回は、音楽評論記事です。
何度も書いてきたとおり、このブログは基本プロモーション用です。なので、あくまでも拙著『ホテル・カリフォルニアの殺人』ゆかりの曲を中心に扱っていきます。
というわけで、今回はアニマルズの「朝日のあたる家」をとりあげます。
原題は、House of the Rising Sun。
この曲は、二つの点でトミーと関係していきます。
まず一点は、お読みになった方はご存知のとおり、この曲は『ホテル・カリフォルニアの殺人』のなかに登場します。
あの作品の舞台となっているホテル・カリフォルニアでは、毎晩パーティーが行われていて、そのパーティー会場を知らせるために音楽が使われています。そのなかの一曲が「朝日のあたる家」であり、作中でもかなり重要な役割を果たしていました。
そして二点目は、この歌をモチーフにしたトミーの短編があるためです。
以前書いた通り、その短編は文学フリマに出品していた『WANNABE'S』という本に収録されています。いうなれば、インディーズ時代に自主制作で出したミニアルバムの収録曲といったところです。
そういうわけで、この「朝日のあたる家」は、トミーとは浅からぬ縁があるのです。
さて、アニマルズの……と書きましたが、この歌はいわゆるトラディショナルです。
つまり、民謡のようにして歌われていた歌です。しかし、ここではアニマルズのバージョンについて書きます。トミーの短編も、アニマルズのバージョンをモチーフにしているためです。
この曲は、Am→C→D→F7→Am→C→Eというコード進行が基調になっています。
まあ、よくある進行ですが、ここで使われるDがポイントです。
ふつうに考えればDmになるところで、もとはおそらくそうでしょう。ジョーン・バエズが歌ってるバージョンがあるのですが、バエズもDmでやっています。
実は、こういうDメジャーの使い方は、珍しいものではありません。
たとえば、キーは違えど、ニルヴァーナがMTVアンプラグドでカバーしたレッドベリーの Where Did You Sleep Last Night なんかも、そっくりのコード進行を使っています。また、フーの Behind Blue Eyes も、やはりキーは違いますが似たような進行です。
では、その源流はどこにあるのか?
モード理論とかをもちだしてもっともらしい説明をつけることもできるかもしれませんが……一つのおもしろい話として、ただの間違いがもとになっているという説があります。
問題のコードは、普通のコード進行ではこんなふうになります。
Am→C→Dm→F
なんの変哲もない進行です。先述したジョーン・バエズのバージョンもこれです。
ところが……このコード進行表の小文字のmというところを無視すると、
A→C→D→F
となります。
これはまさに、Where Did You Sleep Last Night の進行です。
m はマイナーコードであることを意味しているわけですが、それを無視すると、Dメジャーが出てくるのです。
アマチュアのギター弾きが「この mってなんだ?」と思い、なんだかよくわからないので無視して弾いた結果このコード進行ができたのではないか……これが“間違い”説です。
意図的にやったのではなく、間違ってそうした。すると、「これ、かっこいいじゃん」となって、世間に流布していったというわけです。
私は、これは意外とあるんじゃないかと思ってます。
それ間違ってるよ、といわれても、カッコいいからいいじゃん!で押し切る。ロックというのはそういうスタイルだと思うんです。
エレキギターのエフェクトのなかには、もともとアンプが壊れて変な音が出てしまったのを、「これいいじゃん」といって一つのエフェクトにしたというものがいくつかあります。たとえばファズなんかそうらしいです。
そういう“間違い”をも取り入れて一つの表現にしてしまうのが、ロックの流儀だと思うんですね。
それは、“間違い”を規定する権威への反逆であり、その姿勢ゆえに、ロックはカウンターカルチャーの最先端にあったのだと思います。
ここで、歌詞についても書いておきましょう。
元の歌は、娼婦の立場で歌われています。
ああ母さん 子供たちに伝えておくれ
私のしたことをしないようにと
この朝日のあたる家で
罪と不幸のうちに人生を費やさないように
私のしたことをしないようにと
この朝日のあたる家で
罪と不幸のうちに人生を費やさないように
アニマルズのバージョンは、うらぶれた貧民窟のようなところで敗残者として暮らす男……といったような歌詞になっています。
この歌詞も、わたしには先述の音楽的な理屈とリンクして感じられます。
つまりは、この歌の主人公はまっとうな道からはずれてしまっているわけです。“正当”とされる道からはずれたもの。それがロックだと思うんですね。
このように、音楽的にも、その歌詞からしても、「朝日のあたる家」はロック史の一面を体現しているのです。
そんなわけで、この曲をロックアンセムとして認定したいと思います。