福島清彦さんの『ヨーロッパ型資本主義 アメリカ市場原理主義との決別』(講談社現代新書)という本を読みました。
日本の経済議論はアメリカ型の資本主義に傾きがちですが、進む道は決してそれだけではないということを教えてくれる良書です。
アメリカ型の資本主義は不可避的に富の二極分化、格差社会を生み出す……2002年に出版されたこの本は、そう警鐘を鳴らしていますが、それから15年たった今、格差社会はもう現実のものになっています。このままアメリカ式の資本主義を続けていっていいのか。そういうことを考えさせられます。
また、経済だけでなく、欧州の政治や社会のあり方、そして、そこに至る歴史についても書かれています。
私が注目したのは、「現代ヨーロッパの父」として紹介されているジャン・モネという人物です。
この人は、第二次世界大戦の終結後、ドイツとフランスがどうしたら新たな戦争を起こさずにすむかということを考えました。
戦後ドイツは連合国に占領されましたが、当然いずれは独立を回復します。そうなれば、いつかドイツは国力を回復して、またフランスに侵攻してくるのではないか……そういう恐怖がフランス国民にはありました。
では、どうすれば戦争は起きなくなるのか。
そのための方法として、モネは、独仏の石炭や鉄鋼を国際共同管理にすることを考えました。
両国で生産される石炭と鉄鋼を、国際管理下に置く。そのことによって、ドイツとフランスの戦争は不可能になる…… この驚くべき提案は、実行に移されました。
ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)の誕生です。
経済が主眼ではなく、戦争が起きないようにすることを目的として、このシステムは作られました。そしてこれが、いまのEUにまでいたる欧州統合の出発点となっているわけです。
何もしないでいて、いつの間にか平和になったわけではないんですね。
戦争を起こさないためにはどうしたらいいかということを真剣に考え、それを実践したからこそ、欧州諸国は新たな戦争を起こさずにいられるのです。
昨今、東アジアの情勢は緊迫した状態にありますが、戦争を起こさないための欧州の工夫に学んだほうがいいんじゃないかと思いました。