今日10月10日は「ドラムの日」。
というわけで、毎年恒例のドラマー列伝をやっていこうと思います。
今年はプログレ系のバンドの話をやっていて、ギタリスト列伝ではプログレ系のギタリストを特集しました。ドラマー列伝でもそれを踏襲して、プログレ編でいきましょう。登場するバンドはほぼかぶいっていますが、そこあまあ、プログレ系の大物バンドというとどうしてもこのへんに固まるということでご容赦を……
ビル・ブルフォード
プログレを代表するドラマーといえるだろう。イエス、キング・クリムゾン、ABWH、UK、ジェネシス……と、プログレ界の主要バンドを渡り歩いてきた。
なかでも特筆すべきは、やはりキング・クリムゾンでの活動だろうか。あのStarless
におけるエキサイティングな高速変拍子は、ブルフォードだからこそのものだろう。
動画は、日本のジャズギタリスト、渡辺香津美さんと共演した際のもの。トリオ編成になっていて、ビル・ブルフォードのバンドBrufordのベーシストであるジェフ・バーリンがベースを弾いている。
Kazumi Watanabe feat. Jeff Berlin & Bill Bruford: Lim-Poo. (The 'Spice Of Life' Japan Tour, 1987)
アラン・ホワイト
ビル・ブルフォードがイエスから脱退したのちに、その後任となったドラマー。
メンバーの出入りの激しいイエスにおいてギターのスティーヴ・ハウと並ぶ古株となっていたが、昨年死去した。
また、この人はジョン・レノンのバックバンドでの活動でも知られる。動画はそちらのほうで、レノンのソロ曲How Do You Sleep?
この動画はなかなかメンバーが豪華で、ギターはジョージ・ハリスン、ベースはクラウス・フォアマン、鍵盤はニッキー・ホプキンスが弾いている。また、ヨーコさんの姿も見える。
How Do You Sleep? (Takes 5 & 6, Raw Studio Mix Out-take) - John Lennon & The Plastic Ono Band
余談だが、この曲の歌詞はポール・マッカートニーをディスるものといわれる。たとえば、The only thing you done was yesterday という歌詞。この歌詞は、「お前の業績は(ビートルズで作った)イエスタディだけ」という意味と「お前の業績はもはや過去のことにすぎない」という二重の意味をもたせていて、ジョンの皮肉屋としての冴えをみせる。さらに余談を付け加えると、ポールの Tomorrow という曲は、こうしてディスられたことに対するリアクションといわれている。
ニック・メイスン
ピンクフロイドのドラム。
プログレ系ではある意味珍しく、ピンクフロイドは演奏技術を評価されるタイプのバンドではない。各メンバーとも、高い技術をもった演奏者というように評されることはあまりないだろう。ただ、ニック・メイスンの場合は、効果音やテープコラージュといった技法でプログレ的要素に貢献していた。また、大学で建築学を先行していたというユニークな経歴の持ち主でもあり、ベストアルバム『ピンクフロイドの道』ではその才を生かしてジャケットデザインを手がけた。
動画は、ニックも曲作りに参加した「ユージン、斧に気をつけろ」。この曲は件のベストアルバムにも収録されていて、ニックのデザインによるジャケットを見ることができる。
Careful, With That Axe, Eugene
カール・パーマー
エマソン、レイク&パーマーのドラム。
また、プログレ系のスーパーグループであるエイジアにも参加。現在にいたるまで、このバンドの活動期間ほぼすべてにわたってドラムを叩いている。
カールは、元ELPで唯一存命のメンバーでもある。キース・エマソンとグレッグ・レイクは、2016年に相次いで死去した。二人の死を受けて、パーマーは追悼の意味合いで
Carl Palmer's ELP Legacy
というグループを作り、ツアーを行った。
動画は、そのツアーにおける『トリロジー』。
Carl Palmer's ELP Legacy - Trilogy
フィル・コリンズ
ジェネシスのドラム。
ジェネシスはプログレを代表するバンドの一つとみなされているが、フィル・コリンズという人はかなりポップ寄りで、ピーター・ガブリエル脱退後に彼が中心となることで、ジェネシスというバンドも変質していったように見える。
ライブエイドの大活躍でも知られるが、再結成レッド・ツェッペリンでのドラムは自他ともに認める失敗で、映像はお蔵入りとなってしまった。後に本人が語るところによると、リハの段階でツェッペリンの面々からダメ出しを受けていたそうだが、本番直前にいわれても修正のしようがなかったということだろうか……
ちなみに、フィルは神経の病を患っていてドラマーとしては引退状態にあり、バンドのジェネシスも最近フェアウェルツアーを行い活動を停止している。
動画は、カーティス・メイフィールドの名曲をカバーした
People Get Ready。
プログレでもなければフィル・コリンズがドラムを叩いている曲でもないが、彼のチャンネルを見ていてこの曲が目にとまったので。
Phil Collins - People Get Ready (Live at Perkins Palace 1982)
ちなみに、ここでドラムを叩いているのはチェスター・トンプソン。フランク・ザッパのバックバンド、マザーズ・オブ・インベンションでドラムを叩き、ジェネシスに在籍していたこともある。
ここにザッパの名が出てくるというのも、なにか宿命のようなものを感じる。
前にこのブログでフランク・ザッパはロック界における世界樹のような存在と書いたが、ユグドラシルの枝はたしかにここにものびてきているだろう。
80年代風のFMフレンドリー、MTVフレンドリーな音楽に対して私はちょっと距離を置いているところがあるのだが、フィル・コリンズの場合、ソロ活動ではそういうところにどっぷり浸かっているように見えて、カバーの選曲などがいい意味でそのイメージを裏切るのである。この
People Get Ready
もそうだが、ほかにも、以前紹介したボブ・ディラン「時代は変わる」のカバーだったり……80年代に適応しつつも、どこかでちゃんとそういうところも向いている人なのだ。ロックンロールのグレートスピリッツというか、そういうところに接続しているということである。
ニール・パート
RUSHのドラム。
ドラマーとしても超絶テクだが、作詞によってRUSHの世界観を構築することにも貢献した。
2020年、脳腫瘍によって死去。
彼は生前、こんな名言を残している。
「エリック・クラプトンは、ジミ・ヘンドリクスを聴いてギターを燃やしたいと思ったというが、俺はその感覚は理解できない。偉大なドラマーを見たときに俺はただ、もっと練習したくなるだけだ」
そんなニールは、多くのミュージシャンたちからリスペクトを集め、多大な影響を与えてきた。
死去の際には追悼のメッセージが各方面からよせられている。ドラマーはもちろん、ほかのパートのプレイヤーも哀悼の意を示していて、たとえばレッチリのフリーは「今日はエアドラムをして過ごすよ」といっている。
動画は、2013年RUSHがロックンロール栄誉の殿堂入りを果たした際の
Spirit of Radio。
Rush perform "Spirit of Radio" at the 2013 Rock & Roll Hall of Fame Induction Ceremony
マイク・ポートノイ
ドリームシアターでドラムを叩いていた。
先ほどニール・パートは多くのミュージシャンに影響を与えたと書いたが、ポートノイもその一人だろう。ニールが死去したのちに開催されたトリビュートイベントにも参加していた。
動画は、そんなリスペクトが濃厚に感じられるRUSH「2112」のカバー。
東欧系と思われるバンドがライブで「2112」前半部分をカバーしていて、そこにマイク・ポートノイがゲストドラマーとして参加している。
2112 RUSH Cover YYNOT featuring Mike Portnoy (Bubba Bash 2023)
ここでポートノイは、前面にニール・パートの名前が入り、背中側にポートノイと書かれたシャツを着ている。このシャツは、先述したニール・パートへのトリビュートイベントでも着用していたもの。彼がニールの魂を継承していることの証だろう。その魂が、まさにグレートスピリッツにつながっていくものではないだろうか。
カールのELPレガシーとマイキーが叩いた2112の映像は凄いですね。私はエイジアで生カールを見てますが、やはりELPのカールが本来の姿かなぁって感じます。マイキーは是非一度生で見てみたいです。
ハードよりのプログレという意味では、ELP Legacy と2112が、今回の動画では光ってますね。こういう曲であるがゆえに、ドラムも手数足数が多く躍動していると思います。
マンジーニさんについても何か書こうかと思ってたんですが、今回はちょっと時間がなかったのでそこまで至りませんでした……