俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

当事者

2014-12-14 10:26:40 | Weblog
 科学の実験で想定外の結果が出たら科学者なら大喜びするだろう。新しい事実が発見されたからだ。社会について政治家やマスコミが調査をして想定外の結果が出れば多分隠蔽するだろう。そのデータは闇に葬られて都合の良いデータが使われる。あるいは同じデータでも全く逆の意味で利用する。
 理系と文系では実験・調査に対する姿勢が根本的に違う。理系では事実を知ることが優先され、文系では主張を裏付けるために利用されるだけだ。
 実はこれは理系と文系の違いではなく、利害関係が絡むからだ。社会問題であれば自分の利害が絡むが、科学の実験であればリチウムの炎が赤であれ青であれどちらでも構わないから客観性が保たれる。
 理系での最悪の実験は薬の臨床データの捏造だ。ノバルティスファーマ社だけではなくこれまでに無数とも思えるほど多くのデータが捏造された。利害が絡めば科学者であっても事実より先に結論が出現する。
 裁判においても当事者は公正な判断ができない。犯罪の被害者やその家族に加害者を裁かせればとんでもない判決になるだろう。いくら公正な裁判官でも自分自身を裁くことはできまい。他人に委ねることになるだろう。当事者は公正たり得ない。
 これとは逆のことを主張する奇妙なグループがある。「差別されている者にしかその苦しみは理解できない」とフェミニストは主張する。この主張だけであれば間違っていない。間違っているのはその続きの隠された部分だ。女性問題は女性の主張が最大限反映されるべきだと彼女らは言う。私は全く逆に、当事者は公正たり得ないと考える。しかしこれでは困ったことになる。男女共に女性問題の当事者なのだから誰も公正な判断などできないということになってしまう。
 例えば喫煙者差別を痛感しているのは喫煙者だが、これは決して喫煙者に判定権があることにはならない。人種差別問題も差別される側に優先権があるとは思えない。差別される側と差別する側の合意が必要だ。
 子供の頃、私はキャッチボールで顔面に来る球が苦手だった。グラブで顔を覆ってしまうので球を見失うからだ。そのためにわざわざ右に移動して体の左側で捕球していた。これと同じ愚行ではないだろうか。正面に来る球こそ一番よく見えるのだからしっかり見て直前にグラブを差し出せば良い。早くグラブを構えるから球が見えなくなる。これと同様、早くから価値判断をしてそれを見直さないから却って事実を見失う。差別される側の人は一番よく見える位置にいるのだから極力長く正確に事実を把握することに徹して、公正な判断は他者に委ねたほうが良いのではないだろうか。

勝ち組

2014-12-14 09:42:46 | Weblog
 勝ち組の境遇は悲惨だ。勝ち組になれるのは猛烈なサバイバルレースで生き残った者だけだ。時代錯誤とも思えるモーレツ社員が勝ち組の正体だ。休日出勤やサービス残業も厭わない者でなければ勝ち組にはなれない。
 勝ち組は多忙だ。寸暇を惜しんで働く。残業よりもデートを優先できるのは負け組だけだ。勝ち組はデートどころか親子の情まで犠牲にせねばならない。
 体育会系の社員の影響も大きい。彼らは努力と忍耐と競争が大好きだ。彼らの我武者羅な働きぶりに影響を受ける人は少なくないが、彼らと比較されたら迷惑だ。
 重役出勤という言葉は日本とアメリカでは全然意味が違う。アメリカでの重役出勤とは早朝から深夜まで働き続けることを意味する。サバイバルレースはこんな勤務を若年層にまで強いる。
 恥ずかしい話だが、私もこんな馬鹿げたサバイバルレースに途中まで参加していた。年間4,000時間以上働いていた時期があった。課長だったから時間外手当は無い。当時の給料を時間給に換算してみれば新入社員以下だった。すっかり「社畜」化していたので、環境の変化が無ければこのままサバイバルレースに参加し続けていただろう。
 転機になったのは博覧会の仕事のために出向したことだ。準備期間中は毎日定刻で帰れる生活になり読書を楽しむ余裕も生まれた。これでマインドコントロールが解けた。仕事のことしか考えない生活が馬鹿馬鹿しくなった。
 サバイバルレースを勝ち抜いた人から見れば、レースから降りた者は斜に構える捻くれ者に見える。レースに参加する能力があるのに参加しない者は異端者であり秩序を破壊する者と解釈され易い。
 勝ち組であろうとする人は自らの意思でブラック企業並みに働く。この実態は平均値では分からない。有給休暇取得率は48.8%とのことだが、皆が半分近くを取得している訳ではない。負け組に甘んじる人の消化率は100%近く、勝ち組に入ろうとする人の消化率は0%だ。
 ある調査では26.9%の人が自分の勤務先をブラック企業だと考えているそうだ。本当のブラック企業はごく一部であって、多くはサバイバルレースで生き残るために自らの意思でブラック企業紛いの生活を選んでいる。
 週50時間以上働く人は31.7%を占めるそうだ。その一方で残業0の社員もいる。勝ち組になるためには若い内から猛烈に働き続けねばならない。企業の奴隷になることによってサバイバルレースに参加する資格が得られる。家庭を顧みない奴隷のような労働をしなければ勝ち組にはなれない。社員をサバイバルレースに参加させてそれを奨励する企業はグレー企業だ。あくまで社員が自らの意思で猛烈に働いているのだからブラック企業とは言えない。死ぬまで働こうとも本人の勝手だ。