俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

不寛容

2015-04-10 10:20:52 | Weblog
 自分にとって不愉快なものを「禁止しろ」と声高に主張する人が少なくない。同性愛や喫煙やエスカレータ上での歩行、あるいは一部のワクチンの接種についてまでこんな主張がしばしば見受けられる。しかし禁止とはそれをしたい人の権利を奪うことであって、安易な禁止論は慎むべきだと私は常々考えている。基本的に、多数者による少数者の権利剥奪は認め難い。有害無益であれば禁止しても良いが、多数者が嫌うという理由での禁止は数による暴挙だ。こんな多数決など認められない。もし中国で多数決をすればチベット族やウィグル族の権利など消し飛んでしまう。多数決は非常に不合理な仕組みだ。
 アメリカでは1920年から1933年まで禁酒法が実施された。これが招いたのは密造酒の急増であり、最も大儲けしたのはマフィアだった。倫理的に誤っていないものを禁止すればこんなことになる。
 売春は最も歴史のある職業だと言われているが、実は歴史よりも遥かに古いようだ。一部の哺乳類や鳥類や昆虫にまで広く存在することが知られている。当然のことだが彼らが金銭を支払う訳ではない。交尾の対価は餌だ。オスにとって交尾欲は食欲にも勝るようだ。
 売春をオスの本能だから公認せよなどと言う気は無いが頭から否定すべきでもなかろう。何らかの折衷策が必要だ。日本の対応は世界的にもユニークだ。ソープランドでは黙認され、ファッションヘルスでは公認されている。公認されているのは「本番行為」をしないからだ。本番さえ無ければ売春ではないとは物凄い理屈ではあるが一応筋は通っている。違法と合法の区別はどこかに線引きが必要であり、それは誰にでも理解できる基準であるべきだろう。挿入することのみを違法とすることは分かり易いし女性の健康を守るためにも有効だ。ヘルス嬢も、合法的職業に就いているのだから余り負い目を感じずに済むし、多くの人はちゃんと納税もしているらしい。もしこれが非合法とされれば、納税したくてもできないという不合理なことになってしまう。
 喫煙者にとって昨今の禁煙ブームは辛い。私は喫煙席の無い特急列車には乗らないのでしばしば数十分無駄な電車待ちをさせられる。飛行機も全席禁煙になったから海外旅行にも行かなくなった。
 並立が可能なら極力共存を目指すべきだろう。不寛容はしばしば争いの原因になる。キリスト教対イスラム教、イスラム教対ユダヤ教、あるいはイスラム教内でのスンニ派対シーア派、これらの一神教は他の宗教を邪教と決め付けるから戦争の原因になる。宗教問題の解決は難しいが、日常生活における不寛容は極力慎むべきだと思う。多数決による少数者の権利剥奪など以ての外だ。多数者による横暴こそ最も反民主的な行為だ。

育孫

2015-04-10 09:39:10 | Weblog
 昔であれば20歳代の父母と50歳代の祖父母が普通だった。しかし結婚年齢の上昇によって30歳代の父母と60歳代の祖父母が標準になりつつある。こんな時代にこそ孫と祖父母の新しい関係が作られるべきだろう。
 50歳代の祖父母であればまだ働き盛りだ。自分自身が忙しいので孫の世話をすることは難しかった。しかし60歳代であれば全然違う。今後定年延長はあろうが、多くの人は嘱託という立場であり仕事上での責任は余り重くない。自由に使える時間も多い。
 キャリアウーマンが可能になるキーマンは祖父母だと思っている。昔であれば20歳代の父母よりも50歳代の祖父母のほうが収入が多かったが、最近のような状況であれば母の収入のほうが祖父の収入を上回ることも珍しくなかろう。収入が多くしかも今後の働き次第で更に増額が見込める父母ではなく、収入が少なくなった祖父母が育児を担当すれば経済的には最も有利だ。父母から祖父母に養育費を支払っても良かろう。その時の一番の問題はどちらの祖父母に預けるかだろう。私は母方が良いと考える。母方であれば母の意向が充分に伝わるが父方であればお互いに遠慮があるから上手く機能しないのではないだろうか。
 こんなことを考えていたら素晴らしい企業が現れた。福島市に本店を構える東邦銀行では120日間の「イクまご(育孫)休暇」を新設したそうだ。これは母親に3年間の育児休暇を与えるよりもずっと良い。厚生労働省は非現実的で結局本人と企業に皺寄せが行く能天気な制度を提唱するよりもこういう有効な策を検討すべきだ。
 この制度の画期的なところは、未取得分の有給休暇が使えることだ。殆んどの企業では有給休暇の権利は2年で消滅する。これは不当であり企業が買い取るべきだと私は考えているが、この銀行にはずっと持ち越せる「積立特別休暇」という制度が以前からあったそうだ。厚労省による有給休暇の5日間強制取得制と比べてずっと優れた仕組みだ。厚労省はこの銀行から労務管理の仕組みについて教わるべきだろう。
 こんな労務環境の素晴らしい企業で働ける社員は幸せだ。労務環境の悪い企業を中途退職せざるを得なかった私から見れば羨ましい限りだ。