奥多摩は杉林が多くて、殺風景な感じだが、それでも歩いていると小さな花を見かけることがある。
名も知らない小さな花だ。
もし街で見かけたら、ぜんぜん目立たない花である。
でも僕はその山奥でひっそりと咲く花が好きだ。
山に登ってヘトヘトに疲れていても、そんな花を見つけると、すごく安らいだ気持ちになる。
僕にとって、花の美しさは、女性の笑顔によく似ている。
僕は、女性の美醜にあまりこだわりがない。しかし、よく笑う女性を好きになる。
状況はまったく思い出せないが、こういうことがあった。
何かの研修のとき(具体的にいうとバレてしまうので)、僕は強がってはいたが、すごく緊張して、不安な気持ちでいた。
なんの話だったかまったく思い出せないが、僕はある女性に話しかけた。
彼女は、ニコって笑って、僕の話を楽しそうに聞いてくれた。ただそれだけだ。他に何もない。
くだらない話だが、僕はその瞬間に、恋に落ちてしまった。
アインシュタインは、「恋に落ちるのは万有引力のせいではない」と言ったそうだ。
たしかにそのとおりだが、僕が恋に落ちるのは、笑顔のせいのようだ。
もうあれから何十年も経つが、その時の笑顔を今でもはっきり覚えている。
僕は、彼女が好きになったのか、その笑顔が好きになったのか、今でもわからない。