9月17日の、国会前のデモを報じるニュースで、俳優の石田純一がアピールしている姿を見ました。そして、参院本会議が開かれているきょうもまた、彼が路上に出ていることをニュースで知りました。
私が見た、彼のドラマ(映画)はひとつだけ。オーストラリアのテレビドラマ「カウラ大脱走」。太平洋戦争中に実際にオーストラリアで起きた事件を、長編のドラマに仕立てたものです。このドラマの主人公の一人が彼でした。見たのは、20年近く前だったと思います。デモに出て熱く語っている彼の姿を見て、このドラマを紹介したくなりました。
さて、このドラマの舞台はオーストラリアのカウラという町。太平洋戦争中、南方で戦っていた日本軍兵士がオーストラリア軍の捕虜となり、この町にある収容所に収監されました。かなりの数の日本兵が収容されるのですが、そこで日本兵たちは思いもかけないほどの待遇を受けます。労働も課されるのですが、ちゃんとレクリェーションの時間もあり、日本人は魚を好む民族だというので、わざわざ日本人捕虜のために魚の料理も供されるほど。
最初は戸惑いますが、そのうち、看守の現地の兵隊たちと親しくなる日本人も出てきます。ところが、日本人捕虜を二つの収容所にわける、という計画を突然、彼らは知らされます。「ジュネーヴ条約の規定に基づいて移送の前日に、日本人捕虜に通達された。日本兵にとって、下士官と兵の信頼関係は厚く結ばれたものであるという理論に基づき、全体一緒の移送ならば良いが、分離しての移管を受け入れることができない日本兵は、それを契機として捕虜収容所からの脱走を計画することになる(以前から計画はしていなかった[3])。日本人捕虜はミーティングで、要求を受け入れるか、反対して脱走をするかの多数決投票を行った。この際、トイレットペーパーに移送受諾か否かを○×で行ったという。「脱走に非参加」と投票した者も少数いたが、結果として、移送計画へ協調しない、すなわち脱走することで決定した。当時の集団心理としてのけ者になる、目立つことへの恐怖の心理が投票に強く働いて、ほとんどが脱走に賛成したことを現生存者は証言している」(ウィキペディア)
こうして、1000人以上いた旧日本軍の兵士たちは、一斉に脱走。しかし、武器らしい武器は食器のナイフやフォークなど。最初から死を覚悟しての脱走です。案の定、かなりの数の兵士が撃たれ、死にます。
当時、日本軍兵士は、ジュネーブ条約の存在を知らされず、「生きて俘虜の辱めを受けず」という「戦陣訓」の一節をあたまにたたきこまれていました。だから、カウラ収容所でも、かなりの割合の兵士たちが偽名を使い、祖国への手紙を書くことも拒んだそうです。祖国にいる家族に、息子や夫が俘虜になっていると知らせることで周囲から受ける軋轢を恐れたからです。
よく覚えていませんが、石田純一扮する兵隊は、オーストラリア人と仲良くなり、収容所での生活に安らぎをおぼえます。ところが、突然脱走計画が持ち上がり、おどろきます。無謀なこの計画を立てたのは上官。日本人捕虜全部の無理心中をはかったのです。
主人公は苦しみ、悩みます。そして最後は・・・。石田純一の熱演が、感動的でした。邦題はたぶん、ドイツの捕虜収容所からの脱走を成功させるアメリカ映画「大脱走」から名付けられたものだと思うのですが、内容は大違いです。カウラの脱走には正義がない。成功の見込みもない。捕虜全員が、自殺行為とわかっていて、上官のいうことに賛成して、実行します。西洋人には理解しがたい行為でした。見終わった後、大変な疲労感を覚えた記憶がありますが、とてもまじめに作られたいいドラマです。日本人の話なのに外国で作られ、日本ではあまり話題にならなかったらしいことが残念です。