アンティマキのいいかげん田舎暮らし

アンティマキは、愛知県北東部の山里にある、草木染めと焼き菓子の工房です。スローライフの忙しい日々を綴ります。

映画「真昼の暗黒」

2017-03-29 09:20:45 | 映画とドラマと本と絵画
   この映画は、のちに冤罪事件の代表格とされた八海事件の裁判中に作られた、実話に基づくものです。八海事件は、中国地方のとある村で起きた、老夫婦二人が惨殺された事件。犯人はすぐつかまり自供したのですが、警察は彼一人の犯行と認めず、彼の遊び仲間数人による犯罪と断定します。

    断定に至る経過がすごい。最初から複数犯によるものと決めてかかり、自白を強要。殴る蹴る、束にした線香で鼻先をいぶす、眠らせない、などなど、要するに思考能力を極限まで低下させて、意識朦朧となった容疑者たちに、無理やり捺印させます。

    当時は、戦中、一般の人たちを怖がらせた特高や憲兵が、そのまま警察に残っていたそうなので、治安維持法の下、拷問をかけて自白させていた習わしが平気でまかり通っていたのではないかとおもわれます。

    いったんは有罪になりますが、原告は一転して無罪を主張。その後、正木ひろしという弁護士が、現場検証、新たな証人の発掘などに尽力して、あきらかに警察のでっち上げであることを証明します。真犯人は、最初に自供した一人のみで、あとは無罪だとの主張です。

    ところが、容疑者もその家族も、完全に勝訴!と喜んでいたのもつかの間、有罪の判決が下されます。真犯人は無期懲役、仲間のうちの一人のほうが罪が重く、死刑を宣告されます。唯一の望みは最高裁でのたたかいしかない、というところで映画は終了します。

    事件が起きたのは1951年。映画ができたのは1956年。裁判中の映画の上映は許可できないと圧力がかかり、映倫からも制作会社は脱退を余儀なくされます。でも、自主上映に踏み切り、その年の数々の賞を獲得。それでも、復帰は果たせなかったそうです。

    捜査中の犯罪をテーマにするとなると、いろいろ差しさわりがあることも考えられるけれど、係争中の事件をテーマにしてはならないとは、驚きの対応です。時の政府や警察、司法が、一般の批判を受けたくなかったからとしか思えません。

    実はこの映画、わたしはだいぶ小さい時に見ています。幼心にもかなり強烈な印象を持ったらしく、老夫婦が殺されるシーンで、電球が揺れるところをはっきり覚えていました。

    ようやく勝訴できたのは、事件から数えて17年後の1968年。長すぎます。子供のころ同様に、全編暗い気分で鑑賞。息苦しくなって、いちどきには見られませんでした。レンタルしたこのDVDを見終わった日は、おりしも共謀罪が閣議決定された日でした。
コメント
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