晴耕雨読とか

本読んだり、いきものを見たり。でも、ほんとうは、ずっと仕事してます。

人生最良の日 その2 「か、囲まれてる!?」

2012年03月18日 | 生き物
1992年3月7日。パタゴニアを巡る旅はそろそろ中盤にさしかかっていた。その日は、パイネ国立公園を去る日だった。

強い風が吹き抜ける草原をひたすら歩き、南極ブナの森や氷河を見た。そして、なによりグアナコだ。

ラクダの仲間だというグアナコ。まるでテレビで見たサバンナを闊歩するシマウマのように、草原にグアナコの群れがたたずんでいた。ダーウィンレアやクルペオギツネが動き回り、広大な空にはレンズ雲が飛び、コンドルが舞っていた。「大自然」という言葉が、これ以上ぴったりな場所に来たことはなかった。



その日、街に帰る前にちょっと小さな避難小屋の周りを散策。グアナコの群れを発見して、ゆっくりゆっくり近づく。愛機ニコンEMにタムロンの70-210mmズームを付けていた。一匹にターゲットを決め、シャッターを切る。グアナコがちょっと気にしてこっちを見る。

別に君のことは気にしてないよ~と、わざとあさっての方を見る。

再びグアナコが草を食みはじめる。ゆっくりゆっくり近づいて、また写真を撮る。



最終的に、7~8mまで近づいた。ファインダーいっぱいのグアナコ。

(うおー、近い近い! グアナコ近い!!)

岩合光昭にでもなった気分。そのとき、はっと気がつく。

(あれ? か、囲まれてる!?)

目の前にグアナコ、横にもグアナコ、そして後ろにもグアナコ。いつも間にかグアナコも群れの真ん中にいた。こちらを気にしているのは目の前のグアナコだけ。群れは、のんびり草を食みつつゆっくり移動している。

パタゴニアの大自然の中の、グアナコの群れの中の自分。

奇跡的に風はなく、ベッベッベッとグアナコが草をちぎるように食む音に包まれる。

音…。草を食む音。草がちぎれる音。

時間にすればわずか数分だったのかな。1ヶ月の旅で、最高の時だった。