父方の祖父はお酒が大好きで、無類の日本酒党だった。味よりも量という感じで、安い日本酒をがばがば飲むタイプだった。
晩年は医者に酒を止められていたのだけど、ある時一緒に電車に乗っていたら、ボックスシートの向かいに坐ったおじさんがワンカップの日本酒を開けてちびちびやりだした。向かいのおじさんはしあわせそうだ。祖父はかっと目を見開き、食い入るようなまなざしで向かいのおじさんのワンカップを見つめ続ける。禁止されているだけに、よけい飲みたかったのだろう。あとで祖父は、「そんなにじろじろ見てはいけません」と祖母にたしなめられた。
まだお酒も禁止されずに元気だった頃、祖父はお茶漬けのかわり日本酒漬けをやっていた。おちょこの日本酒をさっと御飯にかけ、さらさらっとかきこむのだ。日本酒はもともと米で作ったものだから、御飯とよくあうのだとか。祖父はじつにおいしそうに食べていた。
大人になってから、一度真似をして日本酒漬けをやってみたのだけど、まあこんなものかなという感じで、とくにおいしいとも思わなかった。僕はお酒に弱いし、それほどお酒が好きというわけでもないからなのだろう。日本酒党の人でなければあのおいしさはわからないのだろうな。
(2016年3月22日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第348話として投稿しました。
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