風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

真昼間から白酒を飲むおっちゃんたち(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第176話)

2013年06月05日 19時21分44秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』
 
 昼ごはんは広州の郊外のレストランに入ることが多い。
 適当に炒め物を頼んで中国茶を飲みながらご飯を食べるのだけど、郊外のレストランには必ず真昼間から白酒を飲んで大騒ぎしているおっちゃんのグループが何組もいる。
 ある日入った郊外の海鮮レストランでは、おっちゃんたちは白酒のボトルを円卓に置き、川魚の刺身を肴にして白酒を飲み続けていた。おひさまが燦々と輝く真昼間なのに、レストランのそこかしこで宴会モードだ。おっちゃんたちはみな農民か肉体労働者の顔をした人ばかりだった。
「ねえ、彼らはなんの仕事をしてるの?」
 僕はいっしょに食事をしていた広州人の男の子に訊いた。
「たぶん、仕事はしてないですよ」
「そうだろうねえ。あんなに飲んだら午後は仕事にならないよな。でも、どうやって生活しているの? 短期間で稼げる仕事でもして、あとは遊んで暮しているの?」
「仕事をしなくてもお金がいっぱい入るんですよ」
「え?」
 広州人の男の子はからくりを教えてくれた。
 もともと彼らは農民で、田畑で米やさとうきびやバナナを作っていた。
 ところが改革開放後、広州郊外ではマンションや工業団地の開発が進み、村の農地を不動産会社や工場へ貸すことになった。村は企業から土地の賃貸料を受け取り、それを村人に分配する。収入の多い村では一人当たり年間十万元(百三十万円)もの「不動産収入」があるという。広州の大学新卒の二倍以上の年収があるわけだ。
「そりゃ、年間十万元ももらえたら仕事をしないわな」
 僕はレストランを見渡した。酔ってご機嫌のおっちゃんたちは天国で暮しているような気分なんだろうな。
「うらやましいですよ。なんの心配もせずに毎日楽しく過ごせます。そんな村の若い人たちは大学とか専門学校に行かずに、やっぱり遊んで暮しています。不動産の収入を元手にして自分の店を開いたりして商売をする人もいますけど」
 男の子はいいよなあという顔をする。
「うーん」
 僕は考えこんでしまった。
 お金が欲しいのは僕も同じだ。
 宝くじを買う時は、もしも三億円をあててしまったら、勤めを辞めてなにをしようかと想像を膨らませる。
 でもなあ。毎日、真昼間から飲んだくれてるのは、やっぱりよくないと思うんだけどなあ。




(2012年5月15日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第176話として投稿しました。 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/

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