親知らずが痛んで眠れない。
考えてみれば、最近、無意識のうちに頰を手で押さえていることがよくあった。無意識のうちにかばおうとしていたのだろうか。痛いと感じたことはなかったのだけど。
以前、昆明で大学病院の歯科へ行ったことがあった。日本のように番号順に呼ばれるわけではないから、みんなデンタルベッドの脇に行列を作る。もちろん、歯科医は治療しているので、行列しながら他人の治療を見ている。デンタルベッドのうえで治療を受ける時は、たえず順番待ちの人の視線を感じることになる。早く終わって自分の順番がきてくれないかなあという気配を感じる。僕もそう思いながら人様の治療を見ていたからおたがいさまなのだけど。
町の歯科診療所は美容院みたいなガラス張りで、外から丸見えの場合が多い。入るのはちょっと勇気がいる。偏見なのは自分でもわかっているのだけど、こんなのでほんとに大丈夫かなあとどうしても思ってしまう。
広州の場合、外国人向けの高級歯科診療所もある。技術はたしかなのだろうけど、べらぼうな治療費を請求されそうだ。保険が利かないから治療費はそっくりそのまま支払わなければならない。どうしたものかと悩んでしまう。親知らずを抜くだけだから、町の診療所で十分だとは思うのだけど。
ところで、親知らずのことを英語では“wisdom tooth”と呼ぶそうだ。智慧のある歯なら、斜めになんかならずにもう少し考えて生えてくれよな。頼むよ。
(2011年8月1日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第118話として投稿しました。 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/