12月9日(土) (入院して6日)
今日の朝は参った。とうとう垂れ流してしまった。不味い朝食に食欲はないが少しでも食べなければ動けなくなる、体重は48kgになっていた。鼻につくバタートーストと生温かい牛乳を口の中で混ぜ柔らかくしては胃に流し込んでいた。食べ終わって十分も経っただろうか、お腹の中がごろごろと盛んに動く、下腹に力がなく危ない感じがした。やばい、肛門を窄め内股で歩いてバスルームへ向かったが下の出口に絞まりがない。歩きながら重いものがルーズなブリーフの下を引っ張る、内股に生温かさを感じてバスルームに駆け込んだ。誰にも気づかれなかった。誰にも見つからなかった。汚物に汚れた尻とブリーフを水で洗った。汚物に汚れたぼくの心は深い傷をいつまでも残すだろう。投げ捨てたトレーナーを着てベッドに戻った。そこに崩れるようにして横になり天井の一点を見詰めるぼくの目は動けない。こんな時、無理をしてはいけない。体力の回復を待とう、時間は十分にある。何度もこんな状況を生き抜いてきた。
退院したら日本に帰るのか、帰る家もない、自分の本も机もすべて処分し遺言まで書いて出国してきた。本当に日本へ帰るのか。カトマンズにいるスンダルはどうしているのだろうか、ぼくを待ってくれていたとしたらそれには応えなければならない。ヘロインを本当に切れるのか、その事を今はっきりと自分に言ってみろ、正直に粉は絶対吸わないと言い切れるのか。気持ちは定まっていない、退院したらまた粉の世界に戻るのか?
ニナは二十年間インドでスタッフを吸い続けそして今日も吸って生きている。ぼくの運は下がり続けているのかもしれない。密告による逮捕、11ヶ月の刑務所生活、40万ルピーでの保釈、その保釈中に今度は大使館に捕まり粉を切るために詰らない病院に入れられてしまった。早くここから逃げ出そう、こんな病院なんて何の意味もない。
アユミは何か薬をやったのだろう、グリーン・GHに泊まっていた。
「パラ、知ってる?」とぼくに聞いた。