ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅      薬物後遺症と心の傷・・・3

2011-12-07 | 3章 デリー中央精神病院・入院記録
   「デリー中央精神病院・入院記録」・・・3

 ベッドで横になろうとしていると、シスターが新しいシーツを持って病室に入って来た。街の安ホテルとは違う、やはり病院だ。彼女は新しいシーツをテーブルの上に置き、使ったシーツを持って病室から出て行ってしまった。普通だったら使ったシーツはその辺りに置いて、まずベットメーキングをして患者が早く横になれるようにすると思うのだが、待っているが中々シスターは戻って来ない。それでもやっとベッドメーキングが終り、ぼくがベッドに上がると今度は枕カバーの交換を始めた。まあインドにはインドなりのやり方がある。さっき患者を毛布で包んで運んだのだから、今この病室には毛布がない。彼女は分かっているのだろうか。暖房設備などない病院だ、12月は少し冷える。やっと毛布が揃ってぼくはベッドの上で横になった。
 前の部屋より狭くなったようだが窓があり少し明るい。暗い病室は気が滅入る。ぼくはベッドに横たわり時を失うように時間が早く過ぎ去る事だけを考えていた。5日が過ぎ1週間、10日が過ぎて、薬物禁断から回復している自分を知る事が出来る。処方薬を飲んだのは朝の1回だけで薬の効果はまだ分からない。禁断になると何故だか涙や鼻水が頻繁に出始める。風邪のような肌寒さと微熱が続き、頭を動かすと脳内に青白い電気が稲妻のように奔る。窓を見ていた。寝返りを打って壁を見る。壁を見ているとぼくは時を失う。
壁には染みや線と濃淡の影がある。それらは色々な画像をぼくに見せてくれる。ぼくは気ままに絵を描く、飽きると新しいイメージを求めて視線を移動させる。元の場所へ目を向けるがそこにはもう同じ絵は見えない。
 人が歩くサンダルの音がして、誰かがぼくの病室に入って来た。
「ねえ、この絵、見て」
ノートの1ページにカラーペンで描かれた絵を持って入って来たのはアユミだった。ノートの右上と左下だけに小さく描かれた絵
「この上の絵と、下の絵はねぇ~」説明を続けるアユミ
「ふぅん、この絵と絵の間は白いけど何も描かないの?」
「白い部分には描けないの。上と下の絵は繋がっているんだから」
絵を描いたら見せるとぼくに約束してアユミは戻って行った。
彼女の絵はドラッグの深みからリアリティーに帰着できずにいる心象を現しているようにぼくには思えた。スタッフを断って3日目
「分離したリアリティ」をさ迷っているぼくはそんな彼女の不可解な絵を一緒に考え話し合うことが出来た。
 
コメント
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