下村満子著「アラビアの王様と王妃たち」(昭和49年 朝日新聞社刊)を、読了。
アラブ首長国連邦の名前はよく耳にするが、連邦が7ケ国で構成され、しかも昭和45年に作られたばかりの若い国であるなど、知らないことばかりだった。
アブダビやドバイはよく聞くけれど、他の5ケ国については名前も知らない。人口の多い順に国名を並べてみよう。ドバイ(226万人)、アブダビ(196万人)、シャルージャ(96万人)、アジュマーン(23万人)、ラッセルヘイマ(19万人)、フジャイラ(12万人)、ウンマルクエイン(6万人)という具合だ。
日本の都市と比較してみると、一番多いドバイは名古屋市の人口に近く、アブダビは札幌市、シャルージャは千葉市、アジュマーンは八戸市、ラッセルヘイマは日立市、フジャイラは国分寺市、ウンマルクエインは名護市に相当する。7ケ国の内石油が出るのは、ドバイ、アブダビ、シャルージャの3ケ国だけで、他の国は漁業や農業、貿易などで国が成り立っている。
豊かな産油国は人口が多く、一番人口の少ないウンマルクエインは、今も貧しく未開な土地が多い。連邦が生まれる前は、アジュマーンやラッセルヘイマ、シャルージャは、周辺国を恐れさせる、海賊の国だったという。連邦となることで、産油国からの支援が経常的に行われ、互いの平和と安全が保たれるようになったというのだから、うまい工夫をしたものと感心する。
連邦の大統領は、アブダビの国王である、シェイク・ザイードだ。この人物は昭和48年の中東戦争直後、「アメリカへの石油輸出を停止する」と言って、あの有名な世界石油危機をもたらした張本人である。石油で潤う豊かな国と、依然として貧しい非産油国。連邦内での経済格差を考えると、七つの国は早晩一つになっていくのではなかろうか。
同じアラブ人が住み、言葉は同じアラビア語、宗教はイスラムで共通しているのだから、連邦の国民にすれば、王様毎に別れている意味がないし、一つになって豊かになる方が良いと思うのではないか。豊かな国の方が断トツに人口が多いのだし、貧しい国を吸収しても、経済的には困難がない。貧しい国の王様だって、肩の荷が下りるというものだろう。
むしろ大変なのは、女性の問題だ。イスラムの教えは、どうしてこうも、女に不利益に作られているのか、徹底した男尊女卑の教えである。尊い戒めが沢山あるとしても、女性に限って要約すると、何が何でも夫に従えと言い、夫が妻を何人持っても許されるが、妻には一人の夫が強制される。
結婚について、女性には選択権が無く、高い値段で売り買いされる物でしかない。豊かになった王様の一族は、女性の教育が大事だと考え、外国へ行かせたり、国内で教育を充実したりしているが、目覚めた女性たちは、今度は、結婚できないという現実にぶつかっている。
何故と言って、他国の事情を知り、愛に目覚めた女性にすれば、狭い了見の夫に素直に従う気になどなれないし、男の側に立てば、高学歴な女はややこしくて、面倒だと敬遠したくなる。
日本でも、目覚め過ぎた女性は、男女同権、男女平等とうるさく叫び、男だって子供を産めと言わんばかりで、周囲をうんざりさせている。それでも日本は、江戸から明治大正と長い時間が経過し、今の過激な女性活動家の間に、平塚らいちょうや与謝野晶子などが緩衝剤のように存在している。しかし連邦では、江戸から一足飛びに、頑迷な人権女性が、突然男女平等を主張するのだから、これから生じる問題は、私など想像のできない深刻さかもしれない。
それでもまあ、読後の感想はさほど悪くない。朝日新聞社の出版だから、とんでもない本だろうと、とシッカリ覚悟したせいもあったのか。可も無く不可もなく、余計な政治談義も無く、まっとうな書物だった。
新聞だって、こんなふうに客観的なら、日本がどれほど良い国になることか。田母神氏が高い地位を棒に振ってまで、「日本は良い国です。」と言わずに済んだのに。
やはり田母神氏に、同情せずにおれない私だ。