安部総理が、経済政策の一つとして、農業の再生を大きく掲げている。
意欲のある農家の壁となっていた農協を、抵抗勢力に屈せず、強い意思で解体したのもその一環だった。千葉日報の記事によると、2015年現在の日本の農業人口は、二百万七千人だ。10年前と比較すると、五十万六千人の減少である。千葉県と茨城県は農業生産額と農業所得額で、北海道に次ぐ全国二位の農業県だという。
厚労省の統計によれば、日本にいる外国人労働者数は、2015年現在で約九十万七千人だ。内訳は、日系人在留者が三十六万七千人、留学生のアルバイトが十九万二千人、技能実習生が十六万八千人となっている。出身国別に見ると、中国人が三十二万二千人と最も多く、ベトナム人の十一万人がこれに続く。
これとは別に、法務省の調査では、2015年現在の国内不法労働者数が7973人で、この内の21%の1744人が農業分野にいるとのこと。中国、タイ、ベトナムの出身者が多く、彼らはもぐりのブローカーを通じて、ほとんどが千葉県や茨城県の農家で働かされているらしい。人手不足の農家が、違法と知りつつ目先の利益のため彼らを使っている実態を、千葉日報が報じている。
外国人研修員制度を通じて農家へ来る労働者もいるが、ブローカーを通じた労働者は時間給が750円であるのに対し、研修員制度を経ると、1000円を超えるという。農家の主人へのインタビュー記事によると、ブローカーを通じる働き手は研修員に比べ、格段に日本語がうまく、即戦力になるらしい。残業規制がなく繁忙期の役に立ち、長期雇用の研修生と異なり、二三ヶ月の短期労働が可能で安上がりのため、背に腹は変えられないと語る。
6月12日、6月20日、6月21日の千葉日報の記事を元にこのブログを書いているが、読んでいると、総理の農業政策の基盤の脆弱さにため息が出そうになる。二年前の5月に、外国人研修員制度の実態をブログに書いたが、再確認を兼ね、くどくなっても引用してみたい。
「研修員制度の目的は、開発途上国への国際貢献と国際協力のため、日本の技術、技能、知識の習得を支援する制度だ。」「推進団体は、「財団法人国際協力研修機構」略してジッコ ( JITCO )といい、関係する省庁は、厚生労働省、経済産業省、法務省などだ。」
「研修員制度で来日した近隣諸国の若者たちに関する、過去の新聞報道を思い出すと、農業研修に来た中国青年が研修先の農家の夫婦を惨殺したとか、首をかしげたくなるような事件がある。」
「中国研修生を3名受け入れた今治市のタオル業者は、賃金不払いで監督署の是正勧告を受けると、研修生たちを騙して中国へ連れ戻り、そのまま現地で放置したという。」「長崎の長与町の会社は、バングラディッシュから受け入れた女性に給料10万円を直接払わず、中間業者に9万円渡し、本人には1万円しか与えなかった。」「彼女が京都地裁に訴えて判明したのだというが、長崎で働く彼女がどうして京都地裁なのか、調べ出すと、気の滅入るような事件が次々と出てくる。」
「最低賃金法違反、時間外の不払い、パスポート取り上げ、強制貯金、保証金・違約金による身柄拘束など、言葉の通じない彼や彼女らの弱い立場につけ込んだ残酷な仕打ち。」「ジッコ ( JITCO )の高邁な目的はどこかへ消え失せ、主に3K現場での人手不足を解消するための、低賃金労働者を集める制度に成り果てている現実だ。」
「平成17年の研修生数は83,319人で、この内中国人が66%を占め、残りがインドネシア、タイ、ベトナム、ネパールの順らしい。平成19年には、米国務省から人身売買の指摘をされ、制度の廃止を提案されていたというのだから驚かされる。」
「人道を外れた行為への糾弾には、右も左もない。制度を悪用する人間や、悪人たちは懲らしめねばならない。」「これでは、帰国した若者たちは親日どころか、日本憎悪の固まりとなってしまう。」「いったい、こんなことの、どこが国際貢献なのか。」
「日本人は、立派なことを言っても、やっていることは違う。」「信用できない、ウソつきだと非難されたら、私は恥じて頭を垂れるしか無い。」
二年前のブログ以来、研修員制度の中身がどのくらい改善されたのか、私は知らない。舛添氏のスキャンダルみたいに、世間やマスコミが大騒ぎすれば別だが、話題にならない研修員制度が既に改善されているとは、とても思えない。
最近の千葉日報の記事は、研修員制度を含む、もっと広範な外国人労働者問題への警鐘だ。改善されていない研修員制度に加え、外国人労働者問題と不法就労者の問題があるという指摘である。政府や政治家や役人はもちろんだが、私にも「国際情勢」や「安全保障」への意識が薄いこと、さらに言えば「危機意識」の欠如があることを痛感する。
外国人労働者問題の背後にあるのは、「移民問題」「民族問題」「宗教問題」だ。イギリスがEUから脱退した大きな理由は、移民による国内秩序の混乱と過大な経済負担だった。対岸の火事のように眺めている私たちだが、すでに100万人もいる外国人労働者が、500万人となり、1000万人となるのは時間の問題でしか無い。目先の金儲けに追われている人間たちに任せていたら、早晩民族問題が国内で火を吹き、流血や暴動が発生する。
せめて世の指導者と呼ばれる政治家や、聡明な官僚諸氏、あるいは評論家などには、もっと警鐘を鳴らして欲しいものだ。千葉日報だけに任せるのでなく、日本の問題として、なぜ指摘しないのか。当面安上がりだからと放任していたら、混乱や騒擾時の経済的損失は目を覆うものになると、私みたいな愚人にだって予想がつく。
6月21日の記事では、「国の労働トラブル相談。外国人対応、未整備20県」と題して、言葉の通じない彼らの相談を受けるための窓口が、いかに整備されていないかを訴えている。日本語の話せない労働者のため必要とされる言葉は、英語、中国語、ポルトガル語、スペイン語、タガログ語だ。
しかし窓口の新設や言語の拡充を検討している労働局や労基署はなく、多くが予算の問題を理由にしているという。こんなことでは、農業の再生も、日本の国際化も、総理が掲げるだけのお題目になってしまう。
新聞が伝える、外国人対応窓口「未整備県20県」を、列挙する。青森、秋田、岩手、福島、山形、新潟、石川、奈良、和歌山、鳥取、山口、香川、愛媛、高知、佐賀、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄。
都市によっては、必要のないところもあるのだろうが、それにしてもなんという多数の県であることか。総理のお膝元である山口県もそうなのだから、呆れてものが言えない。
こうした記事を載せる千葉日報は、既に朝日、毎日、読売の全国紙を越え、マスコミの鏡となりつつある。自慢して良いのか、悲しむべきことなのか・・・・、気づいているのが「みみずの戯言」を言う私一人であること。褒められたところで、千葉日報社は喜びもしないだろう。
しかしまあ、現実なんてこんなものだ。