平成23年8月に、U-Tubeで、表題の肩書を持つ、菅沼光弘氏を、初めて知った。外国人特派員記者クラブで、「日本の裏社会」について語る氏だった。
眼光鋭く聴衆を眺めつつ、自信に満ちた口調だった。日本のヤクザの60%が同和出身者で、残りの30%が在日で、10%が中国人と日本人だと言う。在日ヤクザの30%の内、北朝鮮系が3割と、のっけから数字を示され、在日の占める多さに驚いた記憶がある。
5年前のことなので、正確に覚えていないが、もう一つ驚いた言葉がある。
「ヤクザは、警察にとっては犯罪者ですが、私たちには情報提供者なんです。」「私は山口組のナンバーツーと、」「親しく付き合っております。」「ヤクザは、いわば必要悪なのです。」
公安も警察も、同じだと思っていたので、ヤクザとの親密さを公言して憚らない氏に、違和感を覚えた。そして昨日、偶然目にしたチャンネル桜の動画を見て、違和感が確信となった。
チャンネル桜の、女性と男性の司会者を相手に、氏が北朝鮮について語っていた。
「日本が戦後処理を終えていない国は、北朝鮮とロシアであり、」「これは、最優先で解決しなければならない課題だ。」「ドイツは、とっくに敗戦後の処理を完了しており、」「こんなことでは、日本は国際社会において相手にされない。」「拉致問題だけに焦点を当てているが、」「北朝鮮との国交回復は、同時並行ででも進めなくてならない。」
「韓国だってそうだったが、北朝鮮も日本の植民地だったのだから、」「日本こそが率先して、主体的に国交回復を計るべきだ。」と、反論を許さない勢いで語っていた。
何時もなら、元気に解説するチャンネル桜の司会者たちも、勢いに押されたのか、一歩も二歩もへりくだり、先生先生と奉り、まともな反論さえできない。拉致問題の解決なしに、北朝鮮とは妥協しないと、日頃のチャンネル桜の勢いは、どこへ行ったのか、不思議でならなかった。
別の動画を探してみると、氏は6月、7月と、頻繁にチャンネル桜に出演し、あたかも独演会みたいな有様だった。水島氏でさえ、ひたすら相槌を打つだけだったから、情けない思いがした。
6月の動画では、かって朴大統領の時に、日韓がうまくいっていたのは、軍人政権だったからで、軍人たちのほとんどが旧日本軍にいた者だった。日本との意思疎通は何の問題もなかったという話だ。
「朴大統領が暗殺されたのは、彼が核兵器を持とうとしたため、アメリカの逆鱗に触れたからだ。」「世間で言われている、政権内の闘争ではない。」「以後アメリカは、韓国の反日感情を煽り始め、慰安婦問題にしても、」「韓国の意思というより、アメリカのやらせだ。」
7月の動画では、日本がまともな情報機関を持てないのは、アメリカの妨害だと主張する。情報機関というのは、単に機密情報を収集するだけでなく、謀略や殺人だってする組織であり、綺麗ごとの集団ではない。
要するに、氏は強烈な反米主義者であった。確かに、氏の持論にはうなづける部分がある。中国の南京問題や、韓国の慰安婦問題の背後には、故意に放任する米国の意思があると、私は見ている。あるいは日本に、本格的な情報機関を作らせたくないという、非協力的な面も感じる。
しかし氏は、ネットで調べてみると、北朝鮮賛美者の一人であり、朝鮮総連への理解者でもある。「9.11の同時多発テロ」が、アメリカの自作自演だったという、極論への賛同者だと知るにいたっては、疑問符が幾つも付いてくる氏だ。
どうしてこのような人物が、公安調査庁にいたのか不思議でならない。
氏は昭和11年に京都府で生まれ、東大卒業後に、公安調査庁へ入庁している。近畿、和歌山、中国、千葉と、地方の公安調査局に勤務した後、本庁へ戻り、第二調査部部長を最後に退官している。現在は「アジア社会経済開発研究会」という団体を主宰し、評論家として活動中だ。
どこへ行っても、先生と追従される氏だが、それは何と言っても「公安調査庁」という、厳めしい官庁の出身者であるところから来ているような、気がする。
そこでいつもの通りネットで調べてみたが、何ということはない、法務省の外局にすぎない、二流どころの組織だった。昭和27年に設置されたもので、平成17年現在の定員は1,498人、年間予算が151億円しかない。共産党やテロ等の危険な組織を監視し、収集した情報を報告するのみで、警察のように、被疑者を逮捕したり、取り調べたりする権限も持っていない。
警察庁の下には、同様な名称の公安組織があり、こちらの方が本物のようである。むしろ公安調査庁は、戦後に生まれた中途半端な公安組織で、もしかすると、やがて整理統合されるべき集団でないかと思えてきた。
まずもって私は、政府関係者に提言したい。不用意な意見を述べる、元公安関係者を放任しておいて良いのかという点だ。本当なのか、作りごと半分なのか、確認できない話を、何も知らない国民に拡散して良いのか。
陰謀や暗殺が、諜報機関につきものだとしても、公然と語るべきものなのだろうか。本物の情報機関員なら、一生口に鍵をかけ、軽々しく喋らないのが本当でないのか。暗闇の世界に生きる者には、暗闇に生きる掟があるはずだし、自ら選んだ道なら、誇りをもって一生を闇の中で力を発揮して欲しいではないか。
私には、氏のような胆力も、弁舌もないが、重要な組織の一員となったからには、守るべき責任と義務があることは、知っているつもりだ。
それとも氏は、世間に石ころのように、無数に存在する、金儲けだけ考える、評論家になり下がっているのだろうか。どんなに立派そうに見えても、今の私には、氏が「獅子身中の虫」、「駆除すべき害虫」の仲間にしか見えない。