菅直人氏著「総理大臣の器」( 平成15年刊 幻冬舎 ) を、読了。
読む前は、少しバカにしていたのですが、読み進む内に、真面目な気持ちになりました。民主党が政権を取ったのが、平成21年ですから、その6年前の本ということになります。小泉内閣の時代なので、野党議員らしく、初めから終わりまで自民党と小泉氏への批判です。
終始、「自分が総理大臣になったら、こんな風にするぞ」という、積極果敢な姿勢で書かれています。それなのにどうして鳩山氏が先に総理になったのか、そこは何も書いていません。先ず、氏の経歴を紹介します。
・昭和21年、山口県生まれ、東京工大を卒業後、弁理士のかたわら市民運動に参加します。
・昭和55年、氏は衆議院議員に初当選し、平成6年に「新党さきがけ」に入党
・平成8年、橋本連立内閣で厚生大臣に就任し、薬害エイズ問題を究明
・同年に鳩山氏らと「民主党」を結成し、代表の一人に就任すると共に、政権獲得のため「自由党」を率いる小沢氏と折衝し、両党の合併を目指す
大学卒業後に弁護士になったと勘違いしましたが、弁理士でした。ネットで調べますと、次のような仕事をする者ということを初めて知りました。
・特許・意匠・商標などの出願に関する特許庁への手続についての代理
・知的財産権に関する仲裁事件の手続についての代理
・特許や著作物に関する権利、技術上の秘密の売買契約、ライセンスなどの契約交渉や契約締結の代理
・特許法等に規定する訴訟に関する訴訟代理
先日の「希望の党」の合併騒ぎとの違いを考えると、関係者の裏話に興味を惹かされますので、そのまま紹介します。
「小沢さんと私は、アプローチの違いはあるが、交代可能な二大政党の実現という目標はずっと共有している。」
「だから、これを一致点とすれば、連携は可能だと前から考えていた。」
「政界再編のあり方について、小沢さんは、自民党と民主党を分裂させて再編すると、よく語っていた。」
「これについて、私は小沢さんに言った。」「自民党はともかく、民主党を割るということはやめて欲しい。」
「小沢さんと合流するとしても、民主党の方は丸ごとだ。」「この人たちはいらないとか、この人たちだけと組むとかそういう発想は困る。」
「合併への具体的な動きは、鳩山代表が、突然小沢代表を訪ねたことに始まる。」
「松野頼三さんのアドバイスだったらしいが、誰にも相談せず、側近と呼ばれる中野寛政幹事長も、知らなかったようだ。」
「党内が騒然となり、鳩山さんは代表を辞任され、私が代表に選ばれたが、申し送り事項は自由党との合流だった。」
「私は当初、選挙協力を主とする " オリーブの木 " 方式を考えていたが、小沢氏は合併方式だった。」
「民主党では岡田幹事長が、全議員と懇談し聞き取り調査をした。」
「結果は、合併に積極的な議員が4割、慎重派が三割、中間派が三割だった。」
「自由党と合併することで、反対派が党を出て行ったのではマイナスになるから、全員が納得しなければ、絶対合流はできないと私は考えていた。」
「いまの民主党だけで選挙に突入しても、政権交代を実現できる可能性は、ゼロでないとしても、かなり厳しいと私は思っていた。」
「最も反対していた枝野幸雄政調会長にしても、民主党に、自由党が入って来るという形だったら、反対しませんよということだったが、まさか小沢さんが、そんなことを決断するはずがなかった。」
「実は、枝野君については、前原誠司氏がこう言っていた。」「菅さんが合併を決断し、枝野君が反対するのなら、羽交い締めにしてでも枝野君を連れて行くから大丈夫です。」
「つまり若手議員の間でも、党が分裂してはならないという意識が、強かったわけだ。」「これなら、小沢さんたちと一緒になっても、混乱することはないだろうと確信した。」
「小沢さんたちに最も遠いと思われているのが、横路孝弘さんたちのグループだ。」「特に、安全保障の点では、一致するはずがない。」
「ところが、そうではないのだ。国連中心主義という点で、一致している。」
「イラクへの派兵に反対、という点でも一致している。国連決議の下でなら、自衛隊の海外派遣も完全には否定していない。」
氏が横路氏の了承を取りつけたところで、小沢氏が、自由党を解散して民主党へ合流するという案を、予期に反して受け入れました。
こうして両党の合併が成功しますが、今回の民主党と希望の党の合併劇とは、かなり様子が違います。
小池氏と前原氏の組み合わせは、小沢氏と菅氏を彷彿とさせますが、壊し屋の異名をとる小沢氏に対し、民主党の分裂はダメだと言った菅氏の直感の正しさを知らされます。従って、いかに事情が切迫していたとは言え、今回の前原氏の拙速さは否定できない気がします。
合併の裏話は、本論とあまり関係がありませんが、今も活躍している当事者が沢山いますので、明日の政治を考える人間には参考になる気がします。もう少し、菅氏の話を紹介します。
「私はこれまで、小沢さんとあまり接点がなかった。」
「そういう自分が交渉相手になったことが、困難と思われた合併を成功させた理由かもしれない。」
「自民党はもちろん、一部のマスコミも、二人が喧嘩をして袂を別つことを期待するであろう。」
「私たち二人にあれこれ注進し、互いを疑心暗鬼にさせようとするだろう。」
「こうしたことは、鳩山さんとの間でも、だいぶやられた。」「小沢さんとも、同じだろう。」
「しかし私たちの信頼関係は、なんら揺らぐことはない。」「目標はただ一点。自民党からの政権奪還だ。」
明日から本題に入りますが、種明かしを知ったミステリーの読者のような気持ちにもなります。意気込んでいる菅氏には、感心させられたり、勉強させられたり、有意義な著作ですから失望はしないでしょう。
ということで、今夜はここまでと致します。おやすみなさい。