民主党が政権を取る前、菅氏がどれほど意気盛んだったのか、次の叙述から伺えます。
・「誰が総理大臣になっても同じと、よく言われる。」「ただしそれは、自民党政権では、という前提条件が必要だ。」
・「官僚と族議員主導の自民党政権のもとでは、何も変わらない。」「しかし、民主党政権になれば確実に変わる。それは、すべてを変えるからだ。」
官僚の協力が得られず、国会答弁も満足にこなせず、他国の大統領や首相、あるいは主席などと、対等な外交もできず、国民に愛想を尽かされ、惨めな最期を見せた民主党政権でしたが、菅氏の意見には、今後の自民党政治を見守っていく上において、無視できない真実も含まれています。
ですから「ねこ庭」は、氏の意見も肝に銘じておきたいのです。
民主党をこき下ろしてばかりいますが、「盗人 ( ぬすっと ) にも三分の理」の諺どおり、この書には、理の通った意見が混じっています。息子と孫たちには、是非ともそれを知り、現実のままならぬ複雑さや奥の深さを知って欲しいと願います。
・「民主党が政権をとれば、官僚主導の政治のすべてを変えることが、内閣の基本方針である。」「そのためには、最強の内閣、最強の官邸を作り上げる。」
・「もちろん、ここに官僚と族議員の入り込む余地はない。」「政治主導内閣、政治主導政権、これが菅内閣の最大の特徴であり、これを作り上げることが最大の目標でもある。」
忘れもしません。当時の自民党の政治家たちは、企業と癒着し、官僚と手を組み、税金を湯水のように浪費して、自分たちの懐を肥やし、金権腐敗の政治をやっていました。
国民は自民党の政治家に失望し、官僚の無節操に怒り、企業の強欲さを嫌悪しました。そういう時の民主党の台頭でしたから、マスコミが飛びつき、もてはやしました。
菅氏の著作も、飛ぶように売れたのかもしれません。氏がいくら風呂敷を広げても疑う者はなく、返って期待を膨らませたはずです。
・「菅内閣の組閣は、私の責任で、私のリーダーシップのもとでやりたい。」
・「自民党がやってきたように、派閥ごとに人数を割り振り、入閣希望リストを出してもらい、それで決めるようなことは絶対しない。」
・「当選回数や年齢、取り組んできた専門分野などをもとに決めるが、何よりも官僚のいいなりにならない人というのが、最大の決め手になる。」
竹下総理は、菅氏とは違ったことを言う総理大臣でした。
・「何でもかんでも、役人のやることに総理が口出しをすべきではない。」
・「それぞれの役所が、知恵を絞って働いているのだから、政治の具体的な施策は、司 ( つかさ ) 司 ( つかさ ) に任せれば良い。」
しかし菅氏は、竹下氏のような総理が沢山いたから、日本の政治がダメになったと信じて疑いません。
・「官邸には総理執務室があり、その隣に秘書官室がある。」
・「つねに総理のそばにいるのが、秘書官であり、その数は五人だ。」
・「これまでの総理秘書官は、その五人のうち四人までが、役所からの出向だ。財務相、外務省、経済産業省、警察庁から、一人ずつだ。」
・「それぞれの省との、連絡役だ。」「連絡役と書いたが、言葉は悪いが彼らはスパイだ。」
氏のお陰で、図らずも官邸の内側を知ることができました。興味深い内容なので、そのまま文章を紹介します。
・「つまり総理大臣は、役所からのスパイに見守られながら、仕事をしているのだ。」
・「誰が面会に来たのか、どんな本を読んでいるのか、すべて役所に筒抜けなのだ。食べるものの好みまで、知られている。」
・「さらに役所からきている秘書官は、相互に監視し合っている。」「忠誠心が出身官庁に向けられていて、総理には向けられていない。」
・「秘書官チームのまとまりはなく、それぞれの思惑で、バラバラに行動する面もあるようだ。」
・「官僚と一体になっている、自民党の総理大臣ならばそれでいいのかも知れないが、官僚主導政治を終わらせることを最大の仕事と考えている私の場合、これは困る。」
・「私はまず、役所からの出向は断り、私のこれまでのスタッフや、党のスタッフなどから連れて来たい。」
改革を本気でやろうとすれば、菅氏のような方法しかないのだろうとは思います。しかしこの結果、国政の中心で何が起こったか。ここがとても大切なところです。
官僚との関係を切った代わりに、氏が連れて来たスタッフはどんなメンバーだったのか。昔の左翼市民活動家だったり、在日だったり、国家機密の中心とも言える官邸に、入れてはならない人物たちが含まれていました。
総理官邸だけでなく民主党の大臣たちは、それぞれの官庁に、菅氏と同様の人間を連れて来ました。総理や大臣は、官僚によるスパイは免れたのでしょうが、逆に日本の官庁が、民主党のスパイに侵入されました。
国民である私たちは、民主党が政権を失った後でこうした事実を知りましたが、それは、官僚主導政治の弊害とは比べ物にならない国益の侵害でした。
しかしこれは後日談ですから、今しばらく菅氏の意見を聞きましょう。
じわりと込み上げる怒りもありますが、そこはそれ、「 盗人 ( ぬすっと ) にも三分の理 」です。無視できない、耳痛い指摘もあります。
・「自民党という党は、党と内閣で別々に物事を決定している。」
・「内閣が提出する政府の法案ですら、先に党が決定しなければ、内閣で決められない。」
・「で、その党はどうなっているのか。」「政策分野ごとに部会があり、ある法案を出したいとなれば、その部会、関係する役人が説明にやってくる。」
・「そこには、官僚に取り込まれた族議員がいて、 " 賛成 " と決めていく。」
・「党の部会での決定を受けて、事務次官会議にかけられ、その後閣議決定となる。」
・「閣議の実態はサイン会であり、そこでは何も議論がない。」
・「つまり、党と内閣との二本立てで政策を決めているようでいて、実際は、すべて官僚が決めている。」「官僚主導そのものだ。」
・「閣議をどう運営するか、これは私が大臣になったときから、ずっと考えていたことだった。」
・「現在の自民党の閣議では、回ってくる書類に、次々と署名するだけである。」
・「政府提出の法案、政令、政府の人事、外交文書など、閣議に提出される文書は様々で、いずれも大臣が署名することで決定され、承認されていく。」
・「実際に経験して分かったのは、あまりに案件がありすぎるので、閣議で議論しようとすると、逆に何も議論できなくなってしまうことが、分かった。」
・「そこで事務次官会議の代わりに、副大臣会議を開き、そこで徹底的に議論してもらい、上がってきたものを承認する。」
・「見かけは自民党の閣議と同じかもしれないが、実態が全然違う。」
・「官僚のシナリオに基づく、サイン会をするのでなく、政治家が責任を持って議論し作ったものを上げてくるのだから、政治主導の決定になる。」
・「官僚の抵抗にあう前に、新しい内閣ができた時点で、次官会議の廃止を宣言するとともに、事務次官たちを集め新政権としての方針を示し、方針に従えるかを問いただし、できない人には止めてもらう。」
民主党政権下で、次官会議の廃止が決まったとき、新聞が大見出しで報道していたのを、昨日のことのように思い出します。
「政治家主導の政治」、「官僚政治との決別」などと、マスコミが盛んに報道していた言葉が、菅氏の著書から発信されていたとは今日まで知りませんでした。
何であっても、極論でものごとを推し進めると、碌なことはありません。正論でも急激な変革は、社会に混乱と騒ぎをもたらし、目的を外れてしまいがちです。
現在の自民党政権下で、こうした民主党の改革がどうなっているのか、私は知りません。マスコミも報道せず、政治家たちも語らないので、推測するしかできませんが、マンネリ化した政界に、一つの衝撃を加えたのは間違いない事実でしょう。
菅氏が、日本を蔑んだり憎んだりする、反日の政治家でなければ、もっと本気で意見を聞けたのでしようが、個別に正論があっても、基本が間違っていれば、受け入れる気になりません。
今回の衆議院選挙では、小池氏のお陰で、本来は獅子身中の虫で、駆除すべき害虫なのに、民主党の議員が多数当選してしまいました。
氏の著作も自由法曹団の書に似て、間違いの叙述ばかりでないところが特徴です。すべて間違っているのでなく、所々に正しい意見が混じっていることになりますと、お花畑の人間が虜になり、「官僚政治反対」「霞が関の改革を ! 」と、声を上げます。
今回の選挙で、氏の街頭演説には聴衆の姿がありませんでした。空気に向かって喋っている候補者でしたから、落選すると思っていましたのに、当選していました。
鳩山氏に次ぐ最悪の宰相と酷評されていても、議員になれるのですから、氏の選挙区には、まだまだ「お花畑」が広がっているのが分かります。
本日も長いブログとなりましたが、内容の紹介が残っているため、もう一日氏とおつき合いをしたいと思います。羊頭狗肉の見本みたいな本ですから、興味のない人は訪問されない方が、貴重な時間を無駄にせずに済みます。