田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

霧降の滝/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-03-22 09:08:52 | Weblog
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「ふたりで暮らしたかった……そういわれて……うれしかった」
「すぐになくならなかった。そうでしたか……即死ではなかった」
「そうよ。古川記念病院で一晩苦しみぬいたわ。
そして、うなされて、いろんなこといったわ。
おれが死んだら悲しまないでくれ。またかならずめぐりあえるから。
三年目の命日に霧降に来てくれ。
そうすれば、おれは待っている。
いいか、三年目だ。それまで、さよなら。さようなら……。
そういって、息絶えたの。……今日……がその日、なの」
女は少年を覗き込む。
少年は女の視線を正面から受け止める。
女は少年の言葉を期待する。
期待するような言葉は少年からはもどってこない。

少年は沈黙。

「わたしそれから耐えた。
なにもしないで、いやしたわ。
彼の写真を元にして庭に霧降の滝のミニチァを作った。
滝はいまでも流れている。
わたしが留守にしてもひとりで流れている。
自動的に水が還流するようになっているの。
いつまでも小さな瀑流は絶えないのよ。
ねえ、あの岩壁ができるまでに何億年かかっているの。
霧降の滝が飛瀑として流れ落ちるまでにどれくらいの年月が経過したというの。
まだこの辺にひとが住みだすずっとまえから絶壁はあった。
滝は流れ落ちていた。
わたしの悲しさなんてなにほどのことがあるの。
彼を失った、残されたわたしの孤独、わたしの彼への愛。
彼への想い。
すべてわたしという個体が生み出した幻想よ。
でも、生きている間はね、その幻想を大切にしたかった。
してきた。
地球の創成から五十億年。
シーラカンスが三億八千万年。
ひとの命は長くて百年。
自然と比べればわたしたちの命は短すぎる。
人間の寿命は短すぎる。
わたしはその命をさらに短くしょうとした。
霧降にもなんどかきたわ。
でもいままではなんにも起きなかった。
わたしは死ぬこともできないでいた。
わたしが死ぬことを彼がゆるしてくれない。
よろこばない。
わたしが命を絶つことはみとめられていない。
そう思ったら生きる力が湧いてきたの。
彼の分まで生きなければならない。
そう考えるようになるまでに……三年かかったのよ」




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