田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

幸せな家庭を壊したのは誰だ イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-07 15:42:45 | Weblog


誠はじぶんのいびきで目覚めた。
ソファでうとうとしていた。
誠ちゃんこのごろ、いびきすごいわ。
歯ぎしりも……と妻に言われている。
この年になって、誠ちゃん、でもないだろう。

誠ちゃん!
ベローンと鼻汁をたらす劇画の主人公と同じ名前だ。
歯ぎしりをともなった苦しげないびきで誠は目覚めた。
だれも部屋にはいない。
しなやかな身ごなしで、
さわやかないい匂いをふりまきながら部屋をよこぎる、
妻と、冴子、理佐、翔太の子供たちは西早稲田のマンションにいる。

どうして、こんなことになってしまったのか。
誰のせいなのか?
なぜ、わがやの平和はみだされてしまったのか。
それは、はっきりしている。
翔太がいじめにあったからだ。
虐待されたからだ。
幸せな家庭が崩壊してしまった。
  
誠はたったひとりとりのこされている。
威嚇するような獣のうなり声が独り住まいの部屋にひびく。
それがじぶんの口からでているのだと気付くまでにだいぶ時間があった。                  
いつのころだったか、同じような音がしていた。
そのときは、妻が大騒ぎをした。
ミュとムックが押し入れのなかで寝ていた。
翔太がひろってきて育てたミュがオスのネコを産んだ。
それがムックだ。
だからあれは2年くらい前だろう。
子供たちの年齢ではなく、
猫との共生の時間で過ぎこしかたを思う習慣がついていた。
子供たちのことを思うと胸が痛む。
ああみんなで生活できていたら楽しいのに……。
こんなひとりだけの田舎で生活がつづくとは……。

猫も豪快にイビキをかくものだ。
それがわかるまでは、誠の空想はたいへんなものだった。
音をだしている実体がこの空間に存在しないということは、
ひょっとするとこの部屋は4次元につながるウインドウかも知れない。
などと息巻くしまつだった。               
それからというもの、
誠がなにか予知めいたことをいっても妻には相手にされなくなってしまった。
妻のほうは女性特有の現実認識をふりかざして、
夫の言うことにはつきあってくれない。
あなたの空想癖にアイヅチを打つ暇があるくらいなら、
洗濯ものの皺をのばしたほうがましよ。
洗濯のすんだ衣類を緑色のプラスチックのカゴにいれ、
階段をかけ上っていく。       
……干し物をびしっびしっと伸ばしたり、
ぺたぺた掌でたたいたりする音は一刻の中断もなくベランダからふってきた。

ひとりきりで広い家で生活しているといつも妻や子供たちのことばかり思っている。
どうして、こんなことになってしまったのだ。
なにが起きてしまったのだ。
なにが起きようとしているのだ。

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