田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

由美先生、死なないで イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-17 20:32:25 | Weblog
5

 友ちゃんと太田があとずさった。
 保健室からでていこうとしている。
 勝平は由美先生の足を下から支えている。
 どうしてなんだ。
 きみらを東京から引率してきた先生じゃないか。
 やさしい先生じゃないか。
 どうして、このまま、置き去りにして逃げるんだ。
 そして、勝平は思った。
 死ぬことは、負けることなんかじゃない。
 暴力に屈しない心の強さがそこにはあるんだ。
 由美先生はおれたちが、あいつらに見つかるのを守ろうとしているんだ。
 どたどたと丸太を廊下にたたきつけるような足音。
 橋田先生だ。
 なぜなんだ。
 チビで赤鼻のアイツがどうしてあんなに重い足音なんだ。
 どうして由美先生を犯した仲間に橋田先生が入っているんだ。
 先生同志じゃないか。
 由美先生をたすけてあげたらいいじゃないか。
 足音がひびいてくる。
 まちがいない橋田先生だ。
 みつかったら殺される。
 殺されないまでも、死ぬほど竹の鞭で叩かれる。
 太田と友ちゃんに両手をひかれた。
 二人に引きずられた。
 ロッカーの後ろに隠れた。
 勝平は泣いていた。
 しまいに涙がでなくなった。
 先生がロープのさきでかすかに揺れていた。
 ちくちく目が痛い。
 泣いているのに涙がでない。
 先生が揺れていた。
 まだ生きていたはずだ。
 目が真っ赤に充血している。
 目が痛む。
 血の涙をこぼすとはこういうことなのだろう。
 先生がおれの体をけった。
 おれたちを逃がすためにおれの肩をけった。
 おれたちを逃がすために。
 ひときわ濃い陰毛は多量の精液にまみれたままだった。
 腟から逆流した異臭。
 のしたたり。
 生徒たちはなにがなんだかわからない。
 寡黙になっていた。    
 複数の男たちの夥しい精液が腟の襞に吸収されないままながれだしていた。
 あの精液に橋田先生のものも含まれている。
 由美先生の下半身から血がしたたっていた。
 その顔からは急激に生気がうしなわれていった。
 非情な重みが由美先生の喉を締めることになった。
 由美先生の目からなみだがしたたっていた。
 どうして、あんなこと……するんだよ。
 どうしてひとがひとをいたぶるんだよ。
 どうして? ひとがひとを、殺すんだ。


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強くなってね イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-17 05:31:30 | Weblog
4
 由美先生の保健室の前まで逃げてきていた。
 部屋にはいった。
 止めた。
 ぼくらは止めた。
 だが由美先生はぼくらのすきをついた。
 ぼくらが気づいた時は、もう遅かった。
 由美先生は椅子にのっていた。
 保健室の梁にロープをかけた。
「センセイ。ヤメテ」
 おねがい、椅子をけって。
 このままわたしを死なせて。
「だめだよ。先生、死ぬなんていわないで」
 友ちゃんと太田が泣きながら説得した。
 ロープから先生の首を外そうと必死だった。
 机を持ってきた。
 その上に乗った。
 梁にまかれたロープを外すことはできなかった。
 昇り棒がわりにロープが何本も垂れ下がっていた。
 雨天でも、この保健室にくれば腕力を鍛えられるように。
 ロープが何本も下がっていた。
 雨天体操場をかねていた。
 体操場は校舎に駐留している兵隊さんの軍事訓練につかわれていた。
 先生はそのロープで首をくくろうとしているのだ。  
「たのむからやめてよ」
 勝平も泣き出していた。
 
 このことをおぼえていて。
 勝平君は作文がうまいのだから。
 このことを書きとめておいて。
 忘れないで。
 わたしのことを覚えていてね。
 みんなは男の子なんだから。
 暴力に負けない強い子になってね。
 強くなって。
 黄昏色の光が保健室にさしこんでいた。
 
 先生、どうしてそんなことするの?
 はやく家にかえろうよ。
 お寺の部屋にかえろうよ。
 由美先生は裸身に剥かれた姿で形相をかえた。
 はやく。 
 あいつらがもどってくるまでにわたしを死なせて。
 そして友ちゃんと太田君が――。
 泣きながら椅子を蹴った。
 由美先生にたのまれたとおり――。

「どうしょう。
だれかくるよ。
ほら、そこまで足音が近づいてきてる。
もう由美先生を助けることなんかできない。
どうして椅子をけったのだよ」
「逃げよう。勝平ちゃん」
 友ちゃんと大田君が勝平の手を引く。
「だれかロープをきってよ」
「ナイフなんか持っていないよ」
 

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