田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

花壇にカギを捨てたのは誰 イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-10 04:58:01 | Weblog


教室のカギがなくなった。
カギがなくなったときの状況を担任の女教師は確かめることもしなかった。
翔太がやったことにされてしまった。
翔太が盗んで、どこかに捨てたのだろうと、なんども殴られたというのだ。
教室のすぐ下の学級花壇にはインパチェンスの花が咲き乱れていた。

「わたしのピンクの花ふまないでよ。翔太」
窓を開けて秀子が叫ぶ。
「わたしのもよ」
富子が叫ぶ。
女の子がどっとはやしたてる。
クラスのみんなが、窓のあたりに集まってきた。
窓から体をのりだす。
手拍子までしてはやしたてた。
「翔太。バカ太。翔太。バカ太」

どこをさがせばいいのだよ。
だいいち花壇にぼくがカギをすてた。
なんて、どうしてありもしないことを先生にいいつけるの。
そして、我田先生はどうして、ぼくのいうことを信じてくれないのだ。
花壇の前でためらっている翔太に。
「なにもたもたしているの。はやくカギさがして持ってきなさい」
先生の叱咤が教室からとんでくる。
ピシャリと窓が閉められてしまった。
教室の騒音が小さくなった。
なにごともなかったように授業をつづける我田先生の声がもれてくる。
先生は、いつもの授業をつづけている。
翔太を教室から追い出しておいて、平気で授業をしている。
どうして、いつも、ぼくだけがイジメられるのだ。
ぼくだけが、のけ者にされている。
見つかるわけのないカギを、教室の真下の花壇で放課後まで探させられた。
花壇の草花の根元を茎を倒さないように注意してカギを探した。
指が痛い。
指に泥がねばりつく。
爪が割れた。 
泥まみれになった。
ズボンの膝も、裾も泥だらけだ。

「翔太はぼくらといっしょだったよ。先生」
「翔太は学級花壇になんかにはいらなかったよ。先生」
とは云わなかった。
と証言してくれなかった。

だれも翔太を弁護してくれない。
ショックだった。
淋しかった。
独りぼっちなんだ。
どうしてぼくだけ、みんなにイジメられるんだ。
きらわれるんだ。
先生にまで……。

泣き出したいのに耐えた。
すぐにでも、ここから逃げて家に帰りたかった。
くやしさに翔太は震えていた。 
ここのまま逃げ出したい。   
校庭を走り抜ける。
K葬儀社の黒い花輪の列を右に見て、まっすぐ弁天池の方へ逃げたい。
家に帰りたい。
だが、その気持ちを押さえ込んだ。
あの厳しい先生のことだ。
そうした行動にぼくがでれば、髪をふりみだして追跡してくるだろう。
追いつかれる恐怖を背筋で予感した。

はやく家に帰ってミュウとムックと遊びたい。
ぼくのともだちは猫だ。
ミュウだけだ。
ムックだけだ。
インパチエンスの根元でなにか光った。
土の中にカギが埋まっていた。
土にささっていない部分が光っている。
あるべきではないモノが、あるべき場所でないところにあった。
幻であるわけがない。
紛れもない。
カギだ。
花壇になどカギが投げ捨ててあるわけがない。
カギになぞ触れたこともなかった。
あるはずのない、カギを探させられていると思っていたのに。
ここにカギがある。
これはどういうことなのだ。
カギが花壇にあった。

「そんな。おかしいよ」
翔太は固まった。
「やっぱり、翔太が犯人だったのね」     
うしろに我田先生が潜んでいた。
「翔太、嘘つき翔太。
なんてことするの。
どこにカギをすててもちゃんと神様がみているんだからね。
嘘をつくことはいちばんわるいことなのよ。
わかった。
これからはもう悪いことはしませんとちかいなさい」

ことばによる暴力というものもある。
やりもしないことを強制的に反省させられる。
生徒はどんな苦しみをあじわうだろうか。
教師にあるまじき暴言だ。  
親に心配かけるのがいやで翔太は、じっと耐えてきた。              
心に秘めていた。
親にはいわなかった。

それをきいて、誠は、これまでだと思った。                   
教室という密閉空間で起きたことは――。
外部へはありのまま伝わることはない……。
その場に冷静な第三者が不在だ。
教師はいかようにも現実を歪曲させることができる。
この街ではそういうことが学校で日常茶飯事として起きている。
いやもっとひどい暴力がまかりとおっている。
抗議しても無駄だ。 
解決策はない。 
転校させよう。
緊急避難だ。
このまま放置すれば、悪意はエスカレートする。
憎悪のカッターナイフは翔太の体をねらうにちがいない。 
それをとめてくれるものはいない。
教室でも校庭でも事前にその害意に気づき、とめてくれるものはいない。
事件が起きてしまったら、もうおそいのだ。
さいわい、翔太の二人の姉たちが西早稲田のマンションから大学に通学している。

転校させる。
ほかの選択肢は残されていないのだろう。
でないと、翔太が殺される。 
カッターナイフでランドセルを切る。
それほどの悪意をもった友達のいるクラスにはとてもおいておけない。

だが、〈いじめ〉からの退避だけで翔太を転校させたわけではない。  
それだけの理由で一家離散の生活を選択したわけではなかった。

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