田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

翔太に闇がふたたび…… イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-29 07:31:11 | Weblog


午後になっても妻からは連絡がない。

時間は過ぎていく。

どうなっているのか。

さっぱりわからない。

いつもの……連絡下手の妻の仕打ちにいらいらする。
神沼と東京の隔たりが恨めしくもある。
西早稲田のマンションになんど電話してもつながらない。
病院の翔太に付き添っているのだろうか。

直ぐに入院させなければ……。
とりかえしのつかないことになる……。

とは……。
どういうことか。
どうして、直ぐでなければいけないのか。
そんなに緊急を要する容態なのか。
説明をもとめようとしたが、呼びだし音に応答はない。

翔太はどうなっているのか?
容態の経過を聞こうにも、連絡がつかない。
時間はたつばかりだ。
(わたしに相談する猶予もあたえず、急遽入院させるほど、差し迫った病状だということは、やはり肺炎をおこしているのではないか)

いくら考えてもわからない。
わからないことを、わからないままにしておくわけにはいかない。

翔太が向こう側にとりこまれてしまう。
翔太は病気だけではない。
また〈闇〉が翔太をとりこもうとしている。

不安はつのるばかりだ。

上京する。

4駆動で上京したが、地理不案内なので車は有料駐車場にあずけた。
高田馬場の駅前から、誠はタクシーにのった。
運転手が、ひどく機嫌がわるかったはずだ。
あっという間に、井波病院の車寄せについた。
病院ばかりどでかくなって……と……。
運転手は嫌悪をこめた、すてゼリフを吐いた。
乗り込んだときからとげとげしい雰囲気だった。
快適な気分で病院につけるとは期待していなかった。
田舎で、塾生相手に暮らしている。
大人の悪態には慣れていない。
唖然とする。
悪態の対象がじぶんである。
そんな気がしてしまった。
その言動には、身に危険さいおよびそうな過激さがあった。
虫のいどころが悪かったのだろうが――。
客の面前でわめくことばではあるまい。
ごていねいに、窓から唾をはきすてた。

白い化粧レンガタイルの総合病院は高台にあった。
遥か遠景に都庁や新都心の超高層ビル群が見える。
建物の両サイドの広々とした駐車場。
奇妙なことにほとんど車はなかった。
車の区画表示の白い線が冬の日光にあぶられていた。
白線にはそこだけ立体的に盛り上がっている印象があった。
車の棺のようだった。
埃っぽい風が無人のだだっ広い空間を吹きぬけていった。
急ぎ足で病院の正面玄関に移動する。
誠の目に、揺らぐ木々の樹頭が映っていた。
群葉のざわめきは翔太が苦しんでいるように感じられた。



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