田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

死の糾明 イジメ教師は悪魔の顔 麻屋与志夫

2011-09-27 14:54:52 | Weblog
13

朝から、テレビは慧君事件で大騒ぎとなった。

「そっとしておいてください」

画面では……、小野崎がうなだれていた。
伏し目がちだった。
意気消沈。
いまにも泣きだしそうだった。
おなじ言葉をくりかえしていた。
小野崎に誠は歯がゆかった。

父親だろう。
子供が死を賭して、抗議しようとしたことを。
糾明する立場になぜ立たないのだ。
それで、教師としての立場が危うくなるのなら。
教師なんかやめてしまえばいいのだ。

なぜなんだ。
息子が、死をもって抗議したことを糾明しない。
なぜ慧君が追い詰められたのか。
客観的に事件をあきらかにする方向で。
発言できないのか。
またこの問題も。
不明瞭なまま。
解決されず。
世間から忘れさられていくのか。

それでいいのか。
それでいいのか。
小野崎が目前にいるように、誠はめずらしく激していた。

教師であるまえに父親なんだ。
父親は命を賭して家族を守るべきなんだ。
それが義務だとか、そんなもんだいじゃない。
男としての本能だろうが。

電話がなった。
テレビをみた妻からのものだった。

翔太を転校させてよかったわ。
誠ちゃんが感じていた不安ってこういうことだったのね。
慧君かわいそう。
妻は泣き出していた。
妻の声をきいているうちに誠は冷静になることができた。
香取と会話を交わしていて……。
口からついてでた。
《われわれは暴力の国にすんでいる》というのは。
フオークナーの言葉だったかもしれないと唐突におもった。
 
冷えた朝食をひとりですませた。

スーパーで買い物をした。
あいかわらず、妻は子供たちのところだ。
単身残留の、独りだけの生活がつづいている。
帰宅したときの習慣で。
大谷石の塀にはめこまれている大型の郵便受けを。
のぞいた。
白い封書が底のほうに落ちていた。
 

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友だちが友だちを殺す? イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-27 09:03:35 | Weblog
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(体育館のマットのなかで中学生が窒息し、
殺されていた問題もなにも解決していない。
刑は確定したもの動機などは解明されていない。
そこえきてこのところ毎日のようにイジメによる自殺がテレビをで報じられている。
どうしてそういうことが起こるのか。
なぜ友だちを死においこむそんな残酷なことのできる子供が育つのか。
わたしたちの敵には姿がないのかもしれない。
あるいは、絶えず姿をかえるモノにわたしたちはとりこまれてしまうのかもしれないのだ。それが学校にはながいこと棲みついているのだ。学校ほど、外部の人間には未知の領域はない。
教師とまだ認識力の曖昧な子供たちしかいない広がり。
闇だな)

それは、学校が、教室が密室を形作っているということによるものだろう。
おおぜいの人間がいるのに、密室というのはおかしい……と誠はながいことかんがえてきた。
教師のまわりは、認識力の低い子供たちばかりだ。
なにか、事件がおきても、けっして客観的な判断はできない。
翔太が鞄の蓋をカッターナイフできられたときも曖昧なまま事件にもならずに、無視され……担任教師の一存で処理されてしまった。

もし、あのまま転校しないでいたら、どうなったろうか、刃物が事物にむいているうちはいい。      

翔太の体にむけられていたらとおもうとふるえがくる。

現に翔太の姉の冴子は小学3年のとき男の子にコンパスのとがった先で胸をつかれたことがあった。
じぶんたちが、暴力の国にすんでいるのをあらためて思いおこした。
暴力は形をかえて、いまだにいきのこり、われわれの理性を麻痺させ、われわれを支配しょうとしているのだ。

「それは、問題をおおきくとらえすぎるよ。誠はいつも、そうなんだ。かわっていないな……おまえさんの思考パターンからすれば、……」
「いや、おおきくとらえることが、小野崎はじめ、教育の現場にいるひとたちへのおもいやり、遠慮なのさ。個人攻撃はこのさいつつしむべきなのだ」
「教育だけが……マスコミの手つかずの……伏魔殿みたいなもんだ……。なにがおきても根本的な反省や解決策がこうじられない」

組織の中で生きたことのない人間がなにをいうという、中島や小野崎の声がふいによみがえった。
 

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唇にチャック イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-27 06:07:10 | Weblog
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おどろくほど早く、注文したクリームシチュウはテーブルにきた。
ゆげをたてている。
解凍コックが作ったものだろう。
レトルト食品をチンしてだすだけの。
レストランのコックを誠はそう呼んでいた。
だが、下手に素材から調理するより旨かった。
ひとくちすると体があたたかくなった。
それでかえって、じぶんが寒さでひえきっているのをかんじた。
むろん悪寒は、寒さのためだけではない。

「あいつの女房のおやじがきてからあんなふうに扉をしめたきりになった」
小野崎の義父は県の教育長をしていた。
結婚当時は夫婦ともども出世コースだ。
などと、ずいぶんと友人やっかまれた。
「それで……クチビルニはチャックさ」
香取が非情な動作で唇の上で指を横にひいてみせた。
「そんなバカな。かりにも一人息子が抗議の自殺をしているんだ。真相の糾明があってしかるべきじゃないか」
「そっとしておいてください……。とりつくしまもない、というところにおまえさんがかけつけたというわけだ」
「なんだ、最初から、ぼくがきたのをみていたのか、ひどいやつだ」
「いや誠ならなかにいれてもらえると、期待していたのだ」
「期待がはずれて、ざんねんだったな」
「まあ、あんなもんだろう。あの状況でインターホンを押せるほど、誠は強面じゃないからな。期待するほうがまちがっていた。プレス人間の悲しい性だな」

慧君は5日前に家出をしていた。
詳細な内容は発表されていないが。
担任の体育教師の暴力に死の抗議をするという。
遺書がのこされていたのだという。
暴力をうけ。
虐待され。
しだいに追い詰められていく状況が。
どうやら、こまごまとノートに記録されていたらしい。
それで、はやい段階から捜査願いがだされ、ひそかに警察も動いていた。
それが、今夜。
野犬があまりほえるので。
パトカーをとめて八幡山公園内にはいった警官が。
首をつって死んでいる慧をさがしあてた。
事件は公にされてしまった。

そういう経緯を誠は香取からきかされた。

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