珍しくコトバの話題を。(方言研究の報告が建前なのに。。。)
今日も月曜日恒例の情報学科の発表会に。今日は遺伝子学。「遺伝子の伝達構造の中で中心近くにあるものは、(1)下手に変化するとその生物にとって致命的であり、(たぶん、そのため)(2)遺伝情報の変化スピードが遅い」という話(誤解でないといいのですが)。また、「遅い」とは、調べた生物の範囲ではどれも、周縁近くにあるものの、だいたい70%くらいなのだそうです。
今日はもう一つ、認知科学の発表会も。こちらはわが学部の音声学者、Port先生の発表。「われわれが記憶・貯蔵している言語音声情報は音韻や異音のような記号レベルのものではなく、本人の声などの詳細な情報が損なわれないままの情報の集合体であり、それが音声知覚&産出で使われるのだ」という趣旨。ここのところ有力になりつつあるExamplar Theoryに賛同する立場です。基本的には賛成なのですが、例えばピッチアクセントの同期や対立などについては、現時点では適切に説明できないだろうと思います。まだアイデアとしては萌芽的で、モデルの精緻化はこれからでしょう。
さて、帰りは雨が降ったのでバスに。アメリカ人の男性の横に座ったのですが、図書館のところで乗ってきたアジア人らしい女性が、彼に話しかけました。会話は日本語。日本人でした。で、彼も、ちょっとたどたどしい日本語で応じるのです。話せるんですね。「日本語会話グループ」もあるし、日本語の授業もあるので、たまにいますが。
知らん振りしながら聞き入っていると、先日の飲み会で、吐いてしまったという話。男性はそこで「久しぶりで飲んだ『けんが』...」。もちろん文脈から、「久しぶりに飲んだ『から』...(気持ち悪くなって)」という意味であることは明白。「お、方言を使う」と思って聞いていると、用例は忘れましたが、もう一度別の文脈で『けんが』を使いました。相手をしている女性は関東方言っぽいコトバ。彼女への「同調」ではないようです。
彼がそこで使っていた日本語は、教室で習ったものというより、日本人の友達と付き合う中で習得したものでしょう。さらには、彼が堂々とそれを使っていることから、彼はそれを特殊なものとしてではなく、「友達同士で使う普通の言い方」としてとらえていることも推測できるように思います。もう一歩飛躍してよければ、この「けんが」を彼に教えた日本人も、「けんが」を、(少なくともくだけた会話で)デフォルトの形式として使用していたのだろう、と思います。
この「けんが」のような、いわゆる「語尾」形式の方言形は健在なんだな、と想像しました。まともに研究したことが無いので自信はありませんが、伝統的な方言の文法形式はそれなりに複雑だからフルに習得して使いこなすのは困難だけど、分かりやすいものを積極的に採用して「自分たち地域の仲間うちのコトバ」らしい感じを出そうとするなら、こういうものが便利なのかなと。「けんが」のような接続形式や終助詞などは、接続が単純で習得が容易だし、比較的目立つ位置に来るので、「方言っぽい話し方」のマーカー(地域の若者にとっての、いわゆるsolidarity marker)として格好なんでしょう。もっとも関東の「べ」みたいに、接続が複雑でも単純化して使う傾向も見られるようですが。
方言文法がご専門の方がたまたまご覧になったら恐ろしいですが、アメリカでアメリカ人が使っているのを聞いたということで、無責任に想像をふくらませてみました。ところで彼は「けんが」をどこで習得したのでしょう。九州には分布しているようですし、かれは断定形式に「や」を使っていたので、西部で間違いないと思いますが。。。 ご覧の方で「ここでよく使う」というのをご存知の方、教えてください。
実は「ちょっとごめん。日本語、どこで勉強したの?」という質問が、喉元まで出ていたのですが、邪魔しては悪いのでやめました。まあ、アメリカにいる、九州出身の人から習得したのかもしれません。
写真は今日の夕方研究会へ向かう途中。大学の正門(Sample Gate)からダウンタウンの方向を撮ったもの。遠くの建物の向こうに見える時計のある建物は、BloomingtonのあるMonroe County(郡みたいなもの?)の庁舎です。
今日も月曜日恒例の情報学科の発表会に。今日は遺伝子学。「遺伝子の伝達構造の中で中心近くにあるものは、(1)下手に変化するとその生物にとって致命的であり、(たぶん、そのため)(2)遺伝情報の変化スピードが遅い」という話(誤解でないといいのですが)。また、「遅い」とは、調べた生物の範囲ではどれも、周縁近くにあるものの、だいたい70%くらいなのだそうです。
今日はもう一つ、認知科学の発表会も。こちらはわが学部の音声学者、Port先生の発表。「われわれが記憶・貯蔵している言語音声情報は音韻や異音のような記号レベルのものではなく、本人の声などの詳細な情報が損なわれないままの情報の集合体であり、それが音声知覚&産出で使われるのだ」という趣旨。ここのところ有力になりつつあるExamplar Theoryに賛同する立場です。基本的には賛成なのですが、例えばピッチアクセントの同期や対立などについては、現時点では適切に説明できないだろうと思います。まだアイデアとしては萌芽的で、モデルの精緻化はこれからでしょう。
さて、帰りは雨が降ったのでバスに。アメリカ人の男性の横に座ったのですが、図書館のところで乗ってきたアジア人らしい女性が、彼に話しかけました。会話は日本語。日本人でした。で、彼も、ちょっとたどたどしい日本語で応じるのです。話せるんですね。「日本語会話グループ」もあるし、日本語の授業もあるので、たまにいますが。
知らん振りしながら聞き入っていると、先日の飲み会で、吐いてしまったという話。男性はそこで「久しぶりで飲んだ『けんが』...」。もちろん文脈から、「久しぶりに飲んだ『から』...(気持ち悪くなって)」という意味であることは明白。「お、方言を使う」と思って聞いていると、用例は忘れましたが、もう一度別の文脈で『けんが』を使いました。相手をしている女性は関東方言っぽいコトバ。彼女への「同調」ではないようです。
彼がそこで使っていた日本語は、教室で習ったものというより、日本人の友達と付き合う中で習得したものでしょう。さらには、彼が堂々とそれを使っていることから、彼はそれを特殊なものとしてではなく、「友達同士で使う普通の言い方」としてとらえていることも推測できるように思います。もう一歩飛躍してよければ、この「けんが」を彼に教えた日本人も、「けんが」を、(少なくともくだけた会話で)デフォルトの形式として使用していたのだろう、と思います。
この「けんが」のような、いわゆる「語尾」形式の方言形は健在なんだな、と想像しました。まともに研究したことが無いので自信はありませんが、伝統的な方言の文法形式はそれなりに複雑だからフルに習得して使いこなすのは困難だけど、分かりやすいものを積極的に採用して「自分たち地域の仲間うちのコトバ」らしい感じを出そうとするなら、こういうものが便利なのかなと。「けんが」のような接続形式や終助詞などは、接続が単純で習得が容易だし、比較的目立つ位置に来るので、「方言っぽい話し方」のマーカー(地域の若者にとっての、いわゆるsolidarity marker)として格好なんでしょう。もっとも関東の「べ」みたいに、接続が複雑でも単純化して使う傾向も見られるようですが。
方言文法がご専門の方がたまたまご覧になったら恐ろしいですが、アメリカでアメリカ人が使っているのを聞いたということで、無責任に想像をふくらませてみました。ところで彼は「けんが」をどこで習得したのでしょう。九州には分布しているようですし、かれは断定形式に「や」を使っていたので、西部で間違いないと思いますが。。。 ご覧の方で「ここでよく使う」というのをご存知の方、教えてください。
実は「ちょっとごめん。日本語、どこで勉強したの?」という質問が、喉元まで出ていたのですが、邪魔しては悪いのでやめました。まあ、アメリカにいる、九州出身の人から習得したのかもしれません。
写真は今日の夕方研究会へ向かう途中。大学の正門(Sample Gate)からダウンタウンの方向を撮ったもの。遠くの建物の向こうに見える時計のある建物は、BloomingtonのあるMonroe County(郡みたいなもの?)の庁舎です。