この世界も狭いもので、あちこちの音声学研究室のサイトで手に入る音声は、だいたいその時の院生や研究員が発音して吹き込んだものだったりするようです。音声学の授業でIPA転写の試験が毎回出ますが、この間は「これはKeith Johnsonさん(UC Barkeleyの先生)」とEricが教えてくれて、「ほぇ~」と一驚き。講談社ブルーバックスの『英語リスニング科学的上達法』シリーズのデモビデオに写っているのも、Ann BradlowというNorthwesternの先生だそうです(本人が研究グループの一員)。共同研究をした事のあるNさんによれば、あの本のビデオには他も知っている人がいっぱいだそうです。Ladefogedの本も本人の横顔があったりするし、みーんな研究者本人がやる。他の誰かに頼めばいいのにと思いましたが、顔を出すとなると、お金かかるか。
ところが私にもなんだかそんな機会が。もう先週の話。その日も院生室の「主」となって勉強していると、音声学のBob Port先生がやってきて「ちょっといいかい?」。何か雑用だろうと思ったのですが、もうちょっとだけ頭を使う頼みで、日本語のミニマルペアを一緒に考えてくれ、とおっしゃる。どうやらいわゆるモーラ音素(とくに促音・撥音)のあるなしで対立するペアがほしいらしい。で、一つ二つでいいらしく、思いつくままアクセントが一致している例を探して「鳥・通り(助詞をつけるとダメですが)」「肩・勝った」を提案。途中からKen先生も参加して、「鳥・通り」は助詞無しで発音すればいいだろう、とかアイデアをくれました。結局、条件がそれほど厳しくないらしく、最初の提案がそのまま採用になりました。
Port先生のことはご存知の方もいらっしゃると思いますが、タイミングの研究をずっとしていて、最近は「音素」という単位の音声情報処理レベルでの存在を否定しようという考えで研究をすすめているらしい。で、その例についてネイティブスピーカの録音がほしいという、誰かと思えば、私。。。
私は、岐阜生まれ(多治見市)で両親も岐阜の人。3歳で名古屋市に引っ越したので岐阜の記憶はほとんどありませんが。そのあと、中学を金沢、中学以降を埼玉・神奈川・東京とあちこちで過ごしているので、自分の音声を「日本語代表」として使っていいとは、ちょっと思えない。私自身が研究をするなら、絶対使いません。そもそも実験などについて無知ではない、という問題もありますが。(ちなみに、誤解が少なくないのでぜひ書いておきたいのですが、岐阜は一部を除いてほとんどが東京式アクセント(の一変種)の地域です。ですから私も私の家族も、金沢の3年間を除いてずっと東京式アクセントの地域で暮らしてきました)
さて、ともあれ頼まれたので、アパートでフィールドワークに使っている装置で録音したのが画像のもの。「肩・勝った」ペアとアクセントを一致させようと考えた「取れ・通れ」ペア。授業で教わっているWavesurferの画面です。上が「あいつは『取れ』と言った」下が「あいつは『通れ』と言った」。さすがはTVも何にもなくて静かな(寂しい)わがアパート、ノイズがなくてきれいな音声。「行った」の「っ」の無音区間が本当に無音(フォルマントの動きがない)ことでご確認いただけます。
Port先生はどうやら音声の質など気に入ってくれたらしく、どれかを使うそうです。どんな文脈で用いるかは、まだ謎ですが。だからおそらく、スペクトログラムだか、音声波形だか何かが、いずれ発表される論文のどこかに(ちょっと)載ると思います。ということで、私もついに不特定多数が見る印刷媒体にデビュー。写真などじゃなくて幸いです。でも、私なんかが日本語代表でいいのか、やっぱり不安です。
ところが私にもなんだかそんな機会が。もう先週の話。その日も院生室の「主」となって勉強していると、音声学のBob Port先生がやってきて「ちょっといいかい?」。何か雑用だろうと思ったのですが、もうちょっとだけ頭を使う頼みで、日本語のミニマルペアを一緒に考えてくれ、とおっしゃる。どうやらいわゆるモーラ音素(とくに促音・撥音)のあるなしで対立するペアがほしいらしい。で、一つ二つでいいらしく、思いつくままアクセントが一致している例を探して「鳥・通り(助詞をつけるとダメですが)」「肩・勝った」を提案。途中からKen先生も参加して、「鳥・通り」は助詞無しで発音すればいいだろう、とかアイデアをくれました。結局、条件がそれほど厳しくないらしく、最初の提案がそのまま採用になりました。
Port先生のことはご存知の方もいらっしゃると思いますが、タイミングの研究をずっとしていて、最近は「音素」という単位の音声情報処理レベルでの存在を否定しようという考えで研究をすすめているらしい。で、その例についてネイティブスピーカの録音がほしいという、誰かと思えば、私。。。
私は、岐阜生まれ(多治見市)で両親も岐阜の人。3歳で名古屋市に引っ越したので岐阜の記憶はほとんどありませんが。そのあと、中学を金沢、中学以降を埼玉・神奈川・東京とあちこちで過ごしているので、自分の音声を「日本語代表」として使っていいとは、ちょっと思えない。私自身が研究をするなら、絶対使いません。そもそも実験などについて無知ではない、という問題もありますが。(ちなみに、誤解が少なくないのでぜひ書いておきたいのですが、岐阜は一部を除いてほとんどが東京式アクセント(の一変種)の地域です。ですから私も私の家族も、金沢の3年間を除いてずっと東京式アクセントの地域で暮らしてきました)
さて、ともあれ頼まれたので、アパートでフィールドワークに使っている装置で録音したのが画像のもの。「肩・勝った」ペアとアクセントを一致させようと考えた「取れ・通れ」ペア。授業で教わっているWavesurferの画面です。上が「あいつは『取れ』と言った」下が「あいつは『通れ』と言った」。さすがはTVも何にもなくて静かな(寂しい)わがアパート、ノイズがなくてきれいな音声。「行った」の「っ」の無音区間が本当に無音(フォルマントの動きがない)ことでご確認いただけます。
Port先生はどうやら音声の質など気に入ってくれたらしく、どれかを使うそうです。どんな文脈で用いるかは、まだ謎ですが。だからおそらく、スペクトログラムだか、音声波形だか何かが、いずれ発表される論文のどこかに(ちょっと)載ると思います。ということで、私もついに不特定多数が見る印刷媒体にデビュー。写真などじゃなくて幸いです。でも、私なんかが日本語代表でいいのか、やっぱり不安です。