3月21日(月・祝)午後、代々木公園B地区で「ウクライナに平和を! 原発に手をだすな! 市民アクション」が開催された(呼びかけ団体:「さようなら原発」一千万署名市民の会、戦争をさせない1000人委員会 参加2500人)。
「さようなら原発」集会は11年前の東日本大震災で引き起こされた東電福島第一原発事故をきっかけに毎年この時期に開催されている。今年は2月24日にロシア軍のウクライナ侵略という世界規模の大事件が始まり、殺し合いが続いているので、こういう集会タイトルになった。
司会の畠山澄子さん(ピースボート)は、「自分たちが一所懸命守ろうとしてきたものや抗おうとしてきたことが、こんなに簡単に崩れてしまうのかと無力感に苛まれる日々だった。世界に発信したいことは『これ以上市民の犠牲を増やさないでほしい』『原発に手をだすな』というメッセージだ」と涙ながらに述べた。わたしだけでなく集まった方の共通の思いだったと思う。
まず代々木公園屋外ステージの集会で、8人の方からスピーチがあった。そのなかで、わたくしがあまり詳しく知らない分野、たとえば国際法、戦術核と戦略核、原発施設への武力攻撃を語った飯島慈明さんと高野聡さんのスピーチを少し詳しくお伝えする。
●正気かと問いたい核シェアリング論議
戦争をさせない1000人委員会・飯島滋明さん(名古屋学院大学)
プーチン、ロシアはウクライナに侵略戦争を始めた。明らかな国際法違反だ。まず国連憲章に違反。個人の尊厳や人権尊重を定めた前文、紛争の平和的解決を求めた2条3項、武力の行使を禁止する2条4項に違反する。またジュネーブ条約追加議定書の51条2項民間人攻撃の禁止、56条2項原子力発電所攻撃事項に違反している。日本国憲法9条でも「武力の行使」を禁止しており、まさに日本政府が先頭に立ち「武力の行使をやめろ」というべきだ。
にもかかわらず日本政府や安倍晋三(以下、政治家などの名は敬称略)、橋下徹は核シェアリングをいい、日本維新の会、国民民主党は憲法審査会でも核シェアリングをいっている。彼らに正気か、といいたい。
彼らが持とうとしている核はいったい戦術核かそれとも戦略核なのか。安倍はドイツとアメリカの核シェアリングをいうが、ドイツの核シェアリングは、ロシアがドイツ国内を侵略してきたときにドイツ国内に落とす核をいう。安倍や橋下は日本国内に核を落とそうと本当に考えているのか、無知にもほどがある。あるいは戦略核なら、それこそロシアに対し、日本を攻撃する口実を与える。なぜロシアはウクライナに侵略したのか、ウクライナがNATOに加入し戦略核を配備すれば怖いということで侵略戦争をしている。
そもそも安倍・橋下らに問いたい。ロシアの核に、核で立ち向かえると本当に思っているのか。2021年広島県の資料をみると、ロシアは2020年に6375発の核をもつ。1961年10月ロシア(当時はソ連)が実験したツァーリ・ボンバ核は広島長崎に落とした核の1500倍の威力をもつ、核に核でやり返せということは非現実的な思想だ。むしろ日本は唯一の戦争被爆国として核兵器禁止条約に加盟し、「核兵器をなくせ」の先頭に立つべきだ。こんなことを元首相に言われないといけない日本は恥ずかしい国だ、「美しい国」などではまったくない。
ウクライナ侵略で、原発再稼働という話が出ている。原発事故でいまだに戻れない人がいる。避難者3万3365人。こんな状況で再稼働など、よくいえるものだ。憲法でいえば13条の個人の尊重あるいは幸福追求権が奪われている。福島の原発事故があったとき、ドイツではメルケルがただちに脱原発に舵を切った。わたしたちも将来の世代、子ども、孫、ひ孫のため、平和な日本を取り戻すため、核の廃絶をめざし全力で取り組もう。
●原発は、致命的な安全保障の脅威
原子力資料情報室 高野聡さん
ロシア軍の侵攻と残虐行為が拡大し、ウクライナ原発の緊張状態が続いている。原発につながる送電線が戦闘によりたびたび損傷・切断されている。戦争は正規軍だけでなく双方とも傭兵部隊を投入しているので、規律の劣る軍隊により原発への不測の事態が起こる可能性が高まっている。強固な鉄筋コンクリート数メートルを貫く地中貫通爆弾が原子炉に何発も命中すれば原子炉は耐えられない。冷却装置・取水装置・外部電源・地上電源は最前線にいる兵士の装備で破壊可能だ。それらがすべて破壊されればネットダウンは必至だ。
原発への攻撃や破壊によりどれほどの被害が出るか、日本でもすでに試算がでている。1984年に作成された外務省の「原子炉施設に対する攻撃の影響に関する一考察」という報告書で、緊急避難できない最悪のケースでは、急性死亡1万8000人、急性障害4万1000人、晩発性のがんによる死亡2万4000人に上る(p21-22)と報告されている。環境経済研究所のシミュレーションによれば、茨城の東海再処理施設に保管されている高レベル放射性廃液の一部が外部に放出されたシナリオでは首都圏で40万人が死亡する、との報告も出されている。
原発は自国にとって致命的な安全保障の脅威となることを表している。原発とはそもそもそうした脆弱性を含むものだと認識すべきだ。最善で最大の対策は、平時のうちにすべての原発を速やかに廃炉すべきであると、わたしは考える。
しかしまったく反対の主張をする者たちもいる。細田博之ら自民党の原発推進派議員がつくる電力安定供給推進議員連盟は3月15日、安全の確保を優先しつつ緊急的に稼働させ国民生活を守るための措置を講ずる必要があると、論理性が一かけらもない物言いで原発再稼働を主張している。市民の生命と財産を守るという政治家の使命を放棄することと大差はない。経済界にも同様の人たちがいる。日本原子力産業協会の新井史朗理事長は2月25日の記者会見で、「大きなメリットを考えたとき戦争状態というデメリットをどこまで考えるかということだと思う」「戦争状態になると事業者、産業界の範疇を超えてしまう」とし、原発の必要性を強調した。平時に原発から利益を吸い取れるだけ吸い取って、戦時になればその責任を超えてしまうというのはあまりにも無責任だ。ウクライナの悲劇を横目に原発を推進する自民党議員はさながら火事場泥棒であり、原子力産業協会は死の商人ではないか。わたしたちは日本の原子力マフィアの悪徳と強欲をけして許してはならない。
すみやかに原発を廃絶するため、もっと激しく闘わなければいけない。いまここから知恵を出し合い、心を合わせて同志のみなさんと大きな一歩を歩みだしたい。
●さようなら原発アクションの9人の呼びかけ人のひとり、鎌田慧さん(ルポライター)は「ウクライナの原発はすでにロシア軍に制圧されている。原発は戦争の目的にしかならないことがはっきりした。原発をなくし、戦争をなくす。これからも反原発で闘う」との決意を表明した。
また同じく呼びかけ人の落合恵子さん(作家)はウクライナの惨状に心を痛め、一方ロシアだけでなく、安倍のような人物を長年リーダーの位置に置いてきたのはわたしたち市民であることから「いったいわたしは何ができるのか、わからない。みんなわからないが、いたたまれないからここにいる。怒りに結びつけないとダメだよね、このままいったら今年の選挙も大敗だよ」とバラバラでは力にならないことを訴え「世の中を変えていくのは少数派だと心に決めて、前に向かって進んでいこう」とアピールした。
呼びかけ人の澤地久枝さん(作家)は91歳、第二腰椎骨折の体で、参加者全員が持っている「戦争反対!ウクライナに平和を!」のプラカードを壇上で掲げ「長い人生のなかで、こういうプラカードを掲げないといけない日がくるとは夢にも思わなかった。なぜ21世紀になって国が国に武力を行使して、しかもウクライナは原発を主たるエネルギー供給源としてきた国だが、チェルノブイリだけでなくザポロジエなど原子力発電所がロシア軍に押さえられている。目の前で家が壊され、家族が殺されたりケガをし、避難しないといけない子どもたちの姿を目にすると、この時間を生きてきた大人として責任を感じる。(略)武力侵攻、虐殺、核・原発を武器に使うことに、世界中が反対していることを伝えていくことしかなすことがないと思う。みんなが覚悟を決めて、小さな一歩でも踏み出していこう。負けるわけにはいかない」と語りかけた。
●チェルノブイリ子ども基金は、1991年からチェルノブイリ被災者支援を始めたが、現在ウクライナの窓口のキエフとは連絡が取れず、ベラルーシには経済封鎖により救援を送れない。
基金の向井雪子さんから2つの情報が伝えられた。ひとつはチェルノブイリ救援・中部がドイツの団体と協力しあって、救援物資を陸路でウクライナへ送るルートを確保したこと。救援募金に関心のある方はこの団体のHPを参照していただきたい。
もうひとつは、たまたまアーティスト・伊藤隆介さんのツイッターでみたロシアのアニメ作家100人が「戦争はいらない」というテーマで連作したアニメ動画だ。このサイトでみることができる。
●ピースボート災害支援センター小林深吾さん
ウクライナはソ連崩壊後、海運業に力を入れたくさんの船舶の運行をウクライナの船員たちが支えてきた。ピースボートとも関係が深い。いまウクライナから国外への避難者が340万人、国内避難者650万人、あわせて約1000万人が避難生活を送っている。
ピースボートは平和構築の取組を行うGPPAC(武力紛争予防のためのグローバルパートナーシップ)というネットワークに参加しているが、その一員であるPATRIR(ルーマニア平和研究所)と協力して、ウクライナからルーマニアの避難民への避難場所と生活物資の提供、ウクライナの病院に医療品・器具を届ける支援活動をしている。
国や地域を越え、それぞれがつながることで、具体的に人道支援をすることでその束がこの後の平和構築にすごく大事なのではとないかと思う。国家間の戦争より一人ひとりの命や暮らしや尊厳が大事だと声を上げ、行動で示す必要があると思う。一人ひとりの義援金で、具体的に明日の命と明日の生活と明日守られる尊厳が救える可能性がある。
2022年ウクライナ緊急支援募金については、こちらのサイトを参照していただきたい。
●ナターシャ・グジーさんは歌手・民族楽器バンドゥーラ奏者。冒頭の自己紹介で「わたしは生まれも育ちも葛飾柴又」ではなく「ウクライナのほうです」と言って笑わせてくれた。子どものころチェルノブイリ原発事故で避難生活を経験し、とても悲しい思いをした。そういうとき音楽に出会い、勇気づけてくれた。「音楽の力」を信じているそうだ。
みなさんといっしょに歌いたいと、アカペラで歌った曲は、なんと日本語歌詞の「ふるさと」、それも3番まで暗譜で歌い、4番をおそらくウクライナ語で披露した。この歌は10年くらい前、福島に思いを馳せ原発反対集会で、よく歌った曲だった。あれもせつなかったが、グジーさんにとっては、故郷がまさに戦火に見舞われているのだから、遠くで歌う「ふるさと」への思いはどんなものか、胸が熱くなった。池袋西口でのオクサーナ・ステパニュックさんもソプラノかつバンドゥーラ奏者で、ウクライナ国歌を独唱したが、日本人には「ふるさと」のほうが、より共感できた。美しい歌声だった(このサイトの1時間5分57秒から9分40秒のところで視聴できる)。
集会へのカンパとウクライナ緊急支援の2種類のカンパの呼びかけ、プラカードを掲げ「ウクライナに平和を!」「原発に手を出すな!」「戦争反対!」と参加者全員のコール、そして今後の行動告知があった。4月8日(火)18時日比谷野音での総がかり行動とデモ(会場では3月29日と発表されたがその後変更)、4月16日(土)13時亀戸中央公園での集会がある。
そのあとデモに移った。コースは渋谷から原宿を経て、ふたたび代々木公園に戻る1時間ほどのものだった。
「ウクライナの市民に平和を!」「ロシアの軍隊は市民に銃を向けるな!」「武器で平和はつくれない!」「ロシアの軍隊はウクライナから撤退しろ!」「いますぐ停戦を!」「わたしたちは戦争も原発もいらない!」「ロシアの軍隊は原発を攻撃するな!」とコールを繰り返し、渋谷の街を歩いた。
普通にやっているデモのように機動隊がデモ隊の周囲を取り囲み、「早く歩け」「詰めて詰めて」といわれることもなく、ウヨクが突撃してくることもなく、のびのび歩けて気分のよいデモだった。前週のような初夏並みの気温ではなかったが、まずまず温暖、コロナ禍状況としてはやや密という面があったが、いいデモだった。
ウクライナ問題では、いくつか警戒すべき点がある。集会でも取り上げられた、原発再稼働と核シェアリングのほか、武器供与問題がある。日本には防衛装備移転三原則(2014年までは「武器輸出三原則」)がある。いまのところ防弾チョッキやヘルメットだが、また自公政権得意の「閣議決定」で、たとえば戦闘機や戦車は出さないが、弾薬提供ならよいだろうとか、人は出さないが地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を貸し出すなどと、解釈を変えたり拡張したりするかもしれない。「原則」の問題は注意深く監視すべきだ。
カンパも、市民への生活物資援助のつもりなのが携帯型の地対空ミサイル「スティンガー」やマシンガンに変わらないか、追跡可能な寄付ルートかどうか確認できるほうがよい。そしてゼレンスキーは「銃をもって国を守れ」という。当事国の大統領なので、そうとしかいえないだろうが、わたしたちは憲法9条の国の市民なので、「殺し合い」からは距離をとったほうがよい。この日のコールも「即時停戦」「市民に銃を向けるな」というラインで止めていた。
最後にNHKと政府が一体になって進めるキャンペーンは、「北朝鮮の核開発とミサイル実験」や「東北・福島の復興」と同じく要注意だ。何か意図があるのではないかと、慎重に見極める必要がある。
この集会も、30分ほどの開会前コンサートから、1時間あまりの渋谷・原宿デモまで3時間弱の長い動画がUPLANのこのサイトで公開されている。
●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。