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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

バレエ「くるみ割り人形」を観に行く

2025年01月06日 | コンサート

はじめてバレエ公演を初台の新国立劇場で観た。初心者でもなじみやすそうな演目をと「くるみ割り人形(ピョートル・チャイコフスキー、振付:ウエイン・イーグリング)をセレクトした。

会場に入場すると、家族連れが多い。ロビー(ホワイエ)奥には高さ3mくらいあるクリスマスツリーが立っていて、記念写真を撮る列ができていた。またちらほら外国人客もみえた。考えてみるとわたしたち日本人もベルリンやニューヨークに行けばコンサートに行くのだから、やっと日本のコンサート会場も世界標準になりつつあるということだ。
わたしの席は2階左・前のほう(8席のいわばボックス席)、オケを見下ろす位置で、とくに指揮者の左半身の動きがよくみえる。

●くるみ割り人形のあらすじ   
まずあらすじを新国立劇場のサイトから転載しておく

[1幕]
クリスマス・イブ。クララの家ではパーティーの準備で忙しく、外では凍った運河の上で人々がスケートを楽しんでいる。謎めいたドロッセルマイヤーと、士官学校を卒業したばかりの彼の甥が到着する。ドロッセルマイヤーは招待客に手品を披露し、クララの姉のルイーズとルイーズを慕う3人の男性が踊りだす。ドロッセルマイヤーがクララに贈ったくるみ割り人形(以下、人形)を兄のフリッツが壊してしまうが、ドロッセルマイヤーは魔法のように人形を元通りに直す
パーティーが終わり、クララが眠りにつくと、夢の中で人形は邪悪なねずみの王様に攻撃される。ねずみの王様がねずみたちを引き連れて現れると人形も勇敢な兵士に変身し、ねずみたちとの戦いに挑む。ねずみの軍隊が勝利し、人形は傷を負ってしまう。ドロッセルマイヤーがその場を収め、クララは人形から姿を変えた甥と二人ロマンティックなパ・ド・ドゥを踊る。しかし雪が降り始めるなか、ねずみの王様は甥を人形の姿に戻してしまう。居間が魔法にかかり、光り輝く雪片が降る白銀世界に変わっていく。ねずみの王様たちの軍勢に追われるクララと人形は、ドロッセルマイヤーに救われて、魔法の地へと気球に乗って運ばれていく。一方でねずみの王様は一計を案じる。
[2幕]
魔法の地に到着した。甥はねずみの王様を打ち負かして、壮大な祝祭が始まる。中国、アラビア、ロシア、スペインなど世界中のダンサーたちが様々な踊りを見せる。ドロッセルマイヤーの魔法で美しい庭が現れ、その中でダンサーたちが花のワルツを踊る。最後にクララはこんぺい糖の精となり、王子になった甥とともに美しいパ・ド・ドゥを踊る。
クララは突然、寝室で目覚めた自分に驚く。フリッツとクララは外に出て、雪の中でドロッセルマイヤーとその甥に手を振って別れを告げる。子供たちは不思議な思いに包まれて二人を見送る。

●バレエは身体表現の芸術
わたしは演劇やオペラはみたことがあるが、バレエは初めて観る。1幕全体と2幕の終盤はストーリーがあるので見やすかった。
幕開きが、オランダの大都市の屋外の光景から始まるのには驚いた。氷の国で街を歩く人は、老若男女ともにスケート靴を履き滑っている。早変わりで屋内になったり、子どもの寝室に変わるのは演劇より、映画の作り方に近い守山実花の解説によると、イーグリングの脚色の特色として、現実のシーンは透けるスクリーン(紗幕)を舞台前に設置し、クララの夢の部分はスクリーンが上がりリアルな情景になることを指摘する。寝室は右下のコーナーで演じられ、夢の冒険になると舞台全部を使い照明も明るくなるのも、映画のように感じた理由だ。
クララとくるみ割り人形が気球に乗り込み、気球の下にねずみの王がぶら下がって飛ぶシーンやねずみ軍と軽騎兵の戦いのシーンはドラマティックだった。
しかし2幕後半のスペインの踊り以降は、ずっと踊りの連続で、ストーリーがなくなる
踊り手や組合せは代わるものの、ずっと跳んだり跳ねたり、回転したり、抱え上げたり(リフト)の連続のようにみえた。わたしにとっては、バレエの発表会を見せられているような気分だった。
ところが帰宅してからユーチューブの動画をみると、まるで違った光景にみえた。
基本的に身のこなしが優美で、高く跳んでいたり、すごい速さで回転したり、超人的な身のこなしを見ることができ、迫力すら感じた。
ソロ、2人で踊るグラン・パ・ド・ドゥ、3人の踊り(グラン・パ・ド・トロワ)、社交ダンスのようなダンス、花のワルツの群舞など、それぞれ異なる「美」を感じられ、バレエが身体芸術であることがよくわかる。おそらく、それがバレエの本質なのだろう。
1階の前半分で見ていればもう少し踊りの迫力や身体表現がわかったのかもしれない。2階から見下ろしていると、背の高さの違いや顔も見えないので、たとえば子どもが踊っているのか、おとなが踊っているのかすらわからない。終演後、1階席ではスタンディングオベーションをしている大勢の人の姿がみえた。
宝塚や相撲をはじめてみたときと同じ類の失敗で、初心者こそ1階のいい席でみないと意味がなかったのかもしれない。

ロビー(ホワイエ)にある大きなクリスマス・ツリー
●音楽や衣装、演出
しかし、その他の点で、わたしでも楽しめる点がいくつかあった。
音楽は有名な曲が多い。序曲行進曲スペインの踊り、アラビアの踊り、中国の踊り、ロシアの踊り、葦笛の踊り(蝶々)、花のワルツこんぺい糖の精の踊りなど、どれもよく知っている曲だった。子どもも気に入るかわいい曲が次々に出てくる。2台のハープとチェレスタが大活躍、とくに「こんぺい糖の精の踊り」はチェレスタ協奏曲のようだった。舞台を見下ろして自分の目でよくわかった。解説によると、チャイコフスキーが海外への演奏旅行でこの楽器をみつけ、政府に頼み込んで密かに発注し、自分が初めてこの楽器を使う作曲家だと信じていたそうだ。
チャイコフスキーの作品なので、金管(東京フィルハーモニー)も大活躍だった。
ただ最後の「終幕のワルツとアポテオーズ」は聞いたことがなかった。出演したダンサー全員が登場しひと踊りする、いかにもグランド・フィナーレにふさわしい華やかな曲だった。
1幕終盤「雪の結晶のワルツ」の途中、わたくしの前方のドアが開き、暗闇のなか12人の人影が入場する。顔や姿はみえない。しばらくすると左右のバルコニーで合唱始まる。オペラの金管楽器のバンダと同じような演出だ。
じつにきれいなハーモニーだった。歌い終え、退場するとき、顔をみると子どもたちだった。小さい子も大きい少年もいる。だから大きいといっても声変わり前なのだろう。
東京少年少女合唱隊のハーモニーがとてもきれいだった。声変わり前なので、ウィーン少年合唱団の声のようだった。ただし歌詞はなくアーアーというハミングのような歌だった。そういえば、ラヴェル「ダフニスとクロエ」もバレエ曲だが、大合唱団の歌に歌詞はなかった。
衣装では、スペインは赤、アラビアが青、中国は茶、ロシアのこげ茶、フランスの白など、雪片は白、花のワルツはオレンジと、色とスタイルの変化を楽しめた。
ねずみの王様は狂暴な顔つきで、どこかで見たようなと思ったら、ケチャの魔王・ラーヴァナに似ていた。また、聖ニコラス(サンタ)はしっぽに房のついた赤い三角帽ではなく、ブニュエルの映画「銀河」の司祭のような帽子をかぶっていた。
芝居としてみると、ドロッセルマイヤーが全体のキーマンで、文字通りマスターオブセレモニーの役を果たしていた。

●スケールの大きさ
1幕が55分、2幕50分、そのあいだに休憩30分で、2時間少しのバレエだ。
公演後、長いカーテンコールが続いた。小さい人が前列中央に入った。だれかと思ったら指揮者・冨田実里さんだった。オペラなら指揮者のカーテンコールは1回かせいぜい2回だが、バレエは何度も何度も、それもダンサーたちと手をつなぎ後ずさりと前進を波のように繰り返す。体が小さいので見た目には大変そうだった。でも本人は大いに楽しんでやっているようだった。
メンバーリストを数えると、わたしが観た公演は総勢140人あまり、たしかに雪の結晶と花のワルツの女性は同じ人がやっていたり、客人と兵士、ねずみ、小ねずみ、軽騎兵は1人2役の人もいるので、ネットで何人かはわからないが、すごい人数だ。
主役のこんぺい糖の精と王子は6人ずついて交代で出演する。のべ13日18公演あるので、スタッフも加えるといったいどのくらいの関係者がいるのか、すごい規模であることは確かだ。 
バレエは、どちらかというとフィギュアスケートやアイスダンスの世界、ミュージカルやショービジネスの世界に近いジャンルのものなのかもしれない。
機会があれば、もう少し身体の動きが見える席で楽しみたい。

1階から4階で1800席ある大ホール(オペラパレス)の客席
☆バレエ以外の観劇と同じように、チラシをたくさん手渡された。新国立以外の会場では、東京文化会館、NHKホール、オーチャードなど大きなホールが多い。出演者数も多く大規模だからだろう。当然料金も、オペラほどではないにせよ、高額だ。「火の鳥」のカードをもらった。それをみると、アイーダのような豪華絢爛さで、背景画も壮大、たしかにコストがかかりそうだ。
また時期的なトピックなのかもしれないが、バレエ・コフレ、バレエまつりのように、数人のプリンシパルやソリストが、数曲踊るハイライト形式のコンサートもある。オペラでいうとガラ・コンサートのようなものだろう。作品というより舞踊そのものを鑑賞するのだから、たしかにそういうコンサートも成立する。
バレエファンにとって、間口が広く、奥が深い趣味のようだ。

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。
☆2024年の記事30本の総目次をアップしました。過去記事タイトル一覧の「総目次を作成」の2023年でご覧ください。


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