今年も「平和をねがう中央区民の戦争展」が月島社会教育会館ホールで開催され、8月11日午後、ダニー・ネフセタイさんの講演「イスラエル軍元兵士が語る非戦論」を聴いた。
昨年10月7日にガザ地区とイスラエルの戦いが始まり、いまガザの死者は4万人を超え、しかも子どもや女性が多いという凄惨な状況がまだ続いている。わたしたち日本人は、広島・長崎の被爆、東京大空襲など各地の被災の体験から、とりわけ子どもを含む家族や民間人の犠牲に対し反発が大きい。ところが、長崎の平和祈念式典でG6とEU各国は「ロシアとイスラエルを同一視するな」との驚くべき理由で大使の参列を拒否した。
わたしもガザ侵略には心を痛め、かつ大きな関心を持ち、今年は3月に古居みずえ監督「ぼくたちは見た――ガザ・サムニ家の子どもたち」、4月に土井敏邦監督「ガザに生きる――ガザ攻撃」の上映およびトーク集会に参加し、同じ4月に岡真理・早大教授のオンライン講演を聞いた。しかしそれぞれ観点の違いにより、イスラエル絶対悪からハマス・イスラエル双方問題ありまで、さまざまな見解があることがわかった。
この日ダニーさんの話を聞き、パレスチナとイスラエルのあいだの重く深刻な問題の一部がわかり、より理解が進めることができたので、概略を報告したい。
ダニー・ネフセタイさんは、1957年イスラエル生まれ、75年高校卒業後、徴兵制で空軍に3年間従軍、はじめの1年半戦闘機のパイロット養成コース、後半は特殊レーダー部隊に所属。79年退役後、アジア旅行に出て10月来日、日本語学校に入学、神奈川県の家具会社勤務を経て、埼玉県皆野町で「木工房ナガリ屋」を開設、家具職人を本業としつつ、日本での「気づき」をもとに講演など社会活動を行い、著書3冊がある。妻と1男2女の家族、自力でつくったログハウスに住む、という方だ。
来日45年なので日本語は完璧、ただところどころ聞き取りにくいところがあったので、記述の間違いがあるかもしれない。。
3年の従軍体験から、わたしたち以上に日本国憲法9条を愛する、徹底した非戦論者だ。
話術が巧みで、たとえば来日したころ代々木公園のキッチンカーで働くシリア人をみて、「えっ、近づいていいか。だって3歳からわたしの敵とずっといわれた。ずっと信じていた。(略)えっ、シリア人が人間だったと本当に気づく。笑うが、本当にそう。えっ敵じゃなかったと、そしてしゃべりだす。すぐ友達になれる。すごい」といった具合だ。
講演が1時間弱、質疑が25分だった。質疑で、わたしも知りたかったことが多く説明された。
イスラエル軍元兵士が語る非戦論
ダニー・ネフセタイさん
●日本で気づいたこと
18歳で入隊し戦闘機パイロット養成コースに通い始めたころ、すごくカッコいいと自分で思った。イスラエルの男の子は例外なく「戦闘機のパイロット」になりたい。イスラエルの徴兵制は18歳になると男性3年間、女性2年間入隊する制度だ。そのなかで戦闘機パイロットは「名誉ある職業」で高校2年から適性検査がありどんどん落とされた。入隊後はじめの半年は勉強だけ、実技に入りフランス製のフーガ・マジステール戦闘機を30回飛ばし、うち20回は一人乗りだった。わたしは実技試験のどこかで落とされたが、42人中40人がパイロットになった。
3歳からの夢が目の前で崩れわたしは泣いたが、日本に来ていろんな気づきがあった。そのなかのひとつが戦闘機の目的だ。この複雑な機械にできることは、すごく単純。2つしかできることがない。ひとつは人を殺す、もうひとつは「物を破壊すること」。あとは何もできない。
●軍隊の3つの恐ろしさ
軍隊な成り立ちのうしろには、3つの恐ろしい点がある。ひとつめは「差別」、こちらはみんな善、向こうはみんな悪。敵といわれる人のなかにいい人もいると思うと、人間は爆弾を落とせない。イスラエルのガラント防衛大臣は昨年10月のハマスの攻撃の翌日「ハマスは人間ではない、動物のような人間(Human Animals)です」と言った。ひとつの国に動物のような人間、もうひとつの国はみんな人間、この世の中、そんな国はない。これ完璧に差別。
二つ目は命令に従う。わたしたちは社会人として命令に従う、自分がどこかの会社にいるにしても一番下っ端、その上に課長がいて、部長がいて社長がいる。命令に従うが、理性が働く。朝一番会社に行って社長室に呼ばれる。「はい、今日のあなたの仕事は課長を始末することです」「ちょっと待ってください。冗談じゃない。いくらあなたが社長とはいえ、わたしは人を殺しません」というのは、全国どこでも調査しなくてもわかる。
だが軍隊は違う。もしわたしが戦闘機のパイロットになっていたら、朝一番に自分の部隊に行って「あなたの今日の任務は、ガザに飛んで、ここの高層ビルの上に爆弾を落とすことです。なぜかというとここにテロリストがいそう。子どももいるかもしれないが、これはあなたの問題じゃない。これは軍隊が片付ける」。だったらわたしは間違いなくそこに飛んで爆弾を落としただろう。
3つ目は「軍隊の解決法は武力」ということだ。国と国がギクシャクすると外務大臣同士、首相同士が国連を使って、何か解決方法がないか探るが、場合によってはみつからない。そうなると軍隊対軍隊になる。軍隊対軍隊になると、まずこちらの大佐はこの大佐と話すか? いや話さない。軍隊の仕事じゃない。
ここまで聴くと、いまのイスラエル軍人はみんなとんでもない人間か、80年前の大日本帝国軍はみなひどい人間か、あるいはいまの自衛隊の人間みんなひどい人間か、そうじゃない。軍隊、自衛隊に入る、それぞれいろんな考えがある。ただし、入るからにはこの3点絶対忘れてはいけない。忘れると、どの国でもどの時代でも人間は簡単に鬼になれる。どの時代も。
●イスラエルと軍隊
イスラエルはパレスチナとの問題を全部軍隊に任せた。軍隊に任せたから武力の答えしか出てこない。パレスチナ人の望んでいるのは自由と誇りだ。人間だから、当然。みなそうだ。自由を求める動物だから。その自由を手に入れるためあらゆる手段を使う。残念ながらテロも使う。なぜ残念かといつと、わたしはあらゆる暴力に反対しているから。パレスチナ人がテロをするのはわかる。肯定はしていない。肯定してはいないが、なぜやるかは、よくわかる。
パレスチナ人がテロをするからどうにかしてくれと、軍隊に任せた。軍隊が何を考えるかというと「じゃあパレスチナ人がイスラエルに入らないようにしましょう。ヨルダン川西岸の周りに分離壁をつくってガザの周りにフェンスをつくって、よし、これによって安全です。国民は大丈夫です。ご安心ください」と。
しかしパレスチナ人の自由は手に入らないので、ガザからイスラエルに向けてロケット弾を打ち始めた。
イスラエルはまた軍隊に頼む。「どうにかしてくれ」。軍隊は何をしたかというと、アイアン・ドームという「迎撃ミサイル」システムを考えた。、ガザからミサイルを撃つとイスラエルが迎撃する。ほとんど迎撃できる。ただ手づくりのロケット弾は1発5000円くらいだがアイランドは1発500万円。全部迎撃するため、2か所から2発撃つ。5000円対1000万、経済的にムリが生じる。
パレスチナ人はフェンスの下にトンネルを掘って、またイスラエルに入るようにする。しまいにイスラエルはガザの周りに65㎞、高さ6mのフェンスをつくり、あらゆるところに監視カメラがあり、あらゆるところにセンサーといろんなところに24時間体制の監視部隊。イスラエルはまた説明する、これで100%安全、こわいものなし、なにがどうなってもハマスは絶対イスラエルに入れない、約束します。このフェンスによってガザは完全に封鎖された。
会場後方の展示より、ガザのナワール児童園の子どもたちの絵。右は検問所と監視塔、左は封鎖された都市。窓が黒いのは停電のせいだという。
●フェンスに封鎖されたガザ
このフェンスによってガザは完全に封鎖された。完全に封鎖されると、ガザに入る水、エネルギーと食糧は全部イスラエル経由になる。これ、イスラエルがやさしいからやっているわけでなく、国際法で決まっているからやっている。自分の国がどこかの国を封鎖すれば、そこにいる人たちを死なせるわけにはいかない。毎日のようにイスラエルから何百台かのトラックがガザへ、水、エネルギー、食糧を運んでいる。運んでいるがいつもギリギリの線、生きるか死ぬかのラインくらいしか与えない。戦争が始まると全部ふさぐ。
わたしたちはハマスによって1200人殺された。なんでこの人たちに食べ物与えなければいけないと思っている若者がいっぱいいる。ガザに向かう支援物資のトラックを止めて、ガザに行くはずの食べ物を下ろし、たとえば小麦粉を道にばらまく。ガザで赤ちゃんが食べ物がなくて死んでいるのに、イスラエルの若者はそこにいくはずの物を道にばらまく。人間が人間じゃなくなる。
一方、イスラエルは2008年パレスチナ人の子どもを345人殺した。2010年は550人、そして今回はすでに1万4000人、生き残った子どもは2023年におとなになって10月7日にイスラエルを襲った。これに対してイスラエルはいまガザ攻撃している。
この計算で行くと、今回生き残った子どもはおそらく2038年ごろおとなになって、またイスラエルを襲うだろう。
●イスラエル人のPTSD
開戦2か月後の調査だが、イスラエル国民の3割はPTSDと判定された。3人に1人、その後もっと増えているはずで、へたすると2人に1人、単純計算すれば、1人の人が1人の人のメンターをケアしないといけない。これでは成り立たない。絶対破綻する。
戦争が始まるとどうしても犠牲者が増える。犠牲者とはだれか、普通に考えると、殺された人と思っている。これは正しいが、それだけではない。永遠に泣き続ける遺族も犠牲者だ。さらに殺したほうも犠牲者だ。
わたしが殺した一人ひとりにお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、もしかしたら奥さんと子どもがいたかもしれない。彼等は永遠に泣き続ける。わたしがやったことにより。それに気づくときPTSDになる。
●イスラエルとパレスチナの和平は実現可能か
日本に来ていろんな気づきがあった。代々木公園に日曜に行くといろんなイベントがある。そのイベントにキッチンカーが来る。キッチンカーでわりに多くパキスタン人、イラン人、パレスチナ人、シリア人が働いている。
わたしは日本に来た四十数年前びっくりした。えっ、近づいていいか。だって3歳からわたしの敵とずっといわれた。ずっと信じていた。恐る恐る近づくともっとこわくなる。なぜ。ケバブを削るでっかいナイフをみな持っている。でもニコニコしてるじゃないか。えっ、シリア人が人間だったと本当に気づく。笑うが、本当にそう。えっ敵じゃなかったと、そしてしゃべりだす。するとすぐわかる。わたしたちは中東にいたら敵だが、いま東京だから敵ではない。なんでもない、すぐ友達になれる。すごい、敵という概念はDNAに含まれていない。DNAに含まれれば、東京であれどこであれ、わたしたちは敵だ。でもそうではなかった。ではどこからその概念が生まれるかというと、やっぱり歪んだ教育から生まれる。生まれつきの敵はいない、世の中に。絶対にいない。
民族敵対関係は旧約聖書時代からずっと続いているかのように見えるが、そうじゃない。わたしが高校生時代の50年前、ガザとイスラエルは国境、検問所もフェンスもない。ガザに何回もいっている。ガザではおいしいコ-ヒーが安く飲める。すると気分もいいし、ガザの人は朝イスラエルへ行ってイスラエルの仕事をして、夜ガザに戻る。わずか50年前の話だ。
ヨーロッパには51か国以上ある。いま戦っているのは2か国だけ、つまり49か国は普通の生活をしている。ロシアの人口、ウクライナの人口、イスラエルの人口とガザの人口を合わせても、世界の2%、つまり98%の人は戦争していない。わたしたち戦争を止めるのは不可能ではない。98%は戦っていないなら止められないはずがない。
●地球環境にも悪い戦闘機
止めなくてはいけない。なぜなら人が死ぬ、モノが破壊される、それだけじゃない、
戦車という機械はなんだ。燃費は最低最悪。1リットルで300mしか進まない。燃料費もわたしたちの税金で払っているので国はひとつも計算する必要ない。どんどんどんどん地球温暖化を進める、この機械。つまり戦車という機械は町を破壊しながら、地球環境も破壊している。
戦車はまだ序の口、恐ろしいのはF35戦闘機、いま三沢基地にある。すでに40機ある。この機械1時間飛ぶと、使う燃料は5600リットル。1台1時間飛ぶには1800台のディーゼルエンジン車が地球を汚すのと同じ計算になる。日本はこの機械を147機保有しようとしている。1時間飛ばすのに使うおカネは600万円、うち燃料は15%くらいであとは部品とメンテナンス代。
1時間600万とはどのくらいかというと、日本の平均年収が415万円。わたしたちは汗水たらしてやっと400万手に入ったとすると、このF35は1年半分を1時間でムダにしている。
●平和の象徴、ダニーさんのハートマーク
ここまでわたしが話すと、世の中真っ暗に感じる。だが、真っ暗な世の中は80年前の日本だ。今日のような集まりはできなかった。
現在の日本では外国人のわたしでさえ、いまのところは何をいっても捕まらない、つまり世の中まだ真っ暗じゃない。このなか、いままさにグレーゾーンだ。私たちのこども、わたしたちの孫に80年前のような真っ暗な世の中を与えるか、それとも希望のあふれる世の中を与えるかは、まだどっちも選べる。子どもたちに希望のあふれる世の中を与えたければ、わたしたちおとなの責任としてこれから一番使わなければいけないのは何かというと、これだ。
示されたのは、ダニーさんが両指で作るハートマークの写真だ。平和を象徴するダニーさんお決まりのパフォーマンスだそうだ。
質疑応答のなかに、現在わたしも抱えている問題や、答えのなかで、まったく知らなかった事情が指摘された。
Q パレスチナ人とイスラエル人のあいだで、いっしょに住む話し合いができないものか?
A いやそれはできる。わたしがこどものころエジプトとは絶対に平和はありえないといわれたが、1978年平和条約を結んだ。しかもいまその地域に700万人のユダヤ人と700万人のパレスチナ人がいっしょにいるしかない。700万人だから絶対に消えない。
Q わたしたちができることで、寄付以外に何かできることはないか。
A 自分が住むいろんな自治体で「ガザ攻撃をやめましょう」という請願などを出している。自分が住む地域に、下から上に意見を上げひとつのうねりにすることが、わたしから見るといますぐにできることで、一番効果的だ。
日本は、日本国憲法を考えると、憲法前文に「日本国民は、世界の平和と考えなければいけない。世界のどの国も無視してはいけない」とちゃんと書いている。これを忘れてはいけない。ガザを守るだけではない。
Q 長崎の平和祈念式典にイスラエルを招待しなかったので、欧米の国が参加しない。
A この裏が2つある。ひとつはホロコーストでユダヤ人は本当に大変だった。それはいまやっていることとは関係なく大変だった。みな忘れない。それをイスラエルがうまく活かした。ずっとみな忘れないように、きたないくらいの活かし方をした。
もうひとつは武器産業の裏、武器産業はやはりイスラエルに武器を売り、イスラエル軍が使い「これ使えます」といったら世界中が使う。そういうことがあって、ヨーロッパやアメリカで武器をつくっている国は、イスラエルにノーとはいえない。すごく寂しいけれど裏にはそういうことがある。
Q PTSDにかかっている人が、ガザ攻撃やめようとか、ヨルダン川西岸への入植ををやめようという動きにはならないのか。
A いまのところはならない。イスラエルはものすごく右傾化していて、ものすごい右翼連立政権、どのくらいかというとネタニヤフ首相は超右派だが、自分の連立政権のなかではいちばん左派。連立政権のなかでは一番まとも。ほとんどが信者だが、信者は「神様が与えた土地、そこにパレスチナ人がいるのはおかしい。パレスチナ人をそこから追い出すのは当然」と思っている。論理の世界ではない。
☆ネタニヤフが、連立政権のなかでもっとも左とは、考えたこともない話で本当に驚いた。これでは、いま行われている停戦交渉も政権内の事情でうまくいかないかもしれない。イスラエルが、ここまでユダヤ教による強い神権国家だったとは驚いた。
ただ、この日本もわずか80年前までは天皇主権の神道国家で、似たようなことを近隣国家にやり続け、国内事情でその動きを止められなかったのだから、なんともいえないが。
会場入り口。下の絵は、日本軍の侵略をテーマにした絵本、和歌山静子「くつがいく」
☆今年の戦争展は、この講演以外にもうひとつの講演(菱山南帆子さん)、5本の映画上映のほか、展示で「パレスチナ・ガザの実態」「沖縄南西諸島」「首都圏の米軍・自衛隊基地の実態」など8つのテーマで開催され盛りだくさんだった。しかも入場料はすべて無料、カンパで成立している。
なおダニーさんの講演と質疑応答は、すべてこのサイトで視聴することができる。
●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。