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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

大事なことは市民が決める 2023札幌の住民投票運動

2024年03月29日 | 集会報告

3月23日(土)夜、板橋・志村のグリーンカレッジホールで市民って誰だ? 自治って何だ?と札幌オリパラ招致の是非を問う住民投票を求める市民運動の体験を当事者の高橋大輔さんからお聞きする会が開催された。
わたしは住民投票について、古くは新潟県巻町の原発建設(1995)、近年では辺野古埋立て問題(2018)、大阪市のIR問題(2022年)の是非を問う住民投票を求める条例案の運動は知っていたが、詳しいことまでは知らない。札幌オリパラを巡る住民投票を求める運動は、昨年東京新聞「特報面」でみた記憶があり、参加した。
主催は板橋茶論という団体で、2009年発足、話題提供者を中心に「知の地産地消」をモットーに、じっくり話しじっくり聴く会だそうだ。高橋さんは2021年まで数年間板橋在住で、この会のメンバーと市民運動を共にしていた。。
札幌オリパラ反対活動にも参加していたが、この日の講演は住民投票条例を求める市民運動に重点が置かれた。わたしはとくに市民がどのように運動を展開したかということに関心があるので、その点を中心に紹介する。

市民って誰だ? 自治って何だ?――札幌冬季五輪の招致の是非を問う住民投票を求める市民運動に関わって

     高橋大輔さん札幌オリ・パラの是非は市民が決める・住民投票を求める会 元・事務局長)
●札幌オリパラ反対運動
札幌市では、2014年11月に冬季オリンピック招致を市長と議会が決定し、招致運動を始めた。これに対し、市民は、2021-22年冬の大雪で道路除雪や上下水道のインフラに問題が生じたのでオリパラ以上にほかにやるべきことがあること、オリンピックの行き過ぎた商業主義自然環境破壊、多額の費用負担などを理由に22年ころから反対運動を起こした。
わたしがとくに問題だと思ったのは2022年3月に市民1万人対象に行った市の意向調査だった(回収率57.8%)。郵送調査の結果が賛成52.2%、反対38.2%だったので、市議会はこれを根拠に推進決議を行った。
ところが調査内容を見て驚いた。回答者は32ページにも及ぶ大会概要(案)を読まされたあと、「1972年に札幌で冬季オリンピックがあることを知っているか」「札幌市が2030年オリパラ冬季大会の開催を検討していることを知っているかどうか」など、イエスとしか答えようのない(あるいは答えにくいもの)を7問連続して出し、最後の8問めで「北海道・札幌市で冬季オリパラを開催することをどう思うか」と聞く。
イエスとしか答えようのない質問を複数答えさせると、次の質問にも「イエス」と答えやすくなる人間の心理を利用した、押売りのセールスマンが使うテクニック「イエスセット話法」の典型例だった。こういうことをやってまで、数字をつくり招致に突き進む。これは意向調査ではなく世論誘導だ。市民の声をちゃんと聞かず、市民をバカにしている。腹が立ち、絶対止めないといけないと思った。なお、調査時期の22年3月から半年ほどたった8月に東京オリンピックの汚職・談合問題が発覚した。調査はそれより前のものだ。
本間龍さんの講演会、ツイッターで同時刻にリポストを打つツイデモ、街頭デモなど、反対運動が22年3月ころから7月ころまで続いた。若い人のデモは五輪「」招致の「不」を大きく書いた横断幕を持ったり、白クマの着ぐるみを着たり「若い人のノリっていいなあ!」と感じ、いっしょにやっていて楽しかった

札幌オリパラ反対のイベントやデモ(会場でのプロジェクタ映像より)
●住民投票条例制定・直接請求運動のはじまり
この反対運動とは別に、2023年夏から住民投票運動を始めた。「別」という意味は、招致の賛否に関係なく、つまり招致賛成の人も含め市民の声をちゃんと聞いてからオリンピックを呼ぶ・呼ばないを決めてほしい、勝手にやるな」という運動だ。
札幌には、自治基本条例という市民自治を真剣に考えたすばらしい条例がある。2006年に上田文雄市長(当時)が北大の神原勝名誉教授と考えた条例で、市民は積極的に市政に関与できる。その22条に「市は、市政に関する重要な事項について、住民(市内に住所を有する者(法人を除く。)をいう。)の意思を確認するため、別に条例で定めるところにより、住民投票を実施することができる」とはっきり書かれている。
「別に条例で定める」住民投票条例地方自治法74条に定められた直接請求によって制定が可能であり、日本中各地で行われている。
地方自治法によれば、2ヵ月で有権者の1/50以上の署名を集めなければいけない。札幌市の有権者は168万人なので3万4000筆必要だ。
署名する人が請求者、請求者の代表が請求代表者、請求者を集める人が受任者で、請求代表者が受任者に地域割りをして署名簿を渡す。受任者は自分が居住する区の人しか署名を集められない。ところが請求代表者ならどの区でも署名を集めることができる。
活動の始まりは、23年7月9日今井一さん(ジャーナリスト)を講師に迎えた住民投票セミナーだった。各地の事例を情熱をこめて語る今井さんの講演で、条例制定運動をやろうというわたしのスイッチが入った。22年3月に市議会が招致推進決議を出してから、住民投票条例を求める議員提案や市民グループの請願・陳情が4回市議会に提出されたが、いずれも採択されなかった。
セミナー後の懇親会、2週間ほどの間に2度行ったミーティングで中心メンバー20人ほどが集まった。8月初めに市長宛てに「住民投票を実施する気があるかどうか」公開質問状を手渡し、初めて記者会見を行った。1週間後、市長から届いた回答をみて、16日に記者会見で住民投票条例の制定を求める直接請求運動開始の声明文を発表した。
住民投票実施を求める条例制定運動を始めるに当たり、基本的な考え方は、大事なことは直接市民に聞いて決めましょう、とりわけオリパラ招致のように、市民の声が拮抗している重要なイシューに関しては、意向を正確に把握するために(いくらでもコントロールできる調査ではなく)直接市民全員が参加できる住民投票をやるべきではないか、というものだ。だから招致反対だけでなく、賛成の人もいてよい、招致反対運動とは一線を画す、これを最初から最後まで言い続けた。当初から政党色は出さない運動にした。
また7月から市が半年ほど中断していた招致のためのパネル展や説明会を再開したので、それを市民の側からけん制するという目的もあった。
11月末~12月初旬にIOCで開催都市が内定するとの情報から、その前の定例市議会に間に合うよう署名を選管に提出したいと考えた。署名集めが2ヵ月とすると逆算してギリギリのタイミングだった。
札幌には区が10あり、8月25日を皮切りにすべての区で説明会を行った。するとどうせやるなら、受任者より請求代表者のほうが署名を集めやすいと、130人にもなった。これは前代未聞の人数で、沖縄県民投票で33人、大阪IR住民投票でも50人だった。受任者は2000-3000人集めたかったが、1200-1300人に留まった。しかしこれまでの札幌の市民運動を考えると、この数は感動ものの数字だった。
9月15日請求代表者証明書交付申請と条例制定請求書を市に提出、活動は急ピッチで進んだ。23日にオリパラ秋祭りというイベントを開催、今井さんとurbのテレビキャスター・佐藤のりゆきさんの「なぜ住民投票か?」の講演会を行った。

27日請求代表者証明書が発行され、30日から街頭署名を開始した。さっぽろテレビ塔がみえる大通3丁目で、「署名受付中!」の青旗30本、オレンジ旗30本をずらりと並べた光景は壮観だった。2種類の旗を60本並べた。
署名数は順調に伸びていった。ただ、オンライン時代、個人情報保護重視の時代に、自筆で氏名・住所だけでなく生年月日まで書かせる署名は時代に合っていないと思った。

●突然の署名活動中止
しかし、2ヵ月のつもりで始めた署名活動の終わりは予想外に早く訪れた。10月5日「2030年招致断念」のショッキングな報道が流れた。緊急ミーティングで深夜まで侃侃諤諤(かんかん-がくがく)の議論を事務所で行い、2034年の可能性が残る、ということで活動を継続することにした。しかし15日にIOCが「30年、34年2大会同時内定との方針」と報道された。これは世界的に予測外だった。
わたしたちの活動根拠として提案した「条例案」は「30年、34年」と対象を限定していた。原案では「30年以降」としていたが、アドバイザーの先生から「あまり先では世の中変わっているだろう。そんな先のことまで今の人が決めてよいのか」と指摘を受けたからだった。
当初から34年はソルトレイクシティが有力といわれており、30年は札幌市側から辞退を表明していたので、同時決定では札幌の目はなく、条例制定請求の根拠を失うことになると判断し、心ならずも署名中止・活動中止を29日に内部で決定、30日に声明文を発表した。声明のなかで「市長は2038年以降の招致について『関係諸団体と協議する』と発言しているが、協議すべき相手は市民のはず主人公はあくまで市民であることを改めて訴える」と市民不在の市政批判の言葉を盛り込んだ。
開始から1ヵ月のこの時点で集まった署名は12000筆、クラウドファンディングで20万、カンパ210万、合計230万円の資金が集まった。

●活動を行って得た成果、課題と感じたこと
たった1ヵ月の署名活動だったが、自分たちにとって大きな成果を得ることができた。
オリパラ反対ではなく、市民自治の重要性を世論に訴え、一定程度受け入れられた。
街頭での署名活動で「オリンピックには賛成だ。しかし決めるのはわたしたちに」という人が実際にいた。要は決め方であり、市民のことは市民が決める、ということだ。
メディアにも好意的に取り上げられた。

東京新聞「こちら特報部」(20238月29日(右)、10月17日
市民が直接請求の運動に参加し、選挙以外にも決める方法があることを、多くの人が認識してくれた。これは大きい。
逆に、走りながら運動をすすめるなかで、課題が多くあったことも事実だ。
運動を始めると同時に組織構築やメンバー管理、資金調達の問題に直面した。だれも住民投票直接請求運動を経験した人がいない、しかも3か月でやらないといけないという時間的制約があった。
またデジタル・デバイドの問題も大きかった。参加者には高齢者が多く、登録した850人のうちMLに参加したのは370人だけ、電話のみという人がかなり多く、緊急のお知らせを連絡できないことがあり大変だった。
大きな問題として、現行の地方自治法74条の住民投票条例制定直接請求には実務上、時代に合わない問題がさまざまある。
いまの時代に紙媒体に住所、生年月日まで書かせる、こんなものをつくること自体がおかしい。しかも受任者という謎のルール、署名などだれが集めてもよいだろう。また受任者は、同じ区内の人の署名に限定される。選管ごとに選挙人名簿があり、名簿と署名簿を突き合わせて実在者かチェックするからだ。混在していると選管のなかで分けないといけなくなる。いまの時代、「紙やめろよ、電子署名でいいんじゃない」といいたくなる。

●住民投票はなぜ必要か
そもそもの問題「住民投票はなぜ必要か」に立ち戻る。
間接民主制と直接民主制は、それぞれが阻害する関係ではなく、相互補完する関係にある。選挙は人を選ぶのに対し、住民投票は事がら、イシューで選ぶ。
選挙では、経済政策、福祉政策など複数の政策、政治姿勢、人柄など選ぶポイントは多い。総合的に判断してこの人だと、人に投票する。その人が自分が思うとおりの動きをしてくれるかというとそうとは限らない。有権者は、その人が何をしてもいいと白紙委任しているわけではない
重要な事項で、かつ賛否が拮抗していると思われるイシューに関しては、住民投票が必要だ。選挙と直接民主制とは必ずしも一致しない。一致しないからこそ、欠点を補う制度で補完させるべきである。
ただし住民投票条例制定を直接請求でやろうとすると、生殺与奪の権限は議会に残る。署名は集まったが、議会の賛同を得られなかったため住民投票できなかった事例は多い。
これに対し、一定数の署名を集めれば住民投票を必ず実施しなければいけない条例、実施必至型(常設型)住民投票条例がある。広島市、岸和田市、逗子市、豊中市、川崎市など全国で70以上の自治体が持っている。ただし有権者に対し1/4、1/6など署名のハードルは格段に高い。
このタイプの条例をもつメリットは議員や議会へのけん制効果だ。当選すれば何をしてもよい、と思わせない。ひどいことをすると住民投票をしかけられる、というけん制だ。

最後に重要なこととして、この運動に参加した人の多くが市民運動が初めてという人だったことがある。しかも若い人の場合、これまでバーチャルでしか動いたことがなく、リアルで直接、市民運動に参加するのは初めてという人もいた。少しだけバーチャルとリアルをつなぐことができた。

お話を聞いて、市民運動への参加が初めての人、さらに若い人が参加する運動をつくれたとは、すごいことだと思った。たいていの市民運動は70代半ば、いわゆる団塊の世代が主力で60代半ばでも若手に分類される。そこに、20代、30代の人が加わる運動をつくり出せたというのは、すばらしいし、うらやましい。
かつて教育基本法反対のときに、須黒奈緒さんなど若い人がそれまでのデモを「パレード」と呼び変えたり、2011年ごろ素人の乱の松本哉さんたちの原発反対サウンドデモが話題になったことなどを思い出した。
またこの3年新型コロナ禍で大学もオンライン授業が多かった事情もあり、若い世代はオンライン会議しか体験したことがなく、顔を付き合わせるリアルの討論は新鮮という話を聞いて驚いたたことがあったが、これも時代だと思った。

☆「大事なことは自分たち市民が決める」の国政版、「国民発議」の運動をしている団体INITの方が参加していて、短いスピーチをされた。
いま国民が自分たちの声を国に届けるには、代議士を通すか、世論調査やデモしか方法がない。国政には直接請求がない。イエス・ノーを自分たちでしっかり意思をもって決めることを権利として持つ制度が必要だ。主権者としての意識、そして民主主義をより高めることになる。ぜひ国民発議(イニシアティブ)の解説動画(5-7分を4本)をみていただきたい。いま賛同者が300人になった、とのことだった。
たしかに辺野古埋立、日本の軍事国家化、原発廃止など、国民の声で直接国の方向を決めたいイシューは多くある。司法でも地方自治の住民訴訟制度はあるが国政には制度がない。せいぜい国賠訴訟くらいだが、たいて門前払いされるか、統治行為論で却下され、うまく機能していないので、意義が大きそうだ。動画はこのサイトでみられる。

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。

☆住民投票条例の根拠、署名開始のタイミング、活動中止の判断の3か所を少し補足修正しました(2024.4.9 )。


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