多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

気分はアドベンチャー・ツアーだった藝祭見物

2024年09月13日 | 美術展・コンサート

初めて東京藝大の名物学園祭・藝祭2024に行った。9月初めに3日間開催されることは知っていたが、なかなか日程調整できず訪れたのは今回が初めてだ。
美術学部と音楽学部の間の公道に、いきなり4匹の怪獣のハリボテが展示されているのに出くわし驚いた。写真は孔雀だが、その他、獏、閻魔、神鳥・ガルーダ、4チームの神輿だった。

日本画・工芸・邦楽チームが制作した「孔雀」。上野6丁目商店街連合会賞を受賞
まず、美術学部デザイン科の展示を総合工芸棟でみた。2月の卒業・修了作品展のときも面白かったが、今回もなかなか意表を衝く作品をいくつもみられた。
たとえば、赤みの肉や内臓、頭、足などをリアルに描いた「血肉」、タイトルもゾッとするような響きを感じさせる。
「丁寧に食べるの、面倒じゃない?」は、焼魚の身の食べ方で「綺麗に食べる」「汚く食べる」を写真で比較し「ごまかしプレート」という汚い食べ跡をプリントした皿を用意すれば、どちらでも見かけは同じというもので、身近な題材にアイディアを加えた点で面白かった。

「月日」は、3人くらいの作家の合作で4月のある日の絵日記を十枚くらいカレンダー風に展示したものだった。2月のときも書籍、マンガを利用した作品をみたが、絵+文字の展開はまだまだ可能性があるように思えた。

「SAWARI 言葉のいらないコミュニケーション」は三味線のサワリの体験から思いついたことをヴィジュアル化した作品だ。「SAWARI」とはユーチューブで調べると「一の糸」の開放弦を弾いたときに発生する共振音のことらしい。「本来は雑音とされてしまうその音を、日本人は美しいと捉え」「素材を素直に使って生まれる音をありのままに響かせて伝えるコミュニケーション楽器」と理解している。「無駄のない曲線」「前へ伝わる自分の音」「全身で感じる振動」「探ってつかむ音階」などの特徴に着目して写真を入れたパネルをつくり、さらに「私の美しいと思うもの」(木のカトラリー、竹細工、ちまき、網」など)、「私の好きな音」(三味線、お囃子、卒業証書の筒のポン」など)という自分の好みを絵と文で表現したパネルも加えたもので、なかなかおもしろかった。
額縁だけあり、肝心の絵は空白という作品があった。何だろうと思うと「高校からの親友を額縁にした。インタビュー等を通して100ページにわたるリサーチノートを作成した」と解説が付いていた。たしかにテディベア、虎、アヒル、ウサギなどが彫り込まれている。
わたしがみたのはデザイン科2年生と3年生のクラスが中心だったが、数人のグループ展も多かった。聞くと2年生は46人もいてそのうち35,36人が出展しているとのことだった。かつて中心だった油画がいま何人なのかは知らないが、デザイン科が一大勢力になっていることを知った。

つぎに中央棟で短編アニメの上映をみた。見たのは、1分半から6分弱のもの9本だ。はじめに「みみみとうちゅうじん」という作品をみたが、絵も音楽もかつての東映動画のレベルに達しており驚いた。ストーリーのあるもの、抽象画を動くようにしたタイプのもの、かつての実験アニメのような作など、作風はさまざまだった。なかには音楽や効果音などを分業で行ったチーム合作の大がかりな作品「ミッドナイト・スペシャル」もあった。
総じてレベルは高く、音楽同様、日本のアニメ業界の未来は明るいと思った。
藝大映像研究科の校舎は横浜市中区にあり、学部なしの独立大学院で、修士には、映画、メディア映像、アニメの3専攻がある。スタッフに聞くと、1学年15人、うち1/3は韓国、中国を中心とする留学生だそうだ。機会があれば、映画作品もみてみたい。

奏楽堂のパイプオルガン。真ん中が奏者、下の大型ディスプレイに拡大映像が映し出される
次に、13時チケット配布、15時50分開演のオルガン科公開演奏を聴きに奏楽堂に向かった。演奏者10人、一人1曲だが、2時間半くらいかかる。
この日、わたくしが聞いたのは前半の下記6曲。
1 ブクステフーデ暁の星はいと美しきかな
2 J.S.バッハ「無伴奏バイオリンのためのソナタ第1番」よりアダージョ、フーガ
3 カウフマン「怯むな、不安な心よ」
4 レーガー 「モノローグ」op63より「6 パッサカリア
5 メシアン「精霊降臨祭のミサ」より「4 鶏と泉」「聖体拝領」「5 御霊の風、退堂」
6 コシュロー「シャルル・ラケ」の主題によるボレロ

わたしはオルガンというとサン=サーンスの交響曲3番オルガン付きで迫力ある演奏を聴いたことはあったが、ソロはもしかすると海外旅行先の教会で聞いたかもしれないが、記憶にはない。
作曲家もブクステフーデ、カウフマン、コシュローなどわたしが初めて聞く人名が多かった。
司会から今日のプログラムは「オルガンのおもちゃ箱」と紹介があったが、18世紀のブクステフーデ、バッハから20世紀のレーガー、メシアンまで、またソロだけでなく、声楽や打楽器とのアンサンブルなど多岐にわたる演奏会になっていた。
バッハの曲はもちろんヴァイオリン曲だが、演奏者が自ら編曲したという。カウフマンはソプラノ独唱とヴァイオリン2丁との室内楽、メシアンは小太鼓とトライアングル、シンバル、もう1台の小太鼓との合奏と、多彩な音楽を楽しめた。オルガンは「小さなオーケストラ」といわれるだけあり、レーガーでは強弱のダイナミクス、メシアンでは音色のバリエーションを感じさせた。オルガニスト出身の作曲家や指揮者、たとえばブルックナー、フランク、カール・リヒターのようによく聞くが、なるほどそういうことかと納得できた。
コシュローは、ラヴェルのボレロと小太鼓のリズムも弱から強への盛り上がりも同じだった。ただしそのあと強から弱への収縮が付いているところが違う。大掛かりな装置楽器なので、なかなか演奏を聴くことが少ないので、いい機会になった。
大掛かりといえば、アシスタントも楽譜をめくるだけでなく、ストップを切り替えたり、ずいぶん横長の椅子のなにか調整もしているようだった。
そのあと、ブラームスの弦楽五重奏曲(第2番ト長調 Op.111)キャンセル待ちの列に並んでみた。前に数十人いるので、ムリかと思ったが20分ほど待つと、夕方17:50開演の遅い時間だったせいもあり、全員入場してもまだ数席空席があった。時間の関係で残念ながら2楽章までしか聴けなかったが、なかなかの出来だった。とくに豊島さんのチェロがピチカートも含めよく響いていた。
会場は1階の2ホール、わたしははじめて入ったが200人ほどは入れそうだった。大小いくつもホールがある様子だ。

オルガンコンサートのプログラムと藝祭2024の公式パンフ。パンフは158p、厚さ10㎜もあり定価1000円。しかし展示1つにつきとても小さい字で40-70字の説明しかないので、セレクトにはあまり役に立たない。
ところで、この学園祭はじつに歩き回りにくかった。総合工房棟、中央棟などの建物を探し出し、目的のフロアまではなんとかたどり着けたが、そのなかの、パンフの地図上の展示番号のある教室を探し出すのは至難の業だった。それで恥ずかしながら、教室に入り、運よくスタッフに巡り会えれば「ここは、この地図のいったいどこなのでしょうか。この部屋はいったいなんの展示をしているのでしょうか」と聞くことから始まる。驚くべきことに、「このパンフの地図には出ていないかが、このあたりだ」と返事が返ることもあった。またたんに展示場として利用しているだけなので、聞いた相手が自分がどこにいるのか、把握していないこともあった。そんな特殊事情もあり予想以上に時間がかかった
そういう点でおかしかったのは、5年半前に惜しまれつつ閉店した大浦食堂が1日だけ出店するという話を聞いていたので、学園祭本部で聞くと、野外特設ステージ近くの屋台だという。いちばんステージに近いところの店で聞くと、北の端ではないかという、ところがそこに行くと知らないという、仕方なくステージから3つ目で聞くとやはり「わからない」、ためしに隣の4つめで「はい、こちら犬浦食堂」ですとの返事、ただし売っているのは1000円の角煮丼のみ。あまり大浦らしくない。それよりは食堂前の「飯庵」の大盛りバタ丼500円のほうがよほど大浦らしかった。
最大の誤算は、展示の終了が16時半だったことだ。藝祭そのものは19時までと書かれていたので、そのつもりで18時頃ブラームスの演奏を抜け出しあわてて見にきたのだが、「万事休す」だった。そんなことで、おそらく1割もみていないと思う。
展示にせよ演奏にせよ、2月の卒展、演奏会のほうがレベルは高いと思う。しかしこちらはなんといってもお祭りだ。土曜午後だったので、一般客の人の波がすごかった。その雰囲気を楽しむのなら藝祭だろう。
かつて「最後の秘境 東京藝大――天才たちのカオスな日常」(二宮敦人 新潮社 2016.9)という本を読んだ。たしか藝大のさまざまな学科には天才肌の「おかしな人」がたくさんいるという話だったと思う。祭りにおいても、音楽学部のほうはわりとまともだが、美術展示の「混沌」はなかなかのもので「アドベンチャー・ツアー」に参加したような気分になった。
来年もう一度行くなら、金曜朝か日曜昼の神輿パレードをみて、まず主だった展示をみてから演奏会のキャンセル待ちに並ぶのがよいかもしれない。今回は13時前に着き18時半ころ出たが、人が多くなかなか歩けず、並ぶ時間もあるので、とても時間が足りなかった。

帰りに都立上野高校の前を通りかかった。もちろん閉門後だが東叡祭という文化祭をやっているようだった。東叡という名は、東叡山寛永寺からきているらしい。藝大の隣なので、その影響を少し受けた文化祭かもしれない。

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。

 


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