「何ということを! あなたのお考えでは……」
「私は何も考えてなどおらぬ。私が掴まるに足る支えであった間は、お前は私に献身的だったな……ところが私がぐらつくと、すぐにも私を裏切ろうとする」
「お言葉ですが! 私が今までどれだけ奔走してきたか……」
「何を言う! そうするしかなかったからではないか?」ド・ヴァロルセイ侯爵はすばやく遮った。そして肩をすくめて続けた。
「誤解しないで欲しいのだが、お前のことを非難するつもりは毛頭ない。ただ、このことは忘れないで貰いたい。我々二人が生き残るにせよ、滅ぼされるにせよ、一蓮托生だということだ」
ド・コラルト氏の目を一瞬よぎった炎によって、侯爵はこの協力者が自分に抱いている憎悪と反逆心のすべてを理解した。しかし彼は不安そうな様子も見せず、今までと同じ氷のような態度で先を続けた。
「それに、お前の計画は私の目論見の邪魔になるどころか、却って後押しをしてくれる……。もちろん、マダム・ダルジュレはド・シャルース伯爵の遺産相続に名乗り出るだろう。もし彼女が躊躇したとしても、彼女の息子が何としてでも強制する筈だ。そうではないか?」
「ああ、その点は確かですとも」
「その息子が金持ちになった時でも、お前は彼に影響力を持っているんだろうな?」
「あんな奴! 金持ちになろうが、そうでなかろうが、いつでも一捻りにしてみせますよ」
「そうか、それは結構だ! マルグリットが私の手から逃れたとしても、私はまた彼女を捕まえてみせる。考えがあるのだ。ああ、あのフォンデージ夫妻が私を相手に一泡吹かせることが出来るつもりでおる! この勝負がどうなるか、お手並み拝見と行こうではないか……」
ド・コラルト子爵は彼をこっそりと観察していた。彼はそのことに気づくと突然丁寧な口調に変わって言った。
「これは失礼。昼食にお引止めしなければならぬところなのに、私は出かける用がありましてな……トリゴー男爵がお宅で私を待っておられるのですよ。それでは、恨みっこなしでお願いしますよ。ではまた。くれぐれも情報は教えてくださいよ……」
ド・コラルト氏はド・ヴァロルセイ侯爵邸にやって来たときは少し不安を持っていたのだったが、帰る際には怒りで震えていた。
「なんだ、あの言い草は!」彼は唸り声を上げた。「生きるも死ぬも一蓮托生だと! ふん、道連れに選んで頂くとは光栄の至りだ……あのクソガキが金を遣い果しちまったのが俺の責任かよ! まったく!あいつの脅しと偉そうな態度にはもううんざりだ!」12.7