エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-IV-18

2022-12-10 10:31:21 | 地獄の生活

 とは言え、彼の怒りは自分のもとに大金が転がり込んでくることを忘れさせるほどのものではなかった。彼にはまだしなければならないことが残っていた。ウィルキー氏にサインさせようとしている証書の合法性を確かめることである。

法律の専門家に相談すると、妥当な条件のもとに作成された契約は、もし裁判で争うことになった場合、非常に高い確率で証拠として受理されるであろうという答えが返って来た。しかもこの専門家はちょっとした案を提案してくれさえした。それはこの分野における傑作とも言うべきものだった……。

まだ正午にもなっていなかったので、彼には十分行動する時間があった。そのときになって彼はウィルキーに二日待てと言ったことを苦々しく後悔した。

「ウィルキーを見つけなければ」と彼は自分に言い聞かせた。

しかし彼がウィルキーを見つけたのは夜になってからだった。彼はカフェ・リッシュにおり、その状態たるや酷いものだった……。夕食の際に飲んだ二本のワインの所為ですっかり有頂天になり、自分が金持ちになったらあれをする、これをすると大声で並べ立てていた。

「手の付けられない阿呆だな!」 彼の怒りは心頭に達していた。「あいつを野放しにしておくとどんな馬鹿を言ったりしたりするか知れないぞ……躊躇しているときじゃない。やつに付いていなければ」

というわけで彼はブレバンの店まで着いて行き、ウィルキーが馬鹿な考えを起こしてヴィクトール・シュパンを上がって来させたときの彼は退屈で死にそうであった。しかしそこで繰り広げられた場面は彼を激しく動揺させるものだった。自分を知っていると言うこの若造は一体何者なのか。自分の過去を知り、自分にとって最もおぞましいあのポールという名前を自分に向かって投げつけたその男に彼は全く見覚えがなかった。しかし彼を震撼させるには十分であった。この若造はウィルキーが帽子を落としたとき何故その場にいて帽子を拾ったのか? 偶然か? いや、彼は偶然など信じなかった。では何故だ? 彼は『尾行して』いたのだ。つまり誰かをスパイしていたのだ。そうだ、そうに違いない。では誰を? この俺、コラルトをだ……。

彼のような人生を歩んでいると至る所で敵を作ることになり、確かに彼には山のように敵がいることは分かっていた。敵を威圧する手段としては彼の非凡な鉄面皮ぶり、それに決闘を辞さない剣客という評判だけだった。12.10

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