エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-IV-15

2022-12-01 14:18:43 | 地獄の生活

ウィルキー氏は相手にそれ以上言わせなかった。彼は信用し、喜びが抑えられなくなり、興奮の頂天に達し気が変になりそうだった。

「分かりましたよ、もう十分です! 僕たちの間でややこしいことなんてなしですよ、子爵! それはこれからもずっと生涯変わりません。僕の言うこと、お分りですよね。いくらご所望ですか? 全部?」

しかし子爵の方は氷のような冷静さを崩さなかった。

「どれぐらいの手当が相当か、私が自分でそれを決めるのは適当ではないでしょう」と彼は答えた。「専門家に相談してみます……。この点については明後日、貴方に提示をした上で正式に取り決めましょう」

「明後日ですね! 四十八時間の間僕をハラハラドキドキの状態に置いておこうってことですか……」

「そうすべきものと考えます。私自身、まだいくつか情報を集めねばなりませんし……。私がこうして急いでやって来たのも、すべてが明らかになる前にお話しするのも、貴方に十分に用心して貰いたいと思ったからです。どこかのたかり屋が擦り寄って来て何らかの提案をすることも考えられます。用心するのですよ。相続に首を突っ込む機会を見つけようものなら骨までしゃぶり取る悪党もいますからね」

「では、相続に関係した財産なんですね?」

 「そうです……誰との交渉にも応じないようにしてください」

「ああ、その点はご安心ください……」

「もし紙に書いたものをいただければもっと安心なのですが」

ひと言も発さずウィルキー氏はテーブルまで走って行くと、簡単な契約書の文言を書きつけた。自分に相続の生じることを知らせてくれたフェルナン・ド・コラルト氏にその半分を支払うことに同意する、と。

この同意書をコラルト氏は読み、自分のポケットに滑り込ませると言った。

「それでは、月曜に!」そして帽子を被った。

しかし既にウィルキー氏は陶然とした状態から冷め始め、警戒心が再び頭を擡げた。

「ええ、月曜に。でも、僕のこと、かついでるんじゃないって誓ってくださいよ」

「え? まだ疑っているんですか? では、どんな証拠なら納得してくれるんです?」

ウィルキー氏は一瞬たじろいだが、突然勝利の予感が閃き彼の脳みそを照らしたようだ。

「貴方がそう仰るなら、大丈夫ですね」と彼は言った。「僕はもうすぐ金持ちになるんだ……でもその間も人生は続きます。僕は一文無しなんです。全くもって冗談ごとじゃありません。僕は馬を持っていましてね、明日レースに出るんです。『ナントの火消し』っていう馬で、貴方もよく御存知だと思います。優勝する可能性はすごく高いですよ。なもんで、もし五十ルイ貸して貰えたら、その……」12.1

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