エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-IV-20

2022-12-13 09:14:59 | 地獄の生活

 「貴方が受け取る財産は、ド・シャルース伯爵の遺された遺産です。伯爵はあなたの伯父

なのです。推定では、総額八百万から一千万フランと言われています」

このときのウィルキー氏の痙攣的な身体の動きや目の異様な光を見れば、人は彼がこの途方もない幸運の衝撃に耐えきれず精神に異常をきたしたと思ったかもしれない。

「ああ僕がどこかの名門の生まれだということは分かっていたよ!」と彼は叫んだ。「ド・シャルース伯爵が僕の伯父だなんて! それじゃ随分高い地位じゃないですか!同級生の鼻を明かしてやれるぞ! 名刺の隅に王冠を印刷しよう。こりゃいいぞ!」

ド・コラルト氏は身振りで相手を黙らせた。

「いいですか、喜ぶのはちょっと待って」と彼は言った。「そう、確かに貴方の御母上はド・シャルース家の娘で、あなたはその方を通じて相続することになる。ただ……あまりがっかりさせたくはないのですが、名門の家系には不幸な例が多くあることは事実です。時に非常に頭の固い親族がいるという場合もあります。愛情が強すぎて理性を失ってしまう場合というのが……」

ド・コラルト氏は実際にそのような実例を知っていたわけではなかった。それでも、この受益者である青年に彼の母親がどんな人間であるかを教えるに際し、抵抗を感じていた。

「それで?」とウィルキー氏は先を促した。

「そうですね、あなたの御母上が二十歳の若い娘さんだったときに、父親の家から逃げ出したのです……ある男と恋仲になり駆け落ちしたのでした……やがて捨てられ、酷く惨めな境遇に陥りました。それでも生きていかねばならないでしょう? あなた方は食べるにも困っていた。彼女は名前を変え、現在ではリア・ダルジュレと名乗っています」

ウィルキー氏はこの名前を聞いて飛び上った。

「リア・ダルジュレ?」

そして大声で笑い出し、付け加えた。

「どうでもいいですよ、そんなこと。手に入れますよ、ちゃんとね!」

コメント