いつもの彼はこの上なく抜け目のないプレイヤーなのに、危険な手ばかり続け、何も考えていないかのように出鱈目なプレイぶりだった。何もせずぼんやりしていたのでは怪しまれると恐れたのか、彼はやみくもに親と同額を掛けるバンコを繰り返していた……失った金を取り返そうと必死になっているという風に……。親になったときの彼は更に酷かった。ツキが回ってきたというのに彼のやり方は無茶苦茶だった。例えば手札に七が来たとき、相手に仄めかしを与えた後でカードを引く、という具合でね……。(バカラは二人が二枚のカードを引き、合計した数字の1の桁が9に近い方が勝ちというゲーム。10以上のカードは0とカウントされる。他のプレイヤーは二人のうちどちらが勝つかを賭けて遊ぶ) やればやるほど彼の出鱈目ぶりが明らかになり、周囲から夕食時に飲みすぎたんじゃないのか、と笑われる始末だった。必要ならば、このことを証言してくれる者はたくさんいますよ。それだけじゃあない。あの裏切り者はじりじりと火に焼かれてでもいるかのように苦悶の表情を浮かべていた。恐ろしく自制心のある奴だが、身体中から汗が噴き出していた。ドアが開け閉めされるたびに、彼の顔色が変わった。まるで貴女かウィルキー、あるいは両人が一緒に現れるのを待っているかのように。それに、奴が懸命に聞き耳を立てているところを私は十回は見ましたよ。なんとか意志の力でもって貴女とウィルキーが話している内容が聞こえないものかと念じている様子で……。あの瞬間なら、たった一言で私はあの男に白状させることができた筈だ!」
これらの言葉は非常にもっともらしく聞こえたのでマダム・ダルジュレは半分信じたように見えた。
「ああ、貴方がそのひと言を言ってくれさえしたらねぇ」と彼女は呟いた。
男爵は人を見透かすような陰険な笑いを浮かべた。もしド・コラルト氏が見たとしたら縮み上がったことだろう。
「私はそれほど柔じゃない!」と彼は答えた。「罠を仕掛けたときは、水を掻き回して魚を怖がらせたりしないものですよ。我々にとっての罠は、ド・シャルースの遺産です……しばらく泳がせておくのですよ……コラルトとヴァロルセイはきっと喰いついてきます。この計画は私が立てたんじゃない。フェライユール君ですよ。あれは大した男だ。もしマルグリット嬢が彼にふさわしい娘さんなら、二人は素晴らしいカップルになります。さて、貴女の息子は自分でも気づかずに、今夜大いに我々の役に立ってくれたのですよ……」
「情けないことだわ……」とマダム・ダルジュレは力なく呟いた。「それでもやはり私にとっては身の破滅だし、ド・シャルースの名前が穢されたことに変わりはないのね……」
彼女は客たちのいるサロンに戻ろうとしたが、この考えは断念せざるを得なかった。彼女の顔を見ただけで、何か酷いことが起きたということが誰の目にもはっきり分かるほどだったからだ。
しかし使用人たちはウィルキー氏の言葉を聞いていたので、このことは電報も顔負けの速さで広まった。この夜のうちに、パリ中の社交界の人々がこの噂を耳にすることになった。マダム・ダルジュレの館でもうゲームが行われることはないであろうということ、彼女がド・シャルースの一族であること、従ってマルグリット嬢の叔母であるということ、そしてこのマルグリット嬢がフォンデージ夫妻のもとに迎えられるようになったことを。
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