エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-VI-27

2023-04-11 12:33:01 | 地獄の生活

 「先日私を訪ねてきた男よ、イジドール・フォルチュナとかいう……。ああ、あのときあの男にお金をやれ、とどうして貴方は言ってくださらなかったの……」

 男爵はすっかりその男、ヴィクトール・シュパンの雇い主、の存在を忘れていた。

 「貴女は間違ってますよ、リア」と彼は答えた。「フォルチュナ氏はこのことは無関係です……」

 「それじゃ一体、誰が話したと仰るの?」

 「もとは貴女の側についていた男、彼がパスカル・フェライユールを陥れるのを貴女が許したその男、ド・コラルト子爵ですよ」

こう指摘され、怒りが瞬間彼女を貫いた。そのため少し元気を取り戻したらしく、彼女は立ち上がった。

 「まぁ、もしもそれが本当だったら!」と彼女は叫んだ。それから、男爵がド・コラルト氏を憎む理由が頭に閃いたので、彼女は呟きながら再び座った。

 「違うわね。貴方は恨みのために判断が曇らされているんだわ……。彼はそんなことしないでしょ」

 彼女の頭の中の考えを男爵は読んだ。

 「つまり貴女は、私がしようとしているのは個人的な復讐だと思っているんですね。ド・コラルト氏を攻撃すれば、私が人から嘲笑されたり醜聞を立てられるから、それを恐れるがために、他の人の名前で彼をやっつけようとしている、と。確かにそういうことも以前は言えたかもしれん……だが今は違う! フェライユール君に彼の恋人であるマルグリット嬢、それは私の妻の娘でもあるのだが、を救うためにどんな協力でもすると約束したそのときから、私は我欲は棄てた。ド・コラルト氏の裏切りを疑うのは何故なのです? 貴女自身、彼の仮面を剥いでやると私に約束していたではないですか。もし彼が貴女を裏切り、敵に貴女を売り渡すようなことをしたとすれば。可哀想なリア、あの男は獲物を誰よりも早く手にすることしか考えない奴ですよ」

 マダム・ダルジュレは何も答えず、頭を垂れた。そのことも彼女は忘れていたのだ……。

 「貴女にも分かる筈です。これは単なる私の勘ではなく、確かなことなのです。貴女が出て行った後、私は無駄にド・コラルト氏を観察していたわけではない。貴女が名刺を渡されたのを見て、彼は顔が真っ青になった。何故か? 彼は知っていたからですよ。その後どうなるか、は必然の成り行きです。明らかなことです。貴女が部屋を出て行った後、彼の両手はぶるぶる震えていた。もはやゲームをする精神状態ではなかった。4.11


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