エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-IV-19

2022-12-12 10:03:53 | 地獄の生活

 ただ単に誰かが彼に罠を仕掛けたということではないのか? そもそも既に何らかの罠が仕掛けられていないというのが奇跡的だった。この垣間見えた危険があまりに大きく思えたのでマダム・ダルジュレに対する彼の計画を諦めようかとさえ思ったほどだった。この婦人を敵に回すのはあまりに無謀なことではなかろうか? 日曜は丸々躊躇に費やされた。手を引くのはごく簡単なことだ。なにかホラ話をでっち上げてウィルキーに告げればそれでしまいだ。しかし、少なく見積もっても五十万フランもの大金をそんな風にふいにしていいものか……。ひと財産、独立した暮らし、将来の安定……。いや駄目だ。金輪際そんなこと出来るものか、あまりにも大きな誘惑だ!

 というわけで月曜日十時頃、気持ちの昂ぶりに顔色も蒼ざめいつもより謹厳な面持ちで彼はウィルキーのもとを訪れた。

「単刀直入に」と彼はぶっきらぼうに切り出した。「話しましょう。貴殿が大金を手にする理由を。しかし、貴殿がその秘密を私から得たということが知られればそれはおそらく私の破滅となります。従って、貴殿に誓って貰わねばなりません、貴殿の……ええと名誉にかけて。いかなる状況であろうと、いかなる理由があろうと、私を決して裏切らない、と」

 ウィルキー氏は手を差し伸べ、厳粛な態度ではっきりと言った。

「誓います!」

「それで結構! これで私は安心できる……。このことは付け加えて申すまでもないでしょう。貴殿がもし口外するなら命はない、と……。よく御存知ですな、私の剣の腕前を? どうか、お忘れなきよう……」

 彼の威嚇に相手は震え上がった。

「もちろん人からは尋ねられることでしょう」とド・コラルト氏は言葉を続けた。「聞かれたらこう答えるのです。パターソン氏の友人がすべてを教えてくれた、と。さて、それでは契約書のサインです」

 ウィルキー氏は中味も検めずサインした。

「さてと」と彼は言った。「問題の……何百万という金だけど……相続財産の!」

 しかしド・コラルト氏は今一度契約書を検めた。それが終わると宣言した。12.12


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